400以上の企業、自治体、官公庁を支援!ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡 あまね氏に聞くー組織、肩書き、場所、時間から自由になって成長するー越境思考のススメ〈山口市産業交流拠点施設 山口ミライ共創ラボ プレ公開講座開催記念特別インタビュー〉
新時代を切り開く「越境思考」とは
越境思考とは、普段と景色を変えて気づきや学び、または違和感を得てそこから価値創造や課題解決につなげていく考え方です。
景色には場所、空間、時間、相手、または相手との関係性など、様々な要素があります。これらが固定化されてしまうと見える景色が変わらない。
そうなると、今までの当たり前による無理、無駄、理不尽に気づきにくかったり、また一方で自分たちがやっていることの良さにも気づきにくいものなんです。
例えば転職すると、今までやってきたやり方考え方が通用しないとか。そうかと思えば、新しい職場の人からは「新鮮だね」とか「面白いね、便利だね」と評価をもらえる。そんなある種のショックを受けると思います。
これはまさに景色を変えることによって、今までのやり方の通用しない部分、あるいは良い部分が言語化されたという状態です。
コロナ渦でテレワークを経験した人がたくさんいると思います。その中で、自宅の方が集中できるとか、むしろこの仕事はオフィスに行った方がうまくいくとか、そんな感覚が言語化されていきました。
これは今までのように毎日同じ時間、場所、仲間だけで過ごしている景色だけでは生まれ得なかった気づきであり、大切な違和感だと思うんです。
景色を変えると人間関係も変わる
人と人との関係性においても景色を変えることには合理性があります。
例えば上司と部下との対話の場面。「何でも言っていいよ」って言われても、なかなか普段だと言いにくいこととか、気づきにくい事ってあると思います。でもそれが、社員旅行等で一緒に温泉に浸かりながらのシチュエーションになった途端、打ち解けてお互い分かり合えた。なんてこともあるわけです。
これは会社という「場所」を離れて普段とは違う体験をしたことによって「景色」が変わり、相手との関係性が変化して本音が言いやすくなった状況なんです。
一方で、会社に関係ない人だからこそ仕事の悩みを相談しやすいということもありますよね。これは相手との間に上下関係というしがらみがないからこそ言えることや、そこから気づけることがあるから。「相手」を変えることで「景色」が変わる。だからこそ素直に自分以外の考えを聞くことができるんです。
このように「景色」を物理的に変えることによって様々な変化がおき、結果、良い方向に回っていくことがあります。
「景色」を変えると自分の新たな可能性に気づく
人って自分のポジションとかスタンスを固定しがちな生き物なんです。
私も全国400以上の企業や自治体の人と向き合ってきていますが、その中で事務業務を12年間やられた方がいました。
業務を丁寧にこなす方ことに定評のあった方でしたが、ある時マーケティングの部分に異動になったんです。
するとたちまち地域の人たちと新しいイベントを企画したり、お取引先と新しいコミュニティを企画して新たな自社のファンを増やしていったりしました。
実はこれもよくある話で、任せられる仕事が変化することによって意外な意欲や能力、自分でも知り得なかった自分に出会えることもあるのです。
違和感は変化、進化のプロセス
もちろん、逆に苦手なことに気づくこともあると思います。
でもその「違和感」こそが重要なキーワードなんです。
現状で良いと思ってる人は新しいこと始めようと思いません。
「あれちょっとおかしいな」という違和感をがあるからこそ変われるし、より進化していけるものです。違和感は変革や改善のスタート地点です。
言語化とは景色を変えること
違和感は良い面に気づくきっかけにもなります。
日常の中で、わざわざ自分たちの仕事のやり方の良さなんて言語化しないですよね。しかし、「景色」を変えればやってることは同じでも、見え方が変わる。その違和感を言語化することでまた良い方に向かっていくのです。
いすみ鉄道という千葉県のローカル鉄道のこんなキャッチコピーがあります。
これは当時のいすみ鉄道の社長の鳥塚亮さんが自ら考えられたキャッチコピーなんですが、すごく本質を言い当ててるなと思っています。
この鉄道のある地域の人は「こんな田舎になにもない」と思っていたわけです。
ところが週末になると都市部の人が訪れてこの原風景を楽しんでいる。
他都市の人が何を楽しむかというと「なにもないこと」を楽しみに来るんです。
これまさに普段見えている景色を変えるということです。
さらにその地域の人と他都市の人で対話することによって、ここには「何もない」という価値があるのだと言語化されていきました。
その地域の人たちだけではわからなかった、その地域の価値が「越境」することで言語化されたいったんです。
都市部の人が来て、何を感じているのか。それ知らなければ、その地域の新しい価値って見逃してしまいがちです。対話して、言語化することによって気づきが生まれていくんです。
越境は誰にでもできる。エブリバディ越境!
越境というと、結構身構えてしまう方もいると思います。
企業の選ばれたエリートが留学するとか。そんな一部の特権のように思われがちですが、僕はそうではないと思っています。
僕の越境の定義は「普段と景色を変えること」。
普段と対話する人を変えてみるとか、社内のミーティングをいつもとは違う場所でコーヒーとお菓子つまみながらやってみるとか。
「エブリバディ越境」っていう言い方をしているんですけれど、本当にちょっとした変化から変わっていくものです。
教育現場での越境
最近は教育現場でも景色を変える取り組みが行われています。
例えば、東京の学校から夏休みの前後だけ北海道の学校で授業を受けるなど、期間限定で転校できる制度を設けた小学校が全国から出てきています。
同じクラス、学校の中で固定化されるとどうしても人間関係が決めつけられてしまい、その児童や生徒の一部の良いところしか気づけないこともありますが、関わる相手や地域が変わればその中での自分の立ち位置や役割が変化して、意外な能力に気づくこともできるわけです。
学校がサードプレイスを用意する。あるいは学校そのものがサードプレイスとして機能する。という考え方はすごく学校教育においても意味があると思っています。
また一人、ご紹介すると『カラフルな学校づくり』(学文社)の著者である湘南学園(神奈川県藤沢市)学園長の住田昌治さんがいらっしゃいます。
住田さんの校長室にはハンモックやホワイトボード型の円卓などが置いてあり、教職員の皆さんと対話する場になっているそうです。
今までの教育現場のカラーを新しくする「カラフルな学校づくり」を進めていらっしゃいます。
ご自身も教員の越境体験として民間企業の就業体験をしたことがあったそう。そこで教育現場では考え得なかった着眼点に気づき、教育現場の人こそ越境体験した方がいいとおっしゃっています。
今も現役で、パワーポイントで資料を作り、ZOOMで画面共有してブレイクアウトもやりながらワークショップを仕切っていらっしゃるなど、学びを続け、変化を続け、アクティブに活動されています。
常に越境すること、そこから学びを得続けること。これは年齢や職種関係なく重要なことなのです。
越境する個人、組織は成長し続ける。
越境思考において忘れたくないのが違和感を楽しむことです。
変えなくてはいけない! と眉間に皺を寄せていては今までの心地の良いゾーンを離れようとせず、誰しも心が外に向いていきません。
結果がわからない、だからこそワクワクする! とか
逆にうまくいかない部分を楽しもう! とか
最初はうまくいかなくて当然だ! とか
そんな、新しい出会いや学びの違和感を笑い合えると
学びとか気づきが楽しくなってきますよね。
うまくいかないことを許しやすい環境ができるのは、越境思考があるからこそ。
初対面の人に自分の話をして分かってくれない。相手の話も分かり合えないって当たり前なんです。
でも、だからこそ自己開示できたり、自分のことを丁寧に説明しようとしたり。あるいは相手の話を聞こうとするというモチベーションが起こりやすいのです。
学校でも転校でもしない限り自己紹介ってしませんよね。
緊張するなぁって思いながらも自己紹介すれば、そこから新しい友達が出てきたり、新しい人間関係が生まれたりするわけです。
違和感があるからこそ対話が進むし、そこからまた変化が生まれていきます。
今の景色を少し変えてみる。対話を通して自身を言語化していく。
こういった越境しやすい環境をどんどん作っていってほしいなと思います。
「まち」という単位で越境思考を考える
「まち」という単位で越境を考えていくときに課題となるのは、強い言葉を使えば村社会化しやすい事実があると思います。
これは大都市、地方都市関わらず起こりうることです。
村社会化すると、今までの当たり前が優先されたり、これまでの心地いいやり方があるからこそ、変わろうとする動機付けが行われにくい状況が生まれてしまいます。
そうすると悪気なく良い面も見過ごされてしまったり、慣れてしまった不便を受け入れすぎてしまうものです。
「こういうものだ」という当たり前を変えることすら意識しない。
しかしこれからの時代、より少ない人数で地域を動かしていくと、課題解決や価値創造のバリエーションが限られてきます。
人が少なくなればなるほど、どんどん思考が凝り固まり、まちや自治体を運営していくハードルも上がっていきます。
今必要なのは「まちを開放」すること
自分たちだけでまちを動かしていくという発想からそろそろ「まちを開放する」という発想にシフトする必要があると思っています。
そのまちをより多くの人に知ってもらったり、実際に立ち寄ってもらったり。
あるいはその地域の中で様々な立場の人が共に学ぶ越境学習を行ったり。
地域の企業と公共の企業が新しい事業を起こしたり。
まちを開放することで新しい仕事、知識が生まれていきます。
みなさん、そのまちの価値を自分たちで決めつけすぎていませんか?
しかし、原則はただ一つ。 価値は相手が決めるものなんです。
僕のいる浜松という地域も「ものづくりのまち」という強いイメージがあります。しかし、地域外の人に来てもらい話を聞いてみると「ものづくり」そのものよりもむしろ産業基盤があり、新しい何かが生まれることに対してオープンな文化があることに価値を感じると言ってくださる方もいます。
他都市の方からみれば、そういった風土自体がもう価値な訳です。
まちの価値に気づくためには、場を開放すること、そして対話をすることです。見てもらって、体験してもらって、同じ景色を見て、さらに対話する。
いいところと、もったいないところも含めてフィードバックをもらうことで初めて進化していきます。
必要なのは、多様な対話が生まれる場。
それをどう使うかは皆さん次第ですが、それぞれの価値観を聞いてまた違う考えが生まれる。越境することでそんな流れが生まれる場がまちには必要だと思います。
沢渡 あまねさんをお招きしての講演会は山口市、KDDI維新ホールにて2024年3月30日(土)15:30開催!
多様な対話の場をリアルに体験してより学びを深めていきましょう!
詳細・お申し込みはこちらから
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