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涙が溢れてくる。

今日の予定にソワソワしながら洗濯機を回し、掃除をする。出かけるのは昼ころだから、まだ時間に余裕がある。しばらく続いていた肌荒れも落ち着いてきたし、シートマスクをつかおう。マスクをとった肌はこころなしか元気に見える。どんなメイクにしようかわくわくしながら、いつもより丁寧に肌に色をのせる。

時間をかけて、気が済むまで迷いながら身支度をするのが好きだ。行き先や会う相手、やることを思い浮かべていると、準備をしているときから「お出かけ」が始まっているような気分になる。ああ、今日はどんな一日になるだろう。

電車に乗る。車内での読書が好きで、ポシェットのようなミニバッグと、本が入るサブバッグをセットでつかっている。車内で読む本を気分に合わせて選ぶのも、お出かけ前の好きな時間。

いつもよりほんの少し、会えない期間が長めだった。何を話そうかな。話したいことがたくさんある。でも、何をしてどんなことを思っていたのかも知りたいな。話す内容のシミュレーションなんていつもしないのに、そんなことまで考えてしまう。

大好きなまちでのお出かけ。彼の行きたい場所に案内し、とっておきの場所を紹介しながら歩く。スマートにはいかないけれど、楽しくて嬉しかった。そんな私と裏腹に、どこかすっきりしない顔をしている彼の様子が、ずっと気にかかっていた。

早めにバイバイすることにした。何度も謝る彼に、仕方ないよと言ったし、心からそう思っていたはずなのに。こみ上げてくる悲しさと、寂しさと、あれもしたいこれもしたいという気持ちをどうすればいいか分からなかった。

行くあてのない気持ちが大粒の涙になって枕に染み込んでいく。

「楽しかった」が100%のこころで帰路につく。

大学からの友人ふたりとご飯を食べに行く。学科の同期ではあるけど、直接的な交友関係があったわけではない。性格や趣味の違いの塩梅がちょうどよく、たまに会いたくなる組み合わせ。「たまに」なので、今回は半年ぶりくらいの再会。

このふたりと行くご飯は、エスニックなものがいい。カレー以外のメニューも豊富なネパール料理屋で落ち合った。

会っていない間の私の話が、話題のほとんどを占めていた。私が1話すとふたりが20、30くらい、わーっと話す、その繰り返し。

話題の真ん中に自分の話がある状態も、それに対して友人がああだこうだ言っている状況も、以前は得意でなかった。でも、この日は爆笑していた。完全に他人事として好き勝手に話してくれるのが心地よかった。自分の振る舞いについて、異議があるときは異議があるとはっきり言われるのが清々しかった。

散々食べて話して飲んで、帰りの電車、もやがかかっていたはずの胸中はすっきり澄んでいた。うっすらとした疲労感とともに家に帰る。

あちらでも、こちらでも、梅が咲いている。

勇気を出して、話し合った。彼が考えたこと、私が思っていたこと、すべてを出し合った。ことばに昇華しきれないことも話して、聴いた。

彼の気持ちを追体験する。苦しかったね、頑張ったね、お疲れ様。ことばが零れ落ちる。これまでひとつも辛そうな素振りを見せなかった彼の涙は、とても静かだった。

もうひとりの自分が、区切りをつけようと言った。視界は悪くなる一方だけど、その意見には腹落ちしている。

悲しかった。
よかった。
寂しかった。
ほっとした。


夢を見ることもなく寝て、ご飯を食べて、心待ちにしていた映画「夜明けのすべて」を観に行く。陽射しは柔らかく、厚手のニットでは少し汗ばむ。

あちらこちらで梅の花をみつけた。自分が上を見て歩いていたことに気づいた。

すべてのことには「その後」がある。
そんなことを思いながら歩を進める。



20240214 Written by NARUKURU


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