つんどく
積ん読が過ぎて私の部屋は世間から図書館と認知された。
会社に行くために朝ドアを開けると、すでに何人かの利用者が列を作っている。
だいたいおっさんだ。一言も言葉を交わさない。
押し問答も面倒なので、私は彼らを家に入れ、入れ違いにその場を後にする。
しばらくすると謎の受付係もやって来ることが分かっている。
今は六月だ。あと少しすると、夏休みの子供たちもやってくるだろう。
こうなったのは私が悪い、のだろう。
仕事で嫌なことがあると、本を買って帰るのが習性になっていた。
それでちょっとだけ気が晴れる。頭もカラッとする。三日くらい。
読まない。パラパラめくるだけ。
ハードカバーを買う。重いやつ。買った気がするから。源氏物語とか、カフカの新訳とか、池澤夏樹選集とか。
もう一度言う。読まない。
それをどこかから嗅ぎつけて、おっさんたちがやって来る。
おっさんたちの間を通り過ぎるとき、洗濯洗剤の良いにおいがする。
私はそれに驚く。自分の服にはそんな香りまとわせてはいない。あるいはそういうのは、家のにおいと同じで、本人には気づかないことなのか。
しかしそれで私はおっさんという人種をちょっとだけ見直す。もちろん彼らが皆自分で洗濯をしているわけではないのかも知れないけれど。
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