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湿り気のある土地

窪んだだけの湿地がある。
その半分はブロッコリーの森林地帯で、残りの部分はなんだか割らない粘着質のソースのような沼が広がっている。

沼は臭い。
「独特な匂いがする」と好意的な印象で言い表す者もいるが、現実は臭い。
触れると何日も匂いは取れないし、色だって染みつく。
そして沼は森林と共存などしておらず、次第にブロッコリーの森林は、「森林」とはとても呼べないような寂しい姿にしていった。
いまでは湿地の端のほうに、一本だけを残した。
その後、沼は広がることはなかった。
それどころか、年月とともに面積を減らしていく。
そして、湿地も湿り気を失い、ゴツゴツとした渇いた土地となる。

それでも一本のブロッコリーは残り、沼は臭い。

次第にブロッコリーの周りには人々が集まるようになった。
ある者は奇跡の大木だと言い、またある者は己を犠牲にして沼を吸い上げた尊き大木だと言い称えた。

当然だが、「そんなことはない」と異を唱える者もいたが、そんなものは異端だとして沼に沈められる。
冷静に検証しようとする研究者も沼に沈められた。
馬鹿馬鹿しいと出て行こうとする者も、追いかけて沼に沈められた。

ある日の夜明け前、ひとりの青年、もしくは少女が湿地を出て行った。
大きなブロッコリーの大木が月を隠し、沼の悪臭がすべての動物たちを寄せ付けなかったから、その者が誰だったのかはわからない。

渇いた地面は、とても走りやすかった。
追いかけてくるものなど誰もいないのだが、なるべく足早に立ち去った。

その者の足跡はどうなるのだろう。
汚れたナイフは何処に行ったのだろう。
恋人を捨てるのは罪なのだろうか。
友人を裏切るのはどんなときも悪なのだろうか。
亡くなった先人を弔わないのは非常識なのだろうか。
全ての事柄に正解を出せないと進むべきではないのだろうか。
心を開いたふりをして過ごすのは、いけないことなのだろうか。
笑顔の中には敵意はないのだろうか。
不確かなものを想像するのは悪なのだろうか。

その湿地は今、半分はブロッコリーの森林地帯で、残り半分は沼が広がっている。
誰かが覗きに来るのかは分からない。
でも、沼は臭い。


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