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日野行介『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』 : 「国民など欺けばいい」というホンネ

書評:日野行介『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)

著者が序章にも書いているように、本書の眼目は「除染にまつわる政府の欺瞞の暴露」に限られた話ではない。
その手の本はたくさん出ているし、すこし問題意識のある人ならば、いまさら知らされるまでもない話だと言えるだろう。しかし、そう考えて本書を購読をひかえるとしたら、それは間違いだ。

本書では、隠されていた内部資料を掘り起こし、あるいは当事者の言葉を引き出して「この国の政治の現実(内幕)」を赤裸々に暴露している。
政治家や役人や学者たちの、身も蓋もない「生の声」を聞かされれば、推測的にならば知っていた事実を裏づけられたに過ぎないにもかかわらず、あらためて愕然とせざるを得ない。これが現実だと頭では重々わかってはいても、それでもあらためて絶望感に捕われざるを得ない。

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例えば、汚染土の処理に関する、役人と学者のプロジェクトチームの検討会で話され、議事録から削除されていた言葉には、次のようなものがある。(※印は、レビュアーの補足)

『「8000(※ベクレル)までいけます(※大丈夫)というのが非常に分かりやすいと思う。そこからシナリオ逆算したらいけないんだけど、議事録に残してもらったら困るんだけど、実質それで問題ないと思う。その考え方自体がいけないというのならあれですが」』(P179)

『「この(※会合メンバー用の)議事メモというのもこれまで割と細かく、先生方の名前が入った形で議事録を配布していたが、(※国会でその存在を指摘されたので)これはいったん破棄してもらって、将来的に公開ということになったも支障のない形で第一回から第四回までの議事録を改めて作らせてもらいたい。配布資料についても、公開にふさわしくないものは資料一覧に載せずに、席上配布という形で、この場限りの参考のものということで取り扱いを分けさせていただきたい」』(P180)

また会合メンバーたちは、汚染土問題のよりよい解決ではなく、いかに「表現の言い換え」などで国民を欺くかという姿勢で議論していたのを示す発言もあった。そしてそれは、一部メンバーの心得違いによる失言などでは決してなく、検討会主催者の意向に基づく、会合全体の方向性と雰囲気を反映するものであった。

『「8000ベクレル/キログラムってゼロが三つも並ぶけど、8キロベクレル/キログラムとか8ベクレル/グラムとも言える。小数点以下なんか小さく見えるし、それだといいなあと思ったりする」』(P181)

『「まあ、我々みたいに作文の得意な人はみんなそう思う。まあ議論に反対する人はいない。問題は各論。自分のところに(汚染土が)来たときに、日本のためお国のために我慢しろと言えないといけない」』(P182)

あるいは汚染土などを最終処理まで一時的保管する場所としての「中間貯蔵施設」に関しては、実は最初から最終処分場など見つからない可能性の高いことが、政府内部では暗黙の了解事項になっていたと、元政治家や官僚は言う。

『「あくまで仮置き場であり、『最終処分場』と言ってはいけないということだ。そう言わないと福島県が受け入れてくれない。だから中間貯蔵施設というネーミングになった」』(P214)

『「(※中間貯蔵施設の敷地が、想定された貯蔵量よりもずいぶん広い理由は)敷地内に一応、溶鉱炉とか管理棟とかあるでしょ。あれが大事なんだ。ただのゴミ捨て場と言われないようにするためにね。一応減容化しますよと、暫定的な置き場ですよ、というロジック(論理)にできるから。それに溶鉱炉とか研究所ができていけば、将来的には地元にとって必要な施設ということになる。原子力行政全般にあるフィクション(虚構)だけど、原子力ってこのウソの大きさが面白いよね。面白いって言ってはいけないのかもしれないけど」』(P218)

著者は、序章の冒頭でこう書いている。

『 二〇一一年の東京電力福島第一原発事故に伴う放射能汚染対策の実態を知ることは、国家の信用と民主主義の基盤が破壊された現実を直視することである。
 実は、この数年間に国政を揺るがした問題は3・11に付随する問題とすべて同根なのである。南スーダンに派遣された陸上自衛隊の日報隠蔽問題、森友・加計の両学園問題、裁量労働制に関する厚生労働省のデータ問題、施政に関する公文書の隠蔽、改竄、意図的な削除、説明責任の放棄、責任の所在の不明確さ、国民無視……。
 判で押したように、同じことが行われている。中央政界の腐敗のずっと以前から、この国の崩壊は始まっているのだ。』(P10)

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著者のこの見解を大袈裟な牽強付会だと言えるだろうか? 原発事故関連問題はあくまでも「特殊な例外」であり、他の問題も「たまたま」であり、基本的にはこの国の政治は、根本的に腐っているわけではない、などと思えるだろうか? あるいは、こうした否定的事実は、すべて「左翼マスコミ=マスゴミ」のでっち上げだと言うのだろうか?

だとすれば、その国民は、政治家や官僚にいいように騙されるだけの「おめでたい阿呆」である。

初出:2020年3月19日「Amazonレビュー」
   (同年10月15日、管理者により削除)

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