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<連載小説>昨日のような、明日を生きよう<13>

二人の会話

「今日の綾はどうだった?」
「あれ、帰って来ての第一声がそれ?」
「う……気になったから」
「あはは、元気だったよ。お姉ちゃんが公園に連れて行ってくれたの」
「そうなんだ。和美姉さんにはお礼言っとくよ」
「勇希くんの実家が近くなの、ホント助かる」
「そう言ってくれると嬉しいね。宮子もたまには実家に帰りたいだろ?」
「うーん、それはそうなんだけど、五月の連休からはしばらくこっちに滞在してくれるらしいからそれで満足かな」
「綾の時は間に合わなかったもんね、お義父さんたち」
「そうなの。それをすっごく後悔してて、今度は早めに行くからな、って」
「そ、そうか……仕事大丈夫なの?」
「店はしばらく閉めるって。配達や受注は孝義がやってくれるから大丈夫なんだって。お父さん、勇希くんとお酒飲めるの楽しみにしてて、店の酒を持って行くからって言ってた」
「孝義くん……使われてるな。自分の仕事もあるのに。お酒は、正直楽しみ。さすが酒屋さんだね」
「ふふ、楽しみにしてて。孝義のこと、エンジニア仲間としては気になる?」
「そりゃまあ。ゲーム制作って大変だって聞くし」
「でも、在宅でやれるから意外と気楽だって言ってたよ。机に椅子、モニターが三台、音楽が快適に聞ける環境を用意したから会社でやるよりはかどるって」
「さすがだな……僕も在宅勤務しようかな」
「勇希くんは家だと仕事にならないと思うよ。しょっちゅう綾がくっついてくるし、勇希くんも綾を構いたくて仕方ないでしょ?」
「うっ……」
「早く帰れるんだからそれで我慢してください」
「はい……」
「それでね、お義姉さんと公園に行って、砂場で遊んだんだって」
「何作ったの?」
「お家。私たちと太田の実家が一緒に住む二世帯住宅、だって」
「そ、それは綾の発想?」
「そうらしいよ。みんなで一緒がいいな、ということだそうです」
「それはそれは……で?」
「ちゃんと自分の部屋も用意したし、赤ちゃんの部屋も用意してあるんだって。お義姉さんが言うには、リビングが一緒だったりトイレが一階にも二階にも用意されてたり、不動産関係者から見てもなかなか見事な間取りだったって」
「こんなところに才能が……」
「もう、親バカね。綾の考え方からしたら当たり前のことじゃない?」
「そうかな」
「だって、ウチでも一番過ごすのはリビングなんだからおじいちゃんたちとも一緒に過ごしたいでしょ。それにトイレトレーニングやってるから、綾からしたらトイレはたくさんあった方が良いよね」
「なるほど、そういうことか。綾は将来どんな仕事に就くんだろうね」
「本人はお菓子屋さんだそうですよ」
「パティシエ、とかじゃなくて?」
「まだそういう区別はついてないんじゃない? お菓子がたくさん食べられるのと、みんなにお菓子を買ってもらって喜んでもらいたいんだって」
「うんうん、良いね。綾らしいよ。どんな職業に就いたとしても、人に喜んでもらえる仕事をしてもらいたいね」
「そうね、それが良いよね」
「ところで綾は?」
「それが、今寝ちゃってるんだ。公園でたくさん遊んで疲れたみたい」
「そうか。でもご飯まだだよね」
「もちろん、お待ちしておりました。クスッ」
「ありがとう存じます。じゃあご飯にしようか」
「綾、起こしてくるね」
「待って、僕が行くよ」

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