『水色の付箋』
帰宅するとポストに宅配便の不在連絡伝票が入っていて
宅配ボックスに入れておいてくれたらだいぶ楽なんだけど
でもどうやら冷凍だっていうからしかたないか
そうはいってもきょうはまだ月曜日
宅配便を受け取れる時間に平日は在宅してないんだよ
場合によっては土曜日も日曜日も会社かもな
ところで冷凍の荷物が届くような買い物はしていない
こんなブラック勤めにそんな時間もカネもないわけで
差出人を確認してみようにもどういったわけなのか
不在連絡伝票にはその名前が…書いていない
まぁもしかしたら誤配かもしれないし
そんなことより何より疲れた…寝たい…
月曜日の晩にそんなことがあったのを
この一週間の多忙ぶりがすっかり忘れさせてくれた
激務と言えば少しは聞こえがいいけども
じっさいは四十路にもなっていっこうに冴えない
自分自身の営業成績の悪さが祟っているわけで
趣味もできない恋人なんてできるわけがない
友達なんて会っていないし実家にも帰れない
けっきょく土曜日も出勤して終電で帰宅
日曜日に俺が部屋でひとり爆睡していると
ピンポーンと鳴って覗いてみれば宅配便で
ああ例の冷凍の荷物かということで
宛先は間違いなく俺だったから受け取ってみたわけ
ところが差出人は見覚えのない名前だし品名は空欄で
開けてみるとドライアイスがぎっしり
タオルでそいつらをおそるおそるよけてみたが
けっきょく箱の中身はカラっぽだったわけ
そう思ったら蓋の裏に一枚の付箋が貼りついていて
仕事でどれだけ叱責されようとも罵倒されようとも
なんとも思わないくらいメンタルは鍛えられてきた
言葉を失うなんてことがまだ実際にあるんだな
もう母親はこの世にいないかもしれない
俺がこんな無様なばっかりに…泣くになけないよ…
悲しすぎて悔しすぎて流れもしない涙を
半ば強引に絞り出そうとしたら
俺はハッと気が付くことがあって
インターフォンの録画をあわてて確かめてみたわけ
もうかれこれ１５年は会っていないけども
これはぜったいに間違いない
さっきの宅配業者
うちの親父じゃねえか