Masanao Kata

油を売ったり、管を巻いたり、詩を紡いでお茶を濁しては、細々と市井で糊口を凌いで心を潤し…

Masanao Kata

油を売ったり、管を巻いたり、詩を紡いでお茶を濁しては、細々と市井で糊口を凌いで心を潤してます。古典ミステリと電子音楽が好き。 日本シャーロック・ホームズ・クラブ会員、八雲会会員、萬年筆くらぶ会員、近代詩復興委員会会員。 https://bccks.jp/user/112042

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  • 万年筆の徒歩旅行

    万年筆くらぶ会誌『フェンテ』に投稿した雑感を順不同で転載するアーカイブ。 万年筆を筆記具より文化的な視点で話そうかと思っています。 マガジンタイトルは、中原中也の詩「自滅」から。

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  • 読書三十六計

    有名・無名問わず本や文学にまつわるあれこれ。 強引に五文で仕留めます!

記事一覧

【宣伝】五冊目の電子詩集『黒い鳥』

ここに宣伝を載せることをすっかり失念しておりました。 去ること2月22日、5冊目の電子詩集『黒い鳥』をリリースしております。 本当は出すことなんて考えていなかったので…

Masanao Kata
1か月前
2

詩157「雨の散歩道」

「雨の散歩道」 雨は人を急き立てることがある 21世紀美術館から鈴木大拙館へのアスファルトの硬い道程も 街の賑わいとは裏腹に創造のイカロスは飛ばず 雨は人を急き立て…

Masanao Kata
1か月前
1

詩156「夏の山脈」

「夏の山脈」 碧(みどり)を碧(あお)とも呼べるのは 山並みの万緑が空の青さに溶けて行く そんな夏の景色の賜物だろうか 熊谷守一が描いた「夏」の思想に その答えがあった…

Masanao Kata
1か月前
1

詩155「ひとこと、みこと」

「ひとこと、みこと」 言葉を離すべきじゃなかった 届かなければ伝わらない言葉だというのに アネモネの花ほどの価値があったというのか ぼくは負けたくない一心で 放り投…

Masanao Kata
1か月前

その16:紛い者の万年筆

万年筆がタイトルに付く歌がある。 2018年にデビューした青森県出身の3ピースバンド SWALLOWの3rdシングル「紛い者の万年筆」 (2021年) だ。 厳密に言えば、元のバンド名 …

Masanao Kata
1か月前
5

詩154「言葉の無い正解」

「言葉の無い正解」 幻想を築くには言葉を組み立てよ ありもしない正解を世界にして我々を導き入れよ 現実から回避した者たちは逃げ出すことなどない 言葉の煉瓦をひとつ…

Masanao Kata
3か月前
5

詩153「旅人は待てよ」

「旅人は待てよ」 帰らぬ旅人が帰ってきた 消え失せんと望むはうつつ 記された足跡は永遠となって 誰かが望めば 赤い詩集の果てから帰ってくる むしろ難しいことなどなく…

Masanao Kata
4か月前
5

詩152「メテオの邂逅」

「メテオの邂逅」 その契りは真夜中に起こる 創作の神と偽って飛来する酩酊のメテオ 言葉には三神が宿るというが 踊る文字はさながら呪文か魔法陣と化し たちまち言葉が熱…

Masanao Kata
4か月前

その15:万年筆の怪人

男は誰しも少年だった。そして少年は、ヒーローに憧れを抱いて大きくなる。 1966年のウルトラマン、 1971年は仮面ライダー、 1975年には秘密戦隊ゴレンジャーと、 特撮ヒー…

Masanao Kata
5か月前
1

詩151「異彩」

「異彩」 異才の奇祭は胡散臭い 委細は一切言い出さないまま 雲散霧消な韜晦術で まくのは煙かそれとも餌か 倒壊する論理には追い付けないが それでも偉才と褒め称えられ …

Masanao Kata
6か月前
2

戸板康二「等々力座殺人事件』

取り上げるのが二冊目になる戸板康二の中村雅楽シリーズは、河出文庫より先日刊行された短編集『等々力座殺人事件』。 歌舞伎の名老優中村雅楽が難事件を解決する探偵小説…

Masanao Kata
6か月前

詩150「白銀の月」

「白銀の月」 帰り道の夜空を見上げると ぼうっと冷たく光る月が滲む あの気高く遠い世界なら邪な迷いも凍てついて すべてはお前の想いひとつだ そう突き放される気がした…

Masanao Kata
6か月前
2

詩149「暑い夏に」

「暑い夏に」 ごくごくと喉を伝う冷えた水 じっとりと肌を伝う汗 きみのようにやさしく頬を伝った涙 何も沁みずに乾いた心を伝うものは この夏あなたに問わねばなるまい …

Masanao Kata
6か月前
2

詩148「紙で切った」

「紙で切った」 血も出ない指先の傷口は 確かにぱっくり薄く切れていた 景色が変わった違和感のような些細な痛みから やがて来訪する刺激に覚えが始まる 涙も出ない心の無…

Masanao Kata
6か月前
1

詩147「呼吸」

「呼吸」 息を吸う この部屋には一人 息遣いに耳を澄ませば その音を吸い込んで 部屋の中は二人分 Masanao Kata©️ 2023 Anywhere Zero Publication©️ 2023

Masanao Kata
6か月前

詩146「浮遊」

「浮遊」 傘を差せば宙に浮くような世界では 誰しも四角い丘に佇んで 冷たい夕日が沈むのを待っている この世界は白々しい 白夜は琥珀色をまとった白昼夢か Masanao Kata…

Masanao Kata
6か月前
【宣伝】五冊目の電子詩集『黒い鳥』

【宣伝】五冊目の電子詩集『黒い鳥』

ここに宣伝を載せることをすっかり失念しておりました。
去ること2月22日、5冊目の電子詩集『黒い鳥』をリリースしております。
本当は出すことなんて考えていなかったのですが、これまでに書いてきて詩の中には、奇をてらった作品もあり、その斬新な作品を埋もれさせては勿体ないと思い立ちました。
合わせ鏡のような「イン ザ マスク」、山村暮鳥の「風景」のように同じ言葉で構成させた「はじめから終わりまで」、モー

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詩157「雨の散歩道」

「雨の散歩道」

雨は人を急き立てることがある
21世紀美術館から鈴木大拙館へのアスファルトの硬い道程も
街の賑わいとは裏腹に創造のイカロスは飛ばず

雨は人を急き立てることがある
傘を濡らして道をも濡らす

金澤詩人 20号掲載
Anywhere Zero Publication© 2023
Hiraya Akizuki© 2023

詩156「夏の山脈」

「夏の山脈」

碧(みどり)を碧(あお)とも呼べるのは
山並みの万緑が空の青さに溶けて行く
そんな夏の景色の賜物だろうか
熊谷守一が描いた「夏」の思想に
その答えがあったと思う

金澤詩人 20号掲載
Anywhere Zero Publication© 2023
Hiraya Akizuki© 2023

詩155「ひとこと、みこと」

「ひとこと、みこと」

言葉を離すべきじゃなかった
届かなければ伝わらない言葉だというのに
アネモネの花ほどの価値があったというのか
ぼくは負けたくない一心で
放り投げた言葉について話せずにいる

金澤詩人 20号掲載
Anywhere Zero Publication© 2023
Hiraya Akizuki© 2023

その16:紛い者の万年筆

その16:紛い者の万年筆

万年筆がタイトルに付く歌がある。
2018年にデビューした青森県出身の3ピースバンド SWALLOWの3rdシングル「紛い者の万年筆」 (2021年) だ。
厳密に言えば、元のバンド名 「No title」では11曲のデジタルシングルが出ており、2020年に「SWALLOW」へと改名してからの3枚目のシングルに当たる。
この曲は、三沢市出身の彼らが青森の冷たい冬の空気をイメージした楽曲で、工藤帆

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詩154「言葉の無い正解」

「言葉の無い正解」

幻想を築くには言葉を組み立てよ
ありもしない正解を世界にして我々を導き入れよ
現実から回避した者たちは逃げ出すことなどない
言葉の煉瓦をひとつひとつ積み重ねた堅牢な城でも
たった一言で崩れ去ることさえあるだろう
どんな世界も脆くそびえ建っているものなのだ

命は一つでも言葉は無数の星であり
危うい戦場を生き抜く不確かな言葉たちは
元素も曖昧な世界の蓋でしかない

かつて言葉の

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詩153「旅人は待てよ」

「旅人は待てよ」

帰らぬ旅人が帰ってきた
消え失せんと望むはうつつ
記された足跡は永遠となって
誰かが望めば
赤い詩集の果てから帰ってくる
むしろ難しいことなどなくて
場所も時間も選ぶこともなくて
瑠璃色を纏った言葉が手紙となって
我々のもとに戻ってくる
理屈などはどうでも良いと思えた時には
あのレインコートを羽織った旅人が見える
失われた時を知る豊穣の女神は歌い
この宝石を南の風で濡らすことだ

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詩152「メテオの邂逅」

「メテオの邂逅」

その契りは真夜中に起こる
創作の神と偽って飛来する酩酊のメテオ
言葉には三神が宿るというが
踊る文字はさながら呪文か魔法陣と化し
たちまち言葉が熱を帯びて送り出す
有無を言わせぬ契約は創造の深みへと魂を突き落として
それを灼熱の温度まで高めてしまうだろう
今まさに月に冴える深夜の創作は疾走した
まだ見ぬ失われた創造性を探し出すかのような快感こそが
我々を陥れようと目論む牧神かサ

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その15:万年筆の怪人

その15:万年筆の怪人

男は誰しも少年だった。そして少年は、ヒーローに憧れを抱いて大きくなる。
1966年のウルトラマン、 1971年は仮面ライダー、 1975年には秘密戦隊ゴレンジャーと、 特撮ヒーロー番組のシリ ーズは2023年の現在まで脈々と続き、毎回手を変え品を変え、様々な怪人が地球(日本?)を脅威に晒し、ヒーローたちに都度打ち負かされている。この構図がもう半世紀以上続いていることになる。
怪人もユニークな着想か

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詩151「異彩」

「異彩」

異才の奇祭は胡散臭い
委細は一切言い出さないまま
雲散霧消な韜晦術で
まくのは煙かそれとも餌か
倒壊する論理には追い付けないが
それでも偉才と褒め称えられ
叩いて消えることさえない
ただ居るだけでも様になるので
冴えない無様な成りでも神々しい
嘘と誠が混合し インサイドで競り合って
玉虫色の魂の妖しい彩りは雄鶏のアシメントリー
色とりどりの折々のまとまりは始まりで終わり
つまりはあとの

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戸板康二「等々力座殺人事件』

戸板康二「等々力座殺人事件』

取り上げるのが二冊目になる戸板康二の中村雅楽シリーズは、河出文庫より先日刊行された短編集『等々力座殺人事件』。
歌舞伎の名老優中村雅楽が難事件を解決する探偵小説で、1959年の『車引殺人事件』河出書房新社から生まれた人気シリーズ。
過去には講談社文庫や創元推理文庫でも中村雅楽シリーズは刊行されて来たが、新保博久の手でその作品群を再編された文庫が本書となり、編者が編み直した今回のラインナップを見るの

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詩150「白銀の月」

「白銀の月」

帰り道の夜空を見上げると
ぼうっと冷たく光る月が滲む
あの気高く遠い世界なら邪な迷いも凍てついて
すべてはお前の想いひとつだ
そう突き放される気がしたら胸が締まった

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩149「暑い夏に」

「暑い夏に」

ごくごくと喉を伝う冷えた水
じっとりと肌を伝う汗
きみのようにやさしく頬を伝った涙
何も沁みずに乾いた心を伝うものは
この夏あなたに問わねばなるまい

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩148「紙で切った」

「紙で切った」

血も出ない指先の傷口は
確かにぱっくり薄く切れていた
景色が変わった違和感のような些細な痛みから
やがて来訪する刺激に覚えが始まる
涙も出ない心の無慈悲さは体との蟠り

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩147「呼吸」

「呼吸」

息を吸う
この部屋には一人
息遣いに耳を澄ませば
その音を吸い込んで
部屋の中は二人分

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023

詩146「浮遊」

「浮遊」

傘を差せば宙に浮くような世界では
誰しも四角い丘に佇んで
冷たい夕日が沈むのを待っている
この世界は白々しい
白夜は琥珀色をまとった白昼夢か

Masanao Kata©️ 2023
Anywhere Zero Publication©️ 2023