マガジンのカバー画像

大日本末期文学全集

1,104
終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
運営しているクリエイター

2023年10月の記事一覧

『水色の付箋』

『水色の付箋』

帰宅するとポストに宅配便の不在連絡伝票が入っていて

宅配ボックスに入れておいてくれたらだいぶ楽なんだけど

でもどうやら冷凍だっていうからしかたないか

そうはいってもきょうはまだ月曜日

宅配便を受け取れる時間に平日は在宅してないんだよ

場合によっては土曜日も日曜日も会社かもな

ところで冷凍の荷物が届くような買い物はしていない

こんなブラック勤めにそんな時間もカネもないわけで

差出人を

もっとみる
『「先生は!まさに!きょう!この日!その若さの大切さを!痛感した!」』

『「先生は!まさに!きょう!この日!その若さの大切さを!痛感した!」』

「まぁ…先生なんてな…こんな情けない担任だったから、なにもおまえたちに教えてやれたことなんてないんだけど、それでもいちおう教師の端くれとしてな…これだけは伝えたい。おまえたちは、本当に、本当に、可能性の塊だ。チャンスは無限にある。」

卒業式のあとの

最後のホームルーム

担任の田中が熱弁してる

いつもはふざけてばっかりで

ロクに授業もしないんだけど

きょうはなんだか

様子が違うぞ

もっとみる
『「あなたは空を、飛んでみたいですか?」』

『「あなたは空を、飛んでみたいですか?」』

ある先端テクノロジー企業が

空飛ぶ靴の開発に成功した

靴底に動力源が着いており

かんたんなトレーニングで

子供から老人まで

誰でも自由に

空を飛べるという代物

諸々のチェックも済んで

いよいよ発売に向けて

動き出そうという段

顧客ニーズの把握のために

アンケートを行うことになった

(もっと早くやっておけよ)

その質問は実にシンプルで

「あなたは空を、飛んでみたいですか?

もっとみる
『凄圧!』

『凄圧!』

「すべては私の経営責任であり、ひとえに私の不徳の致すところと自覚している。頭を下げて許される話ではないが、是非この謝罪を…許されることであれば…これまで一緒に働いてくれた皆…本当に、本当に、申し訳ない…。これからの人生をどう乗り越えていくか、私がチカラになれることであれば、どんなことでも厭わないから、遠慮なく相談してくれないか。皆ひとりひとりと話し合っていきたいと思う。繰り返しになるが、今回この会

もっとみる
『俺の思てたんと違う…』

『俺の思てたんと違う…』

てりやきチキンとか

明太子とか

もうええやろ

なんで宅配ピザって

こんなんばっかなんやろ

俺はマルゲリータを

配達したいねん

ピッツァの本場

祖国イタリアにはない

素敵なデリバリー文化を求めて

大学の修士課程を投げ捨てて

Giapponeへ

いま俺は大手ピザチェーンの

デリバリー担当で

アルバイトしてんねんな

日本の宅配文化って

もともと古くてな

蕎麦に寿司

もっとみる
『不義理橋』

『不義理橋』

不義理橋(ふぎりばし)

我が地元に

そんな名前の橋があって

俺が高校まで過ごしたまち

貧乏ヒマなしで

そう頻繁には帰れないけど

都会にいても

いつも心のどこかに

地元の風景があるわけ

VVikipediaによれば

不義理橋という名の由来は

江戸時代の終わり頃まで

さかのぼるらしい

--

このあたりで有名だった

ちりめん問屋

そこに長年奉公として仕えた

丁稚の男が

もっとみる
『鬱の奴らと呼べばいい』

『鬱の奴らと呼べばいい』

時間とカネを持て余した

趣味の悪いオトコがいた

旨いモノは食い飽きたし

いいオンナは抱き尽くした

なにかもっと趣向をかえた

新しい娯楽はないものか

考えた

閃いた

精神を病んだ者…

あぁめんどうだな

鬱の奴らと呼べばいい

その鬱の奴らに

大金を渡したら

どうなるか

観察してみよう

そうだな

XX億円程度かな

鬱の奴Aに

XX億円を渡した

初めは訝しがったが

もっとみる
『授業をさぼって』

『授業をさぼって』

とある地方都市の

閉めきりシャッターが目立つ

そんな商店街に

いまだに存在感を放つ

見世物小屋があって

辿れる限りでは

その歴史は戦前から

ろくろっくびに

人面魚

まあいわゆる古典的な

見世物が

通りを賑わせたっていう

そんな話を聞いたのは

その町を郷里とする友人Aから

見世物小屋の主人は

わりと年増の女性で

その昔は綺麗どころとして

鳴らしていたという

当地の

もっとみる
『だって毎月10万で』

『だって毎月10万で』

社会人1年目の妹が

クレジットカードつくったって

そんでリボ払いだから

なんでも買ってあげるよお姉ちゃんて

すんごい姉思いの妹もって

ウチしあわせなんだが

そしたらウチの彼氏が

リボ払いあぶないからやめろとか

わけわかんないことゆってる

僻んでんのウザくて

彼氏のほしいものも

ウチの妹に買ってもらえば

それでいいかって

で何ほしいのってゆったら

彼氏ガチで怒ってて

もっとみる
『~コンサルで、食べていく~』

『~コンサルで、食べていく~』

「なぁヒロキ」

「なんすかニジト先輩」

「俺大学もうすぐ終わるじゃん」

「そうっすね」

「でさぁ、進路」

「はい、就職ですか?」

「なわけねーし」

「え、そしたら…」

「起業っしょ」

「うっわマジっすか」

「マジ」

「どんなことするんすか?」

「ヒロキにわかんかなぁー」

「舐めないでくださいよ」

「コンサルよコンサル」

「あぁコンサルっすか」

「これ見てよ…」

もっとみる
『ハワイに移住』

『ハワイに移住』

同級生の親友が

会社を辞めて

ハワイに移住するって

奥さんに

子供がひとり

一家3人で

今後はのんびり暮らすらしい

とてもうらやましい話だ

まず常夏で暖かい

日本人のコミュニティも

たくさんあるというし

快適かつ便利に

過ごせるっていうわけで

ただ親友が

ハワイを気に入ったのは

そこじゃないらしい

時間が遅れているから

そういうことだそうで

ああたしかに

日本

もっとみる
『アプリで配達やってんだけど』

『アプリで配達やってんだけど』

アプリで配達やってんだけど

なんか最近オーダー減ってきて

儲け少ないんだよな

なんかパァーっと

旨いもん食いたいなぁ



オーダー来た

XX飯店のチャーハンかよ

うーわこれさぁ

いちど食ったことあるけど

めっちゃくちゃ旨いんだよ

店に行って

チャーハン二人前と餃子を受け取る

食う

旨い

しぬほど旨い

しんでもいいかも

おっと浸ってる時間はない

コンビニに寄る

もっとみる
『狸助』

『狸助』

狸という字に「まみ」という読み方があるというのは、爺ちゃんのおかげで知って。

小さい頃から爺ちゃんがよく飲んでた酒のラベルに「狸助」とあって、漢字が読めるようになった頃に、「たぬきすけたぬきすけ」と僕が言うもんだから、爺ちゃんがこれは「まみすけ」と読むんだって。

でそれを学校の先生に言ったら、そんな読み方ないって。

僕の疑い深い性格は、その頃からかもしれない。

狸助は、全国的に出回っている

もっとみる