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天才クリエーター川内康範「月光仮面と七色仮面」

「僕の昭和スケッチ」イラストエッセイ175枚目

<「天才川内康範」絵 © 2023もりおゆう 水彩/ガッシュ 禁無断転載>

川内康範は、昭和の大衆娯楽/芸能史を語る時に欠かせない正に天才クリエーターだ。

シカメ面をしている写真が多く、近寄り難い風貌を漂わせている。
川内康範とは実際どんな人物だったのだろう?
僕は、何より彼の作品がそれを物語ってくれていると思う。

映画・ドラマ原作


ご存知「月光仮面」と「七色仮面」は日本のヒーロ物の先駆けとなった傑作。他にもアラーの使者、まんが日本昔話、レインボーマンなど数々のヒット作がある。子供向け作品以外にも携わった映画、テレビ作品も数知れない。

同時にもちろん数多のヒット歌謡曲を生んだヒットメーカーでもある。

作詞
「おふくろさん」
「誰よりも君を愛す」
「君こそ我が命」
「東京流れ者」
「骨まで愛して」
「伊勢佐木町ブルース」
「花と蝶」
「逢わずに愛して」
他、多数

月光仮面について

誰もが知る日本ヒーロの草分け「月光仮面」。
この作品のコンセプトには実は大きな特徴がある。
それは、後のこう言ったヒーロー物とは一線を画すコンセプトだ。

「悪を懲らしめ善人を助けるが、裁きはしない(川内康範)」
この悪を懲らしめる、と言う表現。

ヒーローものは、後に悪者を最後に爆死させてしまったりするように変わっていく。つまり、敵は徹底的に殺せ、、、という事だ。
まぁ、その方が見ている方としてはスカッとするので徹底的にやっつけた方が良い、ということになるのだろう。何しろ視聴率も上がる(笑)

しかし、月光仮面では懲らしめる、となっている。
決して殺しはしない。画面でも拳銃で撃ち合うシーンが何度も登場するが、悪人が撃たれて死ぬシーンは僕の記憶にはない。

これには、あまり知られていない康範の生い立ちが関係している。

川内康範は日蓮宗の寺の生まれで、「借無上道(しゃくむじょうどう)」つまり無償の愛こそがこの世で最も尊い、という信念を持っていたという。

「無償の愛こそがこの世で最も尊い」


月光仮面は善悪区別なく誰にでも降り注ぐ月光を象徴した月光菩薩をモデルとしている。月からの使者月光仮面とは、空に浮かぶ月ではなく実は月光菩薩がこの世に遣わした使者という意味なのだ。
風貌に似合わずと言っては大変失礼だが、美しい発想だ。
月光仮面は、この発想の素晴らしさに支えられているドラマなのだ。

悪人であっても殺さぬこと。

「善人なおもて往生す 言わんや悪人をや」
これも仏教の有名な教えの一節。

川内康範の作品には例え子供向けの作品であっても、どこかに哀愁がある、影がある、、それはその底にこういった人のあるべき姿に対する儚い希望が流れているからではないだろううか、と僕は思う。

蛇足だが、漫画では康範の原作を元に若き桑田次郎がスタイリッシュな画風で月光仮面を描き、僕らを魅了した。

七色仮面について


七色仮面は作品的には月光仮面の後に制作されたもので、月光仮面の成功で制作費も格段に上がり、娯楽作品としての完成度もさらにアップしている。
僕らを熱狂させ、映画館は毎回立ち見の大盛況となったものだ。

今日はちょっと、この七色仮面の歌詞について。

歌詞は冒頭、このように始まる。
「とけないなぞを さらりとといて このよにあだなす ものたちを」
この「あだなす」と言う表現の何と秀逸なことだろう。
こう言った言葉の選び方そのものに人の思想は現れるのだと思う。

そして、以下のように続く。
「デンデントロリコ やっつけろ デンデントロリコ やっつけろ」
この「デンデントロリコ」と言う言葉の意味は果たして、、、???

僕らは意味も分からず「デ〜ンデ〜ントロリコ〜」と歌っていたのだが(笑)、、、実はこのデンデントロリコには意味そのものがない。
デンデントロリコと言う言葉は日本語には存在せず、康範の創作した一種の囃し言葉なのだ。怪談落語で言えば、途中で「ヒュ〜ドロドロ〜」と言ったりするあれだ。よくこんな事を思いつく物だと感心する。


二番の歌詞は、このように始まる。

「ゆめは七色 きれいなにじの みんなよんでる しあわせを」

子供向けの歌なのだけれど、これも清らかな歌詞だ。

子供の歌と軽んじる事なかれ。
月光仮面にも七色仮面にも、その奥には康範の美しいメッセージが秘められている。


*この記事では、七色仮面の歌詞を著作権上許される範囲を超えて引用しています。川内康範という昭和大衆娯楽の巨星を語るため、引用しているものです。エッセイの真意をご理解賜り、川内康範の著作権を継承されている方には何卒この点ご容赦頂けますようにお願い申し上げます。万一、著作権者の方から申し出があった場合は速やかに削除いたします。
*この記事は一部Wikipediaを参照しています。
*月光仮面
制作/KRテレビ(現TBSテレビ)、宣弘社 1958〜1959年
*七色仮面
制作/NET(現テレビ朝日)    1959〜1960年

*<©2023もりおゆう 全ての著作物は著作権によって守られています>
(©2023 Yu Morio This picture and text are protected by copyright.)


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