2023年9月の記事一覧
馬が走るには理由が必要。
悲しそうな男の顔を横目に、タバコに火をつける。
数日前に仕事を頼みに来た男は、「覚悟はできましたから」と言っていた。
その気持ちは分からなかったが、今日の気持ちは理解できる。
タバコを消してから、マスターに視線で帰りを伝えた。
席を立つ。
恋人が死んだのだ、そのくらいの顔をするかと背中越しに思った。
「頼まれた仕事は終わらせる」とだけ言って店の外に出ると、雨は上がっていた。澄んだ風が静かに、星
偽ったつもりはなく、だた静かに歩く。
森の嫌われ者だった。
あまり話すのが好きではないし、自分の縄張りに出入りされるのも誰かと一緒に過ごすのも得意ではないらしい。
その体は大きく、守られる者からしたら頼もしいと感じるのかもしれないが、それ以外のものが感じるのは恐れだった。
怒りをぶつけることも無かったし、愛想笑いをしたこともなかった。
ただ眉間にシワを寄せ、遠くから眺めていた。
でもそれは、そう誰かが言っただけだった。
虎が一匹
暇だったから、ただ暇だったから。
無数の花が咲く花畑を、その人は、丘の上のベンチから眺めていた。
この中に四つ葉があるのだなと思うとすこし幸せだし、なにがあるか見えない深海の底には、恐れと好奇心を連れてくる。
その人は、靴ひもが片足だけほどけているのに気が付いていたが、そのままにしていた。
シャボン玉を吹くように息を吐く。
ビーチの砂利の大きさをバラバラにするために風を吹かせた。
それと同時に、何かの火が幾つか消えた。
そ
恐らくは報われない。
なるべく息を殺して走った。
夕方。カラスが鳴くには早い時間だが、ひとりで外にいる男の子には十分に罪悪感のする時間帯だった。
それでも走った。家とは関係のない方向へ走っている。
走るのなんて得意でもなんでもないが、草むらの中を進むと一度振り返ってから直感的にその場にしゃがんだ。
役目を終えたようにくたびれた色をした雑草は、頬のあたりまで背伸びしてくれている。
虫の声が、うるさい。
そして、それよ
いつもの席で、いつも二人で。
「優しさにすら傷付くような弱い人間だから」そう言ってから、彼女は美味しそうに注文したパスタを食べはじめた。
そんなことを自ら口にするような人は本当に弱いのか、と頭をよぎった。
でも弱っている可能性はあるか、と思い直して「そうなんだ」といつもの相槌をかえした。
彼女は時々、こんな風にボクを食事に誘って、いや、ボクを食事に誘ってではない。彼女の食事にボクを誘う。
そんな彼女を、頭ごなしに否定できないボ
雨からは傘が守ってくれるのに。
買ったばかりの小説が、残りのページ数を減らしながらクライマックスに向かっていく。
コーヒーショップの端の方に座り、わたしは小説を読んでいた。
グラスの中のアイスコーヒーが減り、溶けた氷のだけが抵抗いている。
いつのまにか、わたしたちは定期的に数字を確認しないと生きていけなくなってしまった。それは、何故かわからない。
この国では聞いたこともない依存症の名前がピョコピョコ顔をだす。だけど、ここは少し