アレルギー

 住んでいる街の警察署がアレルギー者を集めていた。

 受付をすませたあと個室に通され、血の付いた金づちを握らされた。

「どうです?」と警官。
「なんともありませんね」と僕。

 スーツ姿の男は、ファイルに何かを書きこんでいる。
 謝礼1000円。

 部屋を出たとき、本田さんと入れ違いになった。
 彼女もまた、警察に協力すべくやってきたようだ。

 目であいさつを交わす。
 彼女を待つため、僕は少し遠くのソファに座った。



「私は反応でたから、どうもおばあさんが犯人らしい」

 思い出したのか、彼女は無意識に肘の辺りを掻く。

 近くの喫茶店で僕らはコーヒーを飲んでいた。

 たまにこうして警察に協力をすることで、僕らは顔見知りになった。

 主に話す内容は、老後のことだ。
 僕らはまだ20代だったけど、将来の不安はぬぐえない。
 僕はおじいさんアレルギー、彼女はおばあさんアレルギーだった。僕らが抱える不安とは、そういうことだ。
 
 ちなみにさっきのハンマーは凶器で、犯人を知るために、ああいうことが行われる。


 

「考えてみたんだけど」
「何ですか?」
 年下なので、僕は一応敬語。


「例えば私に子供が生まれて、その子が子供を産んだとき、私はお婆さんになるわよね」
「つまり、老化じゃなくて、制度的なやつでおばあさんアレルギーに引っかかるかも知れないってことですか?」

 考えすぎだろう。

「でも、この前おばあさんの役をやったのよ。練習のときは大丈夫だったんだけど、本格的におばあさんの格好をしたとき全身からぶわっと発疹が出てね」

 そこまで言って、彼女は寒さに凍えるように自分の両腕を抱いた。

 僕もなんだか背中に冷たい汗をかいた。

「衣装脱いだら治まったんだけど、いまいち原因がよく分からなくて。あるいは悪化したってこともありうると思ったんだけど」

 悪化。考えたこともなかった。

「それに、梅干しのことを想像するだけで口が酸っぱくなるでしょ。スギ花粉だってそう。マツケンサンバって言えば、頭にマツケンサンバが流れる」

「やめよう」

 と、僕は言った。
 そんな話をしたって、状況が良くなるわけではない。今頭の中はマツケンサンバでいっぱいだけれど。

 僕らは自分に配られたカードを上手に使ってこれからも生きていなかければならないのだ。


 結局その日はそれで帰った。


 後日犯人が逮捕された。

 おじいさんだった。


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