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みじかいたんぺん

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みじかいたんぺんです。短いです。体感時間は長めです(たぶん)。
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記事一覧

救世主

「救世主!!」

 商店街で福引の順番を待っているときのことだった。

  僕は白い息を吐きながら、主婦たちと一緒に何色の球が出るか気にしていた。

 声が聞こえたのはそんなときだ。

  一人の老人がこちらに矢のように向かってきた。 真っ白な頭髪はきちんと後ろになでつけ、鼻の下に上品な白ひげ。執事が着るような黒のスーツ。 僕の前でスッと止まる。

「お待ちしておりました」

「え?」

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エクセル

 エクセルができないと友だちができない世界にいる。

 僕は寝る間も惜しんでエクセルを学び、学校でも研鑽を絶やさないよう努めた。

 でも誰一人友だちができなかった。

 みんなエクセルをやらないからだ。

 生徒たちは室内栽培のクレソンみたいに静かに授業を受けていた。
 休み時間なんて休日みたいな穏やかな空気に満ちている。

 でもある日、クラスの6人の男女(3:3)がエクセルを学び出した。

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スーパープレーの裏側に隠された郵便配達員の仕事(サッカー観戦記)

 都道府県対抗サッカー大会というのをご存知ですか?
 天皇杯や国体という大きな大会ではありません。
 もっと地域色が強い対抗戦のことなんです。
 
 これがとても面白くて、普段スポーツ観戦をしない私でも食い入るように見てしまいます。

 とりわけ白熱するのが北海道対沖縄の試合です。
 やはり一番距離が離れたところの試合は時間もかかりますし、日を追うごとに選手たちに感情移入してしまうのです。その分、

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ふわふわ

 ウチのクラスには不破さんが二人いた。
 一人は魔の山から来ていて、もう一人は、地獄の門番の娘だった。
 二人そろってふわふわというわけだ。

  仲は良い。
 例えば同じ人を好きになっても、二人でずっとその人を好きでいようねというようなことをいつも言っている。
 でも一か月もすると、その意中の男らしき人物の消息は不明になった。

 なぜ二人はこんなに仲が良いのか。

 出会ってまだ3か月。それま

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スカイフック(漁師の嫁2)

「この前崇さんと3人で釣りに行ったでしょ」

 私はうんと相槌を打ちつつ、マカロンの上蓋を取ろうとする。
 何度も挑戦しているが、うまく剥がせたためしがない。接着剤でも塗っているのではないだろうか。

 かえでは続ける。

「あのとき、すれ違った男の人がいたじゃない。赤と青のチェックの長靴をはいた」

「知らないわね」
「赤いパジャマみたいな服を着て」
「それがどうしたっていうの?」
「ううん。い

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80

 一日が80時間になった。
 警官も泥棒も道路工事の人も、みんながみんなその辺に布団を敷いて、思う存分睡眠をむさぼった。

 法律ができ、60時間眠って、20時間働こうとなった。

 暴動が起きた。

 20時間働く?

 ふざけるな!!

 だがそれを境に、80時間が効率化の名の元にどんどん切り分けられていく。

 15時間眠って5時間働くを4回すればいいい。
 
 そんなの四連勤じゃないか!

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漁師の嫁

 朝、ベッドの中でメールを見ていると、崇の母から電話が来た。
 今うちに向かっているらしい。というかもう着くのだそうだ。

 いつでも来てくださいと言ったのは私だが、これは急というかもはや抜き打ちだ。

 電話で義母は、たか子さん(私だ)の手料理をぜひとも食べてみたいと言った。

 でも私は料理ができない。

 したことがない。

 高校まで、食べ物というのは手を叩くか、その辺の誰かに命じれば出て

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アレルギー

 住んでいる街の警察署がアレルギー者を集めていた。

 受付をすませたあと個室に通され、血の付いた金づちを握らされた。

「どうです?」と警官。
「なんともありませんね」と僕。

 スーツ姿の男は、ファイルに何かを書きこんでいる。
 謝礼1000円。

 部屋を出たとき、本田さんと入れ違いになった。
 彼女もまた、警察に協力すべくやってきたようだ。

 目であいさつを交わす。
 彼女を待つため、僕

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つんどく

 積ん読が過ぎて私の部屋は世間から図書館と認知された。
 会社に行くために朝ドアを開けると、すでに何人かの利用者が列を作っている。
 だいたいおっさんだ。一言も言葉を交わさない。
 押し問答も面倒なので、私は彼らを家に入れ、入れ違いにその場を後にする。

 しばらくすると謎の受付係もやって来ることが分かっている。
 今は六月だ。あと少しすると、夏休みの子供たちもやってくるだろう。

 こうなったの

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炎の剣

 死んだ祖父の形見が炎の剣だった。
 彼は父ではなく、僕に剣の持ち主を指定した。

 注意書きによれば、鞘から出すと刀身が燃え出し、ドラゴンが来るらしい。
 でもなんだかバカになっていて、ちょっと抜いり、落としたり、とにかく強いショックを与えただけでもドラゴンがやって来るという。
 なんなら焼き肉をしてても来るという。

 どうせ炎もドラゴンも嘘だと思って抜いてみたら、刀身から出た火が天井を燃や

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とてもとても

 とてもとてもが口癖の彼だったことがある。
 彼女は習字だかお花だかのお家元で、一緒にいると茶室にでもいるようなのっぴきならない座標軸を感じてしまう。
 僕はただの書店員だった。
 苦しいことが多かったので、笑顔で仕事をしていたら彼女に誘われた。

 僕はお腹から内臓が飛び出ているんですよと言ったけれど、彼女には関係がないようだった。
 私が選んだのが正解みたいな顔で、僕の飛び出した胃やら膵臓やら

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【大河小説】くに

 ある男が悪い行いをする。
 彼は追われ、身を守らなければならない。
 そのために味方を作る。
 しかしその味方も方々に敵を作っている。
 彼らは自分たちの安全を守るため、さらに強力な共同体を作る。

 こうしてできたのが、国である。

小説の逆刷り込み

 小説を書き上げた直後、それが途轍もなく面白いと思うことがある。だが数日経って見るとどこが面白いのか、なんであんなに興奮したのか訳が分からない。はずかしい。そんなことはないだろうか。

 私はこの現象を小説の逆刷り込みと名付けた。
 言うまでもなく、ヒナが初めて目にした生き物を親だと思うのが刷り込みである。

 小説の逆刷り込みは、生み出された小説(ヒナ)を見た最初の生き物(大抵は作者)は、その作

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雨乞い

 僕の妻は完璧だ。そばにいて楽しい。料理なんてちょっと感動的なくらいうまい。僕なんて3食感動しっぱなしである。雨乞いもうまい。世が世なら卑弥呼みたいな感じで村長に祭り上げられてしまうだろう。
 さらに誘拐なんてうますぎて、ちょっとその技術を披露したら逆に方々から仕事や教えを請わるので、これに関しては僕の前以外ではやってはいけないことにした。

 かくいう僕も彼女に誘拐された一人だ。
 その日目覚め

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