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【エッセイ】 料理と呼んでもいいだろう!


子どもの頃、一日かけてシュークリームを作ったことがある。別にプレゼントする相手がいたわけではない。ただただ自分が好きだから作ってみたくなったのだ。

子どもって、そんな衝動的な生き物だったりすると思う。あたしのシュークリーム作りは、まさに、そんな衝動から始まった。

シュークリーム作りは想像以上に難しかった。レシピも材料も、とてもシンプルなのに、パイ生地が膨らないのだ。それでいて食べても美味しくなかった。

いや、美味しくないというレベルではない。
ものすごく、マズかった。

卵、牛乳、水、バター、グラニュー糖、塩、薄力粉、カスタードクリームという、どう頑張っても甘くなるであろうレシピなのに、あたしのシュークリームはマズかった。ベタベタした粉の味がした。

想像してみてほしい。コージーコーナーと同じようなクオリティを求めながら、心を踊らせ、一生懸命シュークリームを作る子どもの姿を。

頭の中に「マズい」なんて文字のカケラも浮かんでいなかった。だから、噛んでビックリ! あまりのマズさに、あたしは傷ついてしまった。

思えば、これが理想と現実の違いを見せつけられた最初の体験だったかも知れない。

悔しくてたまらなかった。当時は今とは違い、負けん気が強かったので、あたしは諦めずに何度も何度もシュークリーム作りに挑戦した。

レシピは間違っていない。
水や卵の量を調整をする。
焼く。食べる。マズい。
その繰り返し。

本当に、朝から晩までシュークリームを作っていた。

しかし、結局、一つもシュークリームはうまく焼けなかった。全てがマズかった。もったいないことをした。

夜遅くに帰ってきた母は、粉っぽくなった家に驚いてはいたが、あたしを怒ることはなかった。半べそをかきながら、その日一番上手くいったシュークリームを手渡すと「やるねえ!」と、子どもでも分かるような嘘をついてくれた。

その優しさが嬉しくて、でも、あたしの胸にはチクチクと刺さるような痛みが残った。

お菓子作りと料理は違う。
んなこたあ、わかってる。

でも、この日から、あたしは料理に対して苦手意識を持ってしまっている。

今だに料理に対しては苦手意識があり、手の込んだ料理はしない。人の苦手意識というものは、そういうものなのかもしれないね。

あたしが食べるベースメニューは、お味噌汁、玄米ご飯、納豆、キムチ、お豆腐。もはやこれは料理ではない。

仕事場に持っていくお弁当も、おにぎりだけ。一対一の割合で白米と玄米を混ぜたご飯に、美味しいふりかけをまぶして握る。

あたしの料理は、これが精一杯だ。
恥ずかしくてたまらない。

でも、たったこれだけの作業でも、あたしはご飯を作っている時間が好きだ。おにぎりを握る時間も楽しい。心のモヤモヤが静かに沈殿していき、頭の中がクリアになっていく。精神がととのうのだ。そして、積もったイヤなものは、洗い物と一緒に流してしまう。

苦手意識は持っているけど、とっても気軽に料理? をしている。

料理と呼んでもいいだろう!

そういえば、料理研究家の土井善晴さんの本にも「一汁一菜でよい」と書いてあった。その本に載っている、土井さんの料理写真をみて、ホッとした自分がいた。正直、すっごく地味な料理だったのだ。

なんなら、「あたしのご飯と大差ない」とまで思ってしまった!
(自惚れでもなんでもなく、土井さんの本は、料理ベタ人間に勇気を与えてくれる!)

あたしは間違っていない!
あたしは間違っていない!

土井さんの言葉に背中を押され、そんなことを呟きながら、あたしは今日もおにぎりを握る。

ラジオを流して、パーソナリティの声と音楽に合わせながら、ふりかけを振る。

お味噌汁のもとは持った。

今日は、祖母から届いたワラビのおひたしをラップに包んで持っていこう。

それでは、今日も行ってきます。


ちなみに、最近食べて美味しかったふりかけは、「のどぐろ」のふりかけです。

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