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【小説】田舎暮らし案内人奮闘記 第8話

こんにちは、移住専門FP「移住プランナー」の仲西といいます。
ここでは、これまでの17年間の活動、2500組以上の移住相談対応から
皆さんに役立つ情報を書いています。
今回は、これまで受けた移住相談を小説風に書いてみました。
気に入った方は、フォローをしていただけると嬉しいです。

第8話 超パワフル!高齢移住者に天晴れ。


私の朝の日課。

5㎞のジョギングとシャワー、梅干しと卵かけご飯、そしてスマホで為替相場をチェック。
やがて、遠くから小学校のベルが聞こえてくると、私も子供たちと同じ様に、書斎に向かいデスクに向き合う。
そして、教科書の代わりに、PCを開けて電源を入れる。

まずは、メールチェックが仕事のスタート。
本日も受信トレイには50件の未読メッセージ。
移住に夢見る人からの熱いメッセージが届いている。

相談メールをフォルダー移動し、着信の古いものから内容を確認。
子供のようにワクワクした気分でメールを開く。

本日の相談

はじめまして。
○○町に住む久慈と言います。
年齢は72歳です。
妻は数年前に死去しており、余生は趣味の磯釣りをしながら過ごしたいです。
そちらの町が紹介をしている、海岸線にある戸建ての賃貸住宅をお借りしたいのですが、大丈夫でしょうか。

まだ、利用者は決まっていないので、ご案内は可能です。
内覧を希望されますか。

ご連絡者はご高齢の為、物件の購入であれば気になるところだが、賃貸であれば問題はないと判断をした。
同時に賃貸物件のオーナーに連絡し、案内の了承を得た。

3日後の午後、久慈さんは来られた。
ただ、その姿を見て私は驚いた。
くたびれた肌着のシャツに、さび付いた自転車(ママチャリと呼ばれるもの)を押して来たからだ。

季節は8月。気温計の針は優に30度を超えている。
久慈さんの住む○○町は、ここからだと直線距離でも50㎞ほどはある。
そのうえ、汗だくの久慈さんの手は真っ黒に汚れていた。
話を聞くと、途中で自転車のチェーンが外れたそうである。

思わず「大丈夫ですか」と声を掛けて、洗面所へと案内をした。
まさか、この猛暑の中、自転車で来られるとは思ってもいなかった。
洗面所から戻った久慈さんにソファーを進めると、冷たいお茶を出した。

「久慈さん、もしかすると帰りも自転車ですよね。」と声を掛けると、「全然、問題ないですよ」と元気な声が返ってきた。

また、年齢相応に痩せてはいるが、その顔には若い者以上のパワーがみなぎっていた。
そして、会話もしっかりしている。
とても低姿勢で好印象な方にお見受けが出来た。

その後、賃貸物件を案内し、近所に住むオーナーとの面談を行った。
高齢者ではあったが、オーナーからも好印象となり、入居が即決で決まった。

そして、久慈さんは、まだまだ気温が高い中を、乗ってきた自転車で帰っていった。

1週間後、久慈さんは再び錆びた自転車に乗って元気に現れた。
遅れてやってきた軽貨物運送のトラックが、少ない家財道具と3本の釣り竿を降ろすと、簡単な引っ越しはあっという間に終わった。

その後、私は前カゴに釣り竿を立てて、自転車を走らせる久慈さんを何度も見かけている。
どうやら、釣り三昧の生活を送っているようであった。

「田舎での暮らしでは、自動車が必須である」と良く言われる。
しかし、地方の高齢化率は高まり続けており、高齢者ドライバーには運転免許の返納を促している。
地方の町にとっては高齢者等の交通弱者に対する取り組みが、喫緊の課題となっているところも多い。
そのなかで、私は久慈さんという、とても元気な方にお会いできたことが嬉しかった。

一期一会

久慈さんがいつまでもお元気で、自転車を走らせることを祈って・・・

(終わり)



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移住専門FP「移住プランナー」として活動をしています。これまで17年間2000組以上の移住相談に対応をしてきました。ここでは、私の経験からお役に立てる情報を日常的に綴っていきます。「移住」という夢の実現にお役に立てればうれしいです。大阪出身、北海道と鹿児島の3拠点生活中。