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戸板康二「等々力座殺人事件』

取り上げるのが二冊目になる戸板康二の中村雅楽シリーズは、河出文庫より先日刊行された短編集『等々力座殺人事件』。
歌舞伎の名老優中村雅楽が難事件を解決する探偵小説で、1959年の『車引殺人事件』河出書房新社から生まれた人気シリーズ。
過去には講談社文庫や創元推理文庫でも中村雅楽シリーズは刊行されて来たが、新保博久の手でその作品群を再編された文庫が本書となり、編者が編み直した今回のラインナップを見るのも復刊の楽しみだ。
戸板康二は演劇・歌舞伎評論家であり、江戸川乱歩の勧めで書いた推理小説が中村雅楽シリーズで、本書はその乱歩のルーブリックが差し込まれてエンタメ性を高める良い演出となり、既読の話でも瑞々しく再読出来る。
歌舞伎という特殊な業界が舞台であることも影響してか、今読んでも時代の違和感すら感じさせず、戸板が折口信夫の教え子であり、元国語教師という背景からの高度な文章力が相まって、主人公雅楽の人なりのように上品で読みやすいミス テリーだ。


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