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馬が走るには理由が必要。

悲しそうな男の顔を横目に、タバコに火をつける。
数日前に仕事を頼みに来た男は、「覚悟はできましたから」と言っていた。
その気持ちは分からなかったが、今日の気持ちは理解できる。

タバコを消してから、マスターに視線で帰りを伝えた。
席を立つ。
恋人が死んだのだ、そのくらいの顔をするかと背中越しに思った。

「頼まれた仕事は終わらせる」とだけ言って店の外に出ると、雨は上がっていた。澄んだ風が静かに、星の音だけを運んでいる。

「黒い体は雨を呼ぶんだ」と、親戚の爺さんだか婆さんだかわからない奴から聞いた話を思い出していた。
わたしの周りには、よく雨が降る。
毎日世界は泣いている。だから、そう珍しいことではない。

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