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『凄圧!』
「すべては私の経営責任であり、ひとえに私の不徳の致すところと自覚している。頭を下げて許される話ではないが、是非この謝罪を…許されることであれば…これまで一緒に働いてくれた皆…本当に、本当に、申し訳ない…。これからの人生をどう乗り越えていくか、私がチカラになれることであれば、どんなことでも厭わないから、遠慮なく相談してくれないか。皆ひとりひとりと話し合っていきたいと思う。繰り返しになるが、今回この会社をたたむことになったのは、すべて、私の誤った判断の結果であり、ここに集まってくれた従業員…仲間は…誰ひとり悪くない…決して許されることではないが、この場を借りて…深く、深く、謝罪したいと思う。誠に申し訳ない…」
残念ながら経営不振により
このたび倒産となったこの会社で
長らくわたしは
社長秘書として勤めています
大会議室に集められた
全社員の前で
社長は涙ながらに
土下座をしました
ときに厳しくも優しくて
周囲からの信頼も厚い社長
いつでも堂々として凛々しい人
そんな社長のこのような姿を
わたし自身も初めて目にして
若干困惑しつつも
こみ上げるものがあります
それはどうやら
他の従業員のみなさんも
同じ感情を抱いたようで
咽び泣き
啜り泣き
そして口ぐちに
社長は悪くありません
俺たちのことは心配しないで
そんな声が聴こえてきます
5分ほど経った頃でしょうか
最前列にいた古株の鈴木さんが
どうか社長直られてくださいと
頭を上げるよう促されて
そしてそのまま
終業時刻を知らせるベルが鳴って
従業員集会はお開きとなりました
先に大会議室をあとにした社長を
追いかけてわたしも社長室へ
すっかり真っ暗になった窓の外を
ぼんやりと眺める背中がありました
帰宅していく従業員のみなさんの
後姿でも追いかけているのでしょうか
気分を落ち着けていただくために
コーヒーでも
淹れて差し上げようと思ったら
すでにもう何か飲まれていて
黒い小瓶のような
幸か不幸か
わたしは視力が良いので
離れた距離でも
そのラベルが目に入って
凄圧!スッポンマムシドリンク
思わず
げっ
という声が出てしまったんです
そこで社長は
わたしの存在に気付くと
自信に満ちた声で
「今夜の俺は凄いぞ、いいか?」
窓に写ったわたしの顔
その色までは伺い知れませんが
きっといつも以上に
紅潮していたに違いありません