水希

はじめまして! SNS初心者の水希です。 『公務員ライター』を目指すべく、映画の脚本と…

水希

はじめまして! SNS初心者の水希です。 『公務員ライター』を目指すべく、映画の脚本と小説を日々書いています。 マイクロノベル(百字小説)を毎日更新予定ですので、ぜひお立ち寄りください。

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  • 短編小説(掌編含む)

記事一覧

焼き鳥と缶ビール。
それを深夜のコンビニの自動精算機に置くと、画面に『3万円』と表示された。その直後、機械から「やべっ」という声が漏れて、正しい数字に変わった。
珍しいこともあるものだ。
「あまり無理しないで下さいね」
と、私は機械の中にいる店員に労いの言葉をかけ、店を後にした。

水希
3年前
19

その髪は違和感だらけだった。
でも凝視してはいけない。総務部長の自尊心を傷つけることになるから。
だから私たちは部長と話すとき、目以外に視線をやらない。しかし今日は、
「君、見たまえ」と彼は自分の頭を指した。
「は、はい」
「新調してね。生え際に、とれんどカラーを入れてみたんだ」

水希
3年前
8

彼女が信じられない事を言った。
それは休日の昼下がりのこと。洗濯物を畳んでいた手を止めて、不気味なほど暗い声音でつぶやいたのだ。
俺はソファから急いで身を起こす。それを見て彼女は、
「おやつ代もバカにならないの。だからゴメンね、今日は無し」
俺は「クー」と低く鳴いて、身を伏せた。

水希
3年前
6

「人でなし」「死んじゃえばいいんだ、父さんなんて」
入船検査中に家族からそう言われた。
チケットを忘れただけで、どうしてこんなにも罵倒されるのか。
「失礼ながら、わたくしも同感です」添乗員までそんなことを言う。
「はあ……次からは気をつけるよ」
地球に隕石が落ちるまであと30分。

水希
3年前
9

きっとその噂を誰よりも信じているのは僕だろう。
国道沿いにある区立図書館にお婆さんの霊が出るらしい。その老婆と目が合った者は3日以内に死ぬという。
クラスメイトは面白半分で話している。
僕は窓の外を見た。さて、残りの時間をどう過ごそう。
ガラス越しに、廊下に立つ老婆の姿が見えた。

水希
3年前
7

まるで悪魔だ。
あくびをするように嘘をつき、まばたきするように誰かを傷つけ、呼吸するように他の生命を食す。
ほら今もーー街中に、家のなかに、あなたの隣に、それは存在している。

水希
3年前
8

帰宅したら、家の中はくるぶしの高さまで水が溜まっていた。
女房は呆れて言った「これでもう3回目よ」
「ああ、改修工事を頼むか」
俺はため息をつく。やはり、急ごしらえの安普請だとこうなる。
明日から昼飯は食パン1枚か……
窓の外から見える煌びやかな竜宮城を見て、経済格差を実感した。

水希
3年前
11

『雛』と書かれた行灯が見えた。
通りにある潜り戸の先は、竹垣に挟まれた長い隘路が続く。
足元には白玉砂利と飛び石が敷かれ、ぽつぽつと置かれた行灯が、客を奥へ奥へと誘う。しばらく歩き、突き当りの引き戸を開けると、活気のある空気が流れ出た。
女将もお客も全員子供のここは、大人お断り。

水希
3年前
11

ZOOMで黄泉の国とつながった。
元旦那は若返っていた。あっちの世界では老人の身体で生まれて、歳をとればとるほど若返るらしい。現役の総理大臣は10歳だという。
「そこで死ぬとどうなるの」
「赤ん坊に戻って現世に帰るのさ」
「全員?」
「いや、大人の頃にやり残したことがある人だけ」

水希
3年前
13

今日の妻は仏頂面だ。
帰りに買ったケーキで機嫌が直ればいいが。「昨日はごめんよ」
彼女は無言でそれを受け取り、中身を一瞥して「ふうん」と鼻を鳴らす。
良かった。一度へそを曲げると、しばらく口をきいてくれないから。
俺は言い足した「今後はシャツに返り血をつけないよう気をつけます」

水希
3年前
14

仕事で秋葉原にきた老夫婦は、シューティングゲームに興じていた。
「みぞうち、喉仏、金的、どこを撃っても立ちあがりますねぇ」
「これがゾンビという奴か」
と、屈強な男たちを伴って小太りの男が便所に入った。
「お爺さん、お仕事ですよ」「ああ」
2人は黒の手袋をはめて、彼らの後に続く。

水希
3年前
5

ホチキスがなかなか取れない。
爪を立てて外そうとするが、焦りからか上手くいかなかった。
早くこの資料をシュレッダーにかけないと、私はクビになる。
いや、それ以上の事態に陥ってしまう。
「手を止めなさい、専務」と、誰かが私の腕をつかむ。
段ボールを抱えた税務職員が部屋に踏み入った。

水希
3年前
7

休日の電車内。前に座る子どもがこちらをじっと見ている。
あたしが笑顔を向けると、その子は母親らしき人の腕にすがった。
うーん、大人の対応をしたのに。
あたしの隣に座るお爺さんが「まあ見てなさい」と、むくっと立ち上がり、コマネチをした。子どもは無邪気に笑った。
大人への道は険しい。

水希
3年前
6

月旅行中に遭難してしまい、夫が隕石に当たって死んだ。
デバイスも緊急装置も故障している。
真っ黒い海のような宇宙空間で途方に暮れていたら、遠くから救助隊が駆けつけるのが見えた。目頭が熱くなる。
やっとだ。やっと自由になれた。
どうしよう。涙がとまらない。
ああ、全部うまくいった。

水希
3年前
5

カラフルな鉢植えが彩る白壁に挟まれた石畳の坂を登りながら、吸い込まれそうな青空を見あげた。登り終えると、中央に小さな噴水のある円形広場に出る。すると「遅刻だぞ」とボスが怒鳴った。俺は頭と尻尾を下げて反省を示す。親分が咳払いをして言った「今日の議題は、旧市街にある魚屋の財政事情だ」

水希
3年前
9

船の中にいる私は、首が痛くなるまで窓の外を見おろしていた。
さながら天から地上にタネが落ちて、色とりどりの大輪の花が咲くような景色だ。
私の隣には浴衣を着た仲間たちがいた。四季という感覚を忘れない為に、こういうイベントは大切である。
うん。宇宙から見る花火というのも案外悪くない。

水希
3年前
11

焼き鳥と缶ビール。
それを深夜のコンビニの自動精算機に置くと、画面に『3万円』と表示された。その直後、機械から「やべっ」という声が漏れて、正しい数字に変わった。
珍しいこともあるものだ。
「あまり無理しないで下さいね」
と、私は機械の中にいる店員に労いの言葉をかけ、店を後にした。

その髪は違和感だらけだった。
でも凝視してはいけない。総務部長の自尊心を傷つけることになるから。
だから私たちは部長と話すとき、目以外に視線をやらない。しかし今日は、
「君、見たまえ」と彼は自分の頭を指した。
「は、はい」
「新調してね。生え際に、とれんどカラーを入れてみたんだ」

彼女が信じられない事を言った。
それは休日の昼下がりのこと。洗濯物を畳んでいた手を止めて、不気味なほど暗い声音でつぶやいたのだ。
俺はソファから急いで身を起こす。それを見て彼女は、
「おやつ代もバカにならないの。だからゴメンね、今日は無し」
俺は「クー」と低く鳴いて、身を伏せた。

「人でなし」「死んじゃえばいいんだ、父さんなんて」
入船検査中に家族からそう言われた。
チケットを忘れただけで、どうしてこんなにも罵倒されるのか。
「失礼ながら、わたくしも同感です」添乗員までそんなことを言う。
「はあ……次からは気をつけるよ」
地球に隕石が落ちるまであと30分。

きっとその噂を誰よりも信じているのは僕だろう。
国道沿いにある区立図書館にお婆さんの霊が出るらしい。その老婆と目が合った者は3日以内に死ぬという。
クラスメイトは面白半分で話している。
僕は窓の外を見た。さて、残りの時間をどう過ごそう。
ガラス越しに、廊下に立つ老婆の姿が見えた。

まるで悪魔だ。
あくびをするように嘘をつき、まばたきするように誰かを傷つけ、呼吸するように他の生命を食す。
ほら今もーー街中に、家のなかに、あなたの隣に、それは存在している。

帰宅したら、家の中はくるぶしの高さまで水が溜まっていた。
女房は呆れて言った「これでもう3回目よ」
「ああ、改修工事を頼むか」
俺はため息をつく。やはり、急ごしらえの安普請だとこうなる。
明日から昼飯は食パン1枚か……
窓の外から見える煌びやかな竜宮城を見て、経済格差を実感した。

『雛』と書かれた行灯が見えた。
通りにある潜り戸の先は、竹垣に挟まれた長い隘路が続く。
足元には白玉砂利と飛び石が敷かれ、ぽつぽつと置かれた行灯が、客を奥へ奥へと誘う。しばらく歩き、突き当りの引き戸を開けると、活気のある空気が流れ出た。
女将もお客も全員子供のここは、大人お断り。

ZOOMで黄泉の国とつながった。
元旦那は若返っていた。あっちの世界では老人の身体で生まれて、歳をとればとるほど若返るらしい。現役の総理大臣は10歳だという。
「そこで死ぬとどうなるの」
「赤ん坊に戻って現世に帰るのさ」
「全員?」
「いや、大人の頃にやり残したことがある人だけ」

今日の妻は仏頂面だ。
帰りに買ったケーキで機嫌が直ればいいが。「昨日はごめんよ」
彼女は無言でそれを受け取り、中身を一瞥して「ふうん」と鼻を鳴らす。
良かった。一度へそを曲げると、しばらく口をきいてくれないから。
俺は言い足した「今後はシャツに返り血をつけないよう気をつけます」

仕事で秋葉原にきた老夫婦は、シューティングゲームに興じていた。
「みぞうち、喉仏、金的、どこを撃っても立ちあがりますねぇ」
「これがゾンビという奴か」
と、屈強な男たちを伴って小太りの男が便所に入った。
「お爺さん、お仕事ですよ」「ああ」
2人は黒の手袋をはめて、彼らの後に続く。

ホチキスがなかなか取れない。
爪を立てて外そうとするが、焦りからか上手くいかなかった。
早くこの資料をシュレッダーにかけないと、私はクビになる。
いや、それ以上の事態に陥ってしまう。
「手を止めなさい、専務」と、誰かが私の腕をつかむ。
段ボールを抱えた税務職員が部屋に踏み入った。

休日の電車内。前に座る子どもがこちらをじっと見ている。
あたしが笑顔を向けると、その子は母親らしき人の腕にすがった。
うーん、大人の対応をしたのに。
あたしの隣に座るお爺さんが「まあ見てなさい」と、むくっと立ち上がり、コマネチをした。子どもは無邪気に笑った。
大人への道は険しい。

月旅行中に遭難してしまい、夫が隕石に当たって死んだ。
デバイスも緊急装置も故障している。
真っ黒い海のような宇宙空間で途方に暮れていたら、遠くから救助隊が駆けつけるのが見えた。目頭が熱くなる。
やっとだ。やっと自由になれた。
どうしよう。涙がとまらない。
ああ、全部うまくいった。

カラフルな鉢植えが彩る白壁に挟まれた石畳の坂を登りながら、吸い込まれそうな青空を見あげた。登り終えると、中央に小さな噴水のある円形広場に出る。すると「遅刻だぞ」とボスが怒鳴った。俺は頭と尻尾を下げて反省を示す。親分が咳払いをして言った「今日の議題は、旧市街にある魚屋の財政事情だ」

船の中にいる私は、首が痛くなるまで窓の外を見おろしていた。
さながら天から地上にタネが落ちて、色とりどりの大輪の花が咲くような景色だ。
私の隣には浴衣を着た仲間たちがいた。四季という感覚を忘れない為に、こういうイベントは大切である。
うん。宇宙から見る花火というのも案外悪くない。