マガジンのカバー画像

エッセイを書きたかったけど、書けずに、行き着いた場所。

173
フィクションです。
運営しているクリエイター

2023年5月の記事一覧

【エッセイ】 文章の香り。

【エッセイ】 文章の香り。

パソコンの前でウンヌン唸って、もう何分が過ぎたのだろうか。せっかく早起きをしているというのに、時間だけが過ぎていく。目の前の四角い窓からは、鳥たちが上から下へ、下から上へと飛び回っている。歌っているかのようにピイピイ騒いでいた。

この部屋は南西向きなんだろうか。陽光は四角の左奥から街を照らしているため、朝だというのに部屋が暗い。こういう部屋で過ごすと、朝の目覚めが悪くてダメだ。太陽を浴びていない

もっとみる
【エッセイ】 ハクブツカン。

【エッセイ】 ハクブツカン。

博物館に行った。
そこには進化が展示されていた。

地球の誕生から始まり、微生物、植物、動物、人間と進化していく過程。そして、住居や科学の発展。今、自分がここに存在することを疑ってしまうような驚くべき事実が並んでいた。

人間の祖先は海の中にあると言われているが、何億年も前の海の中には、ウネウネしていたり、トゲトゲしていたり、ギョロギョロしているような奇妙なヤツらしかいない。ってことは、ウチは、こ

もっとみる
【エッセイ】 よくある詰問。

【エッセイ】 よくある詰問。

大きい男の人がウチの両腕を掴みながら、背中に足を押し付けている。胸を突き出すように前のめりになってしまう。目の前には大きな空。下には家やお店が点々と並んでいる。ここはビルの屋上だろうか。今、ウチは脅されているんだろうか。恐ろしいことが起きているような気がした。

「好きなものとかないの?」

大きな男の人は叫んでいる。いや、もしかしたら、叫んでいるのは小柄な女の人かもしれない。グイグイと足に力を込

もっとみる
【エッセイ】 妖精の国には雨が降っている。

【エッセイ】 妖精の国には雨が降っている。

灰色の空からちらちらと水が降っていた。時刻は7時を回っている。朝ごはんが食べたい。でも、英語が話せない。だから我慢することにした。雨が降っているが、窓を少しだけ開ける。湿った空気が乾いたホテルの部屋を潤す気がする。外からカモメの声がした。

トランクに鍵をかけて、パスポート、財布をコートの内ポケットにしまう。リュックは軽い。荷物は折りたたみ傘一本、これだけだ。あっという間に用意が終わる。まだ、10

もっとみる
【エッセイ】 縦書きか、横書きか。

【エッセイ】 縦書きか、横書きか。

間違えて本の最後のページを開いてしまった。「ああ、もう」と口の中で呟く。プログラミングされたロボットのように、手が勝手に動いていたのだ。

本が嫌いになったのは、そんな些細な理由がキッカケだったかもしれない。国語の教科書と、他の教科書では読み方が全然違う。「縦書き」と「横書き」になっている。なんでなのか凄く不思議で、気持ち悪かった。でも、誰も納得いく答えを言ってくれなかった。今だに納得はいっていな

もっとみる
【エッセイ】 なつかしい。

【エッセイ】 なつかしい。

いくあてもなく書いていく。ただ、手が動くままに。

最近は、あったかくなってきたせいか、目覚めがいい。今が一番、過ごしやすい時期なのかもしれない。日中は暑く、夕方は涼しい。いい。すごくいい。ノスタルジーに浸りやすい時期な気がする。

ノスタルジーは郷愁ってやつ。どちらの言葉もかっこよすぎて実感が湧いてこないんだけど、「懐かしい気分」ってやつかな。「懐かしい気分」ってなに? と言われると、正直、説明

もっとみる
【エッセイ】 世界の見渡し方。

【エッセイ】 世界の見渡し方。

世界を見渡してばかりいる。世界はウチが思っている以上に広い。それは地球規模で考えることもできるけど、もっともっと日常に根付いた世界でも同じこと。自分の知らない世界が多すぎる。

玄関を出る。そこには毎日みる景色が広がっている。電信柱、信号、集合住宅、遠くに畑。でも、角にある会社のことは知らない。足元を見ると、コンクリートの隙間から細長い緑の葉が伸びていた。小さな白い花を咲かせている。でも、名前は知

もっとみる
【エッセイ】 老い風を吹かす。

【エッセイ】 老い風を吹かす。

「老い」について考えるとき、つい自分の体力の衰えとか、見た目の劣化ばかりに気を取られてしまう。

確かに自分を襲う「老い」に対する恐怖はある。明らかに若い頃より疲れるようになったし、準備運動をしなければケガをするようになった。脂肪も落ちなくなってきているし、肌のくすみも気になってしまう。いつまでも若いままではいられない。

でも、もっともっとリアルな「老い」は、親に訪れるんだと思う。

自分の精神

もっとみる
【エッセイ】 書くようになっておもったこと。

【エッセイ】 書くようになっておもったこと。

ここ、二、三年で、文章を書くようになった。

厳密には、書いているわけではなく、キーボードを叩いて、文字を打ち込んでいるだけなんだけど。

それでも、それまでの生活とは一変したという実感がある。

「楽しい世界、見つけちゃった!」って感じ。

キャリアで言ったら、まだ二、三年の、素人の趣味!

そんな人間の文章なんて、物好きの、たぶん、社会的な少数派と呼ばれるであろう人たちの中から、さらに厳選され

もっとみる
【エッセイ】 ネガティブな航海。

【エッセイ】 ネガティブな航海。

自分でも知らないうちに、ネガティブな思考に陥ってる時がある。原因はいろいろとあるんだと思う。これだ、という出来事があればいいんだけど、日々の積み重ねの中で生まれてくるものなんだろうね。フクゴウテキってやつ。だから難しい。

たぶん、これは周期的に訪れるモノなんだと思う。海みたいに満ちたり引いたりするもの。防波堤のようなものを作って波を堰き止めることも出来るのかもしれないけど、だからといって波自体が

もっとみる
【エッセイ】 おばさんの背中。

【エッセイ】 おばさんの背中。

親戚のおばさんが、とある俳優のファンになっていた。ちょっと意外だった。

おばさんは厳格な人で、礼儀に厳しい。食事の席では誰がどこに座るかなどに物凄く配慮をするし、あたしが粗相でもしようものなら、怒りの拳が頭に落ちてきた。石のように固い拳には、愛のムチなんていうヌルさはない。足の先まで痺れるような痛みが走る。

仕事への向き合い方もストイックで、部下に仕事を任せることもあるが、基本的には一人でゴリ

もっとみる
【エッセイ】 料理と呼んでもいいだろう!

【エッセイ】 料理と呼んでもいいだろう!

子どもの頃、一日かけてシュークリームを作ったことがある。別にプレゼントする相手がいたわけではない。ただただ自分が好きだから作ってみたくなったのだ。

子どもって、そんな衝動的な生き物だったりすると思う。あたしのシュークリーム作りは、まさに、そんな衝動から始まった。

シュークリーム作りは想像以上に難しかった。レシピも材料も、とてもシンプルなのに、パイ生地が膨らないのだ。それでいて食べても美味しくな

もっとみる
【エッセイ】 手入れが必要。

【エッセイ】 手入れが必要。

「もっと太ったほうがいいよ」

数ヶ月前、40歳ほど年上の男性にそう言われた。
彼は、ウチの先輩の大学時代の先生だった。

ウチとは全く関わりがない。
でも、先輩は酔っ払うと必ず先生の名前を出した。

「俺はなあ、先生と出会えたから、今、ここにいるんだよ」なんてことを、よく言っていた。話を聞けば、確かに立派な先生らしく、よく人を怒ることで有名だったらしい。

「いまどき、真剣に怒ってくれる人なんて

もっとみる