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●ショートショート●

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これまでに書いた短編小説、ショートショートをまとめたものたち。
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【ショートショート】 月曜日のかき氷

【ショートショート】 月曜日のかき氷

 月曜日の朝。カーテンが半分だけ開いた、部屋の中。
 太陽は、もうすでにしっかり目覚めている。今日も暑くなりそうだなと、思う。

 身支度をしながら、他愛のない話をする。

「私、生まれ変わったら猫になりたい。でもできることなら、もう生まれたくないかも知れない」
「なんで?また生まれて、次もちゃんと私を見つけて、友達になってよ」
「うーん。自信ないから、チイちゃんが私のこと見つけてよ」
「じゃあ見

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【ショートショート】 私と夏とビー玉

【ショートショート】 私と夏とビー玉

 授業中、気まぐれに筆箱の中を探ると、コロンとした球体が出てきた。

 それは何の変哲もない、淡い水色のビー玉。

 そうだ、すっかり忘れていた。
 消しゴムのカスや、筆箱の糸くずがついているそれに、ふうと息を吹きかける。

 私の吐息でふわっと曇ったそれを、指の腹でぎゅっと擦る。そうすると、あっという間にそのガラスの球体は「透明」を取り戻す。

 これは二週間ほど前に、隣の席だった松井さんがくれ

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【ショートショート】 空の上の七夕事情

【ショートショート】 空の上の七夕事情

「いや、まじでごめん。とりあえず今日は無理なの」

 電話の向こうでベガさんがそんなことを言い出したのは、七月七日のお昼を少し過ぎた頃だった。

 着信があったスマホの画面にその名前を見て、ウキウキで応対した数分前の気持ちは、今やすっかり萎んでしまっている。

「えっ……。だ、だってもう今日だよ。会うのが嫌だって、あまりに急すぎるよ」
「ほんと、そこに関してはガチでごめん」
「七月七日は、一年に一

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【ショートショート】 ある朝起きると

【ショートショート】 ある朝起きると

 人生には、ひどく嫌なことが続く時期がある。

 いつからだろう。私は、何となくそういう薄暗い時期に入ったことを感じると、眠る前にそっと祈るということをするようになった。

 毎日毎日やってくる真っ暗な夜に、繰り返し繰り返し祈り続けるようになると、それはだんだん習慣になる。

 気がつくとそれは、眠りに繋がるルーティンになっていた。

 夜、灯りを消した部屋でベッドに入り、目を瞑るその少し前。
 

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【ショートショート】 喫茶店デジャヴ

【ショートショート】 喫茶店デジャヴ

 寝坊による遅刻から始まった今日は、朝からドタバタ続きだった。

 挙げ句の果てに、急な外回りの予定が入ってしまい、昼ごはんもすっかり食べ損ねてしまった。

 お腹が空くと、こんなにも心が弱るものなのだなあと、私は自分を俯瞰で見ながら少しだけ感心する。集中力も持たないし、何となく気が立っている。

 朝ごはんを食べられなかったのは、寝坊した自分のせいだし、昼ごはんを食べられなかったのは、効率よく動

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【ショートショート】 表面張力

【ショートショート】 表面張力

 十年以上も別々な人生を生きてきた、いろんな人間がごちゃ混ぜに存在する学校みたいな環境だと、どうしても「いじる人間」と「いじられる人間」が生まれる。

 俺たちのクラスも、例に漏れずしっかりその「病」にかかっていて、俺はどちらかいうと「いじられる側」の人間だった。

 昔からそうだったから、そういうものだと思っていたし、自分としてはさほど違和感はなかった。

 だからこそ、俺を「いじる人間」がずい

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【ショートショート】 おじいさんの赤いスカーフ

【ショートショート】 おじいさんの赤いスカーフ

 その日は朝からどんよりと曇っていて、母さんに言われて渋々折り畳み傘を持ってきた。

 正確にいうと、「ツバメが低く飛んでいるから持っていきなさい」と言う母さんの言葉を、面倒くさいと無視していた。
 そうしたら、「あんたは本当に言うことを聞かないね」と、ランドセルの隙間に折り畳み傘を差し込むついでに、ゲンコツをおまけでつけられた。暴力反対。

 僕の日常なんて、そんなもんである。
 ゲンコツのあた

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【ショートショート】 指先の宝物

【ショートショート】 指先の宝物

「今日は、あなたの中の宝物について、語ってもらおうと思います」

 黒板の前で先生がそう言うのを、私は頬杖をつきながらぼんやりと聞く。

 自分の中の宝物。

 プラスチック製のあるアニメキャラクターの人形、カルピスの匂いのする消しゴム、父が出張先で買ってきた異国のポストカード、小さなゼンマイ仕掛けのオルゴール。

 配られる作文用紙を後ろのクラスメイトに回しながら、ちょっと考えてみたら、思ったよ

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【ショートショート】 その猫が言うには

【ショートショート】 その猫が言うには

「いいですか、きみ。よく聞くがいいよ」

 不意にどこからかそんな声が聞こえて、その声の持つ緊張に、私は思わず微睡から身を起こす。

 ぐるりと部屋を見渡して声の主を探すけれど、この部屋には自分以外誰もいない。そっとスマホの画面をつけて、時間を確認した。

 十五時過ぎを示している、その画面の明るさとは裏腹に周囲は随分と薄暗い。

 大学の授業の空き時間に、使われていない教室でうたた寝をしていた。

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【ショートショート】 さかなのノート

【ショートショート】 さかなのノート

 授業中、教科書とノートを自分の座る席の机上に広げる。

 そこは私にとって、五十分を過ごすにはあまりに狭い世界なので、私はときどきノートの「なか」に救いを求める。

 授業がつまらないなとか、教室を出てどこかに行きたいなと思うたびに、ノートの最後のページにさかなの落書きをすることにしたのは高校一年生の頃だ。

 本当に、「つまらないな」と口に出して言ったり、どこかに行ったりしてはいけないというこ

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【ショートショート】 太陽スキャナー

【ショートショート】 太陽スキャナー

 寝ぼけたまま、まともに目も開けずに手探りで窓を開ける。
 ぶわりとカーテンが広がって、部屋の中に渦巻いていた灰色の空気が一気にかき回される。

 昨日、五年付き合った人と別れた。

 おしゃれで聡明な人だったけど、いつも難しい顔をしているから、それを和まそうと私はいつも一生懸命だった。

「元気なところが好きだよ」と言われて、素直に嬉しかった。だから私はいつも元気でいた。いつも元気でいたくて、い

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【ショートショート】 地蔵さんの計らい

【ショートショート】 地蔵さんの計らい

 昨夜、俺は結構酒に酔っていた。

 職場の付き合いで行った飲み会で、日頃の仕事の話に始まり、休日の過ごし方へ話題は移行する。
 元々プライベートと仕事は分けたいタイプだし、恋人の有無や家族の話になる頃、俺はすっかり疲れていた。

 早く帰りたいなあ。
 まあ帰ったところで、上司や先輩のようにそこに待つ人がいるわけではないけれども。

 それでも俺にとっては、俺の好きなものだけを集めた、唯一無二の

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【ショートショート】 あの日のクレープ

【ショートショート】 あの日のクレープ

 じわりと夜が滲むような、春の夕暮れで満たされた廊下を、ものも言わずに歩いていく。

 そんなミオの背中を、私も同じく黙ったまま追いかける。決してミオのためではない。私は、たぶん私のために彼女を追いかけている。

 部活の後、ミオは確かに泣いていた。
 ロッカールームに忘れ物をしたことに気がついて戻ったとき、私はそれをみてしまった。

 一年の頃から同じクラスで、同じグループで楽しくやってきたけれ

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【ショートショート】 春吹く窓辺で

【ショートショート】 春吹く窓辺で

「中島ちゃーん。次の数学の課題、終わってたりしない?」

 休み時間になると、青木さんが声をかけてきた。

 終わってたりしない?なんて聞いておきながら、彼女は私が課題を終わらせていることを、ほぼ確信して聞いてきている。多分。

「あ…うん、終わってるよ」
「よかった!ごめんだけど、お願い!見せて!」

 手のひらを合わせて、ごめんのポーズをしながら、大して悪びれた様子もなくそんなことを言う。まあ

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