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日本で現出した オーウェル的悪夢 : 吉村萬壱 『ボラード病』

書評:吉村萬壱『ボラード病』(新潮社)

 本書は、雑誌掲載時に文芸評論家を中心に話題になった作品である。
 しかし、なにしろ純文学誌での掲載ゆえ世間的な話題にはならなかったが、今回(※ 2014年)の単行本化を期して、広く話題になることを期待したいし、また期待できる傑作だと言えるだろう。

 見出しにも記したとおり、本作はオーウェルの『1984』を彷彿とさせるディストピア小説であるが、『1984』のようなSFSFした作品ではなく、今の日本の現実に立脚した、極めて挑発的な近未来フィクションである。

 先頃、マンガ『美味しんぼ』の「原発事故に起因する放射能の影響による鼻血」描写が、きわめて政治的なバッシングに晒されたところであるが、それならば本書もまた同様のバッシングに晒されて然るべきべき作品であるはずなので、『美味しんぼ』を叩いた皆さんには、是非とも本書を「読んでから」、派手に批判していただきたいと思うし、それは作者の望むところでもあろう。

 ちなみに、本書を「傑作」とさせているのは、決して『1984』にも似たアイデアなどではなく、『1984』にも似た、作者の黒い怒りが滲み出ているからである。つまり、本書は「頭で作り上げた」作品ではなく、作者自身の「世界へのスタンス」によって生み出され「書かずにはいられずに書いた作品」としての、必然性の力を持っているからだと言えるだろう。

 とにかく、本作あるいは作者の想いを肯定するにしろ否定するにしろ「日本人ならば、いま読むべき本」である。そして、本書がその批評性の故に「増刷停止」にもでもなれば、今度はブラッドベリの『華氏451度』とも比較される作品になるだろうから、本好きの皆さんには、早目の購入をお勧めしておきたい(笑)。

初出:2014年6月16日、Amazonレビュー
  (2021年10月15日、管理者により削除)

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