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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう

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連載小説のまとめです。 1話あたり2、3分で読めるようになってます。 ほのぼの家族の代わり映えしない日常の、ほんの少しずつの変化を描いていきます。
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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<18>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<18>

名前を呼ぶ「あかちゃん、かーいーね」
 綾はずっと眺めている。ほっぺたを突いてみたり、手足を触ってみたり、キスしてみたり。まるでペット扱いではあるけど、これはこれで可愛い。
「綾、赤ちゃんの名前は晴太くんだよ」
「せーた、くん?」
「そう、天気が晴れるに太いで晴太。晴れ晴れと図太く生きて欲しい、と思ってね」
 綾に由来を説明してみると、首を傾げた。まだ漢字の概念が無いもんな。
「決めたんだね、そっ

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<17>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<17>

おねえちゃん 分娩室に入った僕たちは、中の雰囲気に飲まれてしまった。
「はい、もう少し頑張って」
「ふんっーーー」
 もうすでにお産が始まっていたのだ。
 苦しそうに呻く宮子を見て、綾が慌てだした。
「ハハ、ハハ、だいじょーぶ?」
 僕があっけに取られている内に駆け出す綾、分娩台の傍に行き、何かを踏んだ。
「あーーーー!」
 思わず叫んだ僕に、医師たちが非難の目を向ける。
 同時に、分娩台が下がり

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<16>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<16>

産院での出来事 産院についた宮子は、いったん診察のために移動した。
 僕たちは待合室で待っている。なんとなく落ち着かない。綾は特にそうで、さっきからウロウロしている。
「綾、座りなさい」
「んー、ハハ、だいじょーぶかな」
「心配せんでもよか。綾の時も、ハハは頑張ったと」
「がんばったと?」
 たまに、綾は福岡弁が理解できずに聞き返す。
「ハハは頑張ってるから、大丈夫だよ、ってことだよ。綾の時も大丈

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<15>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<15>

長い一日の始まり そして、長い一日が始まった。

 その日は休日で、僕は予定日を迎えた宮子をいつでも搬送できるように、準備を整えていた。
 宮子も今日ばかりは安静にしていて、ソファに横になってテレビを見ている。
 綾はそのソファの下で宮子と一緒にテレビを見ていた。
「ハハ、ねこさんかーいーね」
「癒されるよねえ」
 ストーリーものだと続きが気になっちゃうから、と録画していた動物番組を視聴中だ。今は

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<14>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<14>

綾の冒険 目の前をアリが通り過ぎていく。
 綾はそれを不思議そうに眺めていた。
 なんでこんなに小さいものがいるんだろう?
 昨日よりも、一昨日よりも、世界は不思議に満ちていた。
 一昨日は咲き誇るピンクの花を見た。それはハラハラと樹上から舞い落ちてきて、綾の鼻先に止まった。
 昨日は大声で叫んでいる人を見た。何を言っているのか綾には分からなかったが、何かに怒っているのだけは分かった。なぜ、そんな

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<13>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<13>

二人の会話「今日の綾はどうだった?」
「あれ、帰って来ての第一声がそれ?」
「う……気になったから」
「あはは、元気だったよ。お姉ちゃんが公園に連れて行ってくれたの」
「そうなんだ。和美姉さんにはお礼言っとくよ」
「勇希くんの実家が近くなの、ホント助かる」
「そう言ってくれると嬉しいね。宮子もたまには実家に帰りたいだろ?」
「うーん、それはそうなんだけど、五月の連休からはしばらくこっちに滞在してく

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<12>

綾が得意なこと「チチ、チチ、これやろ」
 綾が何やら持ってきた。板みたいなものだった。
「何やるの?」
 昨日仕事が珍しく遅かったのでちょっと横になっていた。起き上がって綾の手元を見ると、やはり、パズルだった。
「これ、やりたい」
「どーぞ」
 一人で遊べるものだけど、綾は僕と一緒にやりたがる。出来上がった時に褒めてもらうためだ。
 今も僕の目の前でパズルを睨みつけるようにして取り組んでいる。いく

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<11>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<11>

僕がいないときの日常 普段、僕はプログラマーとして働いている。
 とはいっても世間で思われているほど帰りが遅くなることもなく、定時に近い時間には帰れているので非常にありがたい。
 では、僕がいない日中、宮子と綾が何をしているかという話をしよう。

 まだ幼稚園に入っていない綾は、普段は自宅で過ごしている。
「ハハ、お腹すいた」
「えー? 朝ごはん食べたばっかりだよ」
 綾の言葉に宮子が叫ぶ。
「だ

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<10>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<10>

チチと呼ばれて「チチ、だっこ」
「また? ちょっとは歩きなよ」
 そういいながらも抱っこする僕は甘いんだろうか。ニコニコと笑顔を見せる綾は僕の首に手を回しながらほっぺたをつねったりしている。
「ちょ、痛いよ」
「チチのほっぺ、いたーい」
 そう言って笑った。午後も遅くなり、髭が伸びてきたらしい。昼過ぎから綾の退屈地団駄が始まり、見かねて公園に遊びに来たのだった。
 まだ二歳の綾は、滑り台を上るのを

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<9>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<9>

そして…… 今日、とうとう綾がつかまり立ちした。
 宮子とハイハイ競争をしていたおかげか、足腰も丈夫、体も良く動く。運動たっぷりなので離乳食もよく食べる。
 本当に産まれたのが昨日のような気がするのだけど、目の前の彼女はすでに立派な子供だ。
 一年早かったなぁ。
「綾ちゃん、お誕生日おめでとう!」
 まだロウソク吹き消すのはできないので、僕と宮子で代わりに。
 いつもより豪華な食事内容に、心なしか

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<8>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<8>

成長の早さにおどろく え、もう十か月経ったの?
 カレンダーを見て思った。あと二か月で誕生日じゃないか。
 そういえばお食い初めもやったし、離乳食も始まったし、ハイハイしてるし、自分で座ってるし、産まれたての時の写真と比べたらもう立派な子供だと言っても過言ではない様子だ。
 これはもうすぐ立ってしまうんではないだろうか。
 アヤヤが立った! と叫ぶ日も近い。

 さて、驚いてるのは僕だけじゃなくて

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<7>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<7>

這いよる混沌 とうとう、ハイハイが始まった。
 綾は好奇心が強いらしく、寝返り打てるようになってから周囲に色々なものを置いて取らせてみていたら、あっという間にハイハイを始めてしまった。まだお腹が床についているので匍匐前進、という感じだけど、それにしても速い。
 僕がちょっと目を離すと、もう部屋の端に行ってしまっている。
 部屋が狭いのもあるけど、それにしても力強い動きだ。
「はう、はーむ、ふう、へ

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<6>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<6>

プクプクからサクサクに 寝返りしだしてからの綾はみるみる痩せていった。
 あ、虐待ではないです。
 今までは食べて寝る、泣く、なんか動いてる、だけだったのが、全身を動かし始めてから目に見えてスリムになってきた。
 筋肉質、というほど筋肉があるわけではないけれど、何となく力がついて消費カロリーが増えたんだろうなぁ、という想像がついた。
 かく言う僕も筋トレは欠かせないのだが、年追うごとに脂肪が付きや

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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<5>

<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<5>

寝返りのころ とうとう、寝返りができるようになった。
 ただ寝っ転がっていた生き物が、自由に動くようになってしまったのだ。
 この衝撃は、一緒に暮らした者しか分からないと思う。
「じゃあ、綾は真ん中で。雄輝くん、寝返りして潰しちゃ、や、だからね」
 宮子に念を押される。僕だって自分の子供を潰したくはないよ。
 しかし僕たちは甘く見ていたのだ、寝返りを打つ子供というものを。
 まさに「川の字」になっ

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