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ゴールのないエッセイ修行

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考え練った文章。エッセイってなんでしょうか。
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、の後

、の後

涙が溢れてくる。

今日の予定にソワソワしながら洗濯機を回し、掃除をする。出かけるのは昼ころだから、まだ時間に余裕がある。しばらく続いていた肌荒れも落ち着いてきたし、シートマスクをつかおう。マスクをとった肌はこころなしか元気に見える。どんなメイクにしようかわくわくしながら、いつもより丁寧に肌に色をのせる。

時間をかけて、気が済むまで迷いながら身支度をするのが好きだ。行き先や会う相手、やることを思

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parfaitと持ち寄りパーティー

parfaitと持ち寄りパーティー

本当に久しぶりだった。前に会ったときは学生で、住んでいるところが違くって、髪型や服の趣味も今とちょっと違った。一緒にわいわいするのも、ダラダラするのも心地よかったことは鮮明に覚えているんだけど、何をしたかの記憶は断片的だ。



5、6年ぶりの再会だった。タイミングとか、電車で2時間の微妙な距離に暮らしているとか、そういういくつかの小さな理由で会っていなかった。そのまま疎遠になってしまう関係も多

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底だったはずなのに

「最悪」なんて滅多につかうもんじゃない。そんな悪いこと、そうそうないんだから――。

昔聞いた、誰かのことばが頭をよぎる。たしかにそうだと思うし、実際「最悪」と口にしないようにしていた。でも「最も悪いか」なんて、何を基準に判断したらいいんだろう。この気分を「最悪」と言ったらダメなんだろうか。考えがまとまる気配はなく、重苦しい思考から逃げるように布団を頭までかぶった。



調子が上がらない。むし

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一体何が違うんだろう

一体何が違うんだろう

金曜の夜、新橋のまちに降り立つ。

「広い席ご用意できますよ!」
「一杯、どうですか?」
「ギョウザおいしそう~、ここにしない?」

一週間を終えた大人たちの、解放感と熱気が充満している。自然と肩の力が抜けていくのを感じた。



先日出会ったばかりの同世代の人たちと会う約束をしていた。学生の頃の友人でもなく、会社の同僚でもない人。友人でもなく、知人でもない。確かに言えるのは、この人たちは特別な

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ばあちゃんのごはん

ばあちゃんのごはん

祖母は、本当に世話好きで、ごはんをふるまってばかりの人だった。

小学生のときの夏休みの恒例行事が、兄弟・従姉妹と一緒に、仙台に暮らす祖父母の家で過ごすことだった。実家は農業を営んでいて、夏場は繁忙期まっさかり。忙しい両親に代わって祖父母が私たちの面倒をみてくれたのだ。

同じく仙台に暮らす従姉妹たちも集合して、子ども5人わいわい、じいちゃんばあちゃんとひいばあちゃんと過ごした。

みんなで囲む食

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近未来的なまちを行く

近未来的なまちを行く

学園都市で研究都市で宇宙都市な茨城県つくば市へ。研究者の友人や恩師のもとを訪ねに。

私鉄「つくばエクスプレス」終点、つくば駅の改札内が、サムネイルのとおり。飛行機の搭乗口に雰囲気が似ている。想像だけど、ロケットに乗り込むときってこんなところを通りそう。

まちの「入り口」からもう抜群に特別で、好奇心が刺激される。

「まちそのもの」のような大学

市の中心部に横たわるのが筑波大学。駅からキャンパ

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「なぜそのような話し方をするのか?」と聞かれた話

「なぜそのような話し方をするのか?」と聞かれた話

友人と、その知人の方とお話しする場をいただいた。3人で話し始めて30分くらい経ったときのこと。

「あなたの話し方は不思議です。ゆっくりなんだけれど『早く次を話して!』と思わせない。何か惹きつける力をもっているようにも思います」

不意打ちに驚いて、まごつく。私がはっきりしない間に友人も「確かに!なんで?何かコツはあるの?」と畳みかける。

自覚もなければ指摘されたこともなかったけれど、私の口から

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黄色の妄想

黄色の妄想

「黄色を身に纏いたい」と思い始めた。

服に黄色を取り入れると、そこだけ浮いて見える。馴染まない。かれこれ5年ほど。服以外では手に取ることが多いので、好きな色なんだと思う。

そんななか、ふと「私もそろそろ黄色を着こなせるのではないか」という根拠のない自信がわいてきた。思い浮かべるのは、爽やかで軽やかなレモンイエロー。

大事なのはさりげなさ。自然さ。そこだけ悪目立ちするのではなく、素敵に纏うのが

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四季と身体の交わりを感じる旅

四季と身体の交わりを感じる旅

神奈川県大磯町へ。県立公園目当てだったけれど港の雰囲気も素敵だった。

四季があって、変化の多い環境が身体に堪えることがままある。

だけど、四季があるからこその景色の変化とか、それに合わせて人間が暮らしを少しずつシフトさせる様子とかを感じると、自分の中にエネルギーが蓄えられる。嬉しさが込み上げる。

うまく折り合いつけながら、という無難な答えに落ち着いてしまうけど。
何にでも良いことと悪いことが

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かけないなら うたう

かけないなら うたう

キーボードをたたけない。
色鉛筆を握れない。
残されたのは声。

編集の仕事をさせてもらっている。そういうとサザエさんのノリスケみたく、作家先生に原稿をもらいに行ったりする姿が思い付くのかなと思う。

だけど、私の仕事はWebの領域。書く前の素材=情報集め、情報整理、集めた情報の価値判断=キュレーション、企画、ライティング、制作関係者とのやり取りetc。

尊敬するあの人は、編集を「ことばをデザイ

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母の口癖

うちは両親と3兄弟という家族構成で、専業農家を営んでいる。「農家」といっても規模は小さく、人を雇わず家族5人でできる範囲のもの。両親のことばを借りるなら「百姓」といったところだ。子ども3人を育てるのは、相当の苦労があったと思う。

そんなことは露知らず、私たち兄弟は本当にのびのびと育った。習い事こそさせてもらえなかったけど、その分近所のお姉ちゃんお兄ちゃんたちとたくさん遊んだし、たくさん本を読んだ

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パワープレイ

丁寧、細やか、繊細。
目指したいし、そんな所作を見かければ嬉しさが込み上げます。

「目指したい」に透けてみえる、私の力ずくで適当でおおざっぱな一面。ふと思い出したので書いてみようかと思います。

大学生のときの話。
大学宿舎備え付けのベッドにはマットレスのみ置いてあり、他の寝具は自分で用意しなければいけないことが、入居後に判明しました。

シーツ、枕、掛け布団など最低限のものは貸し出し&クリーニ

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帰れる場所のような存在

数年前に一度読んだマンガを読み返していたら、絵も描写もことば選びも美しくて儚くて、本当に「その」通りだった。

ヤマシタトモコ「違国日記」。

ひとりで過ごす時間が好きな方だと思う。
本、お笑い、音楽、映画、まちあるき、カフェ、どれも好き。お店にひとりで入ることを厭わないし、足が向くままに、気の向くままに動けるのは、ラクで楽しい。

月に1回友人と会って話す時間があったら十分。そのひとときで全てが

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こころの梅雨と目の前の梅雨

梅雨入りしたらしい。

今のところ一日中雨の日はほとんどない。それでも、水分がたっぷりと含まれた空気は肌にまとわりつき、心身を少しずつ重くする。

沈みきる前に、外へ出る。
夕方になって出てきた太陽がわたしを照らす。風もわずかに吹いていた。さっきまでの鬱陶しさが、徐々にかたちを変える。

こころに描いていた梅雨と、いま目の前にある梅雨の違いに気づく。

ときどき見せる空の青さ。若葉から成長し深く色

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