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【小説】田舎暮らし案内人奮闘記 第2話

こんにちは、移住専門FP「移住プランナー」の仲西といいます。
ここでは、これまでの17年間の活動、2500組以上の移住相談対応から
皆さんに役立つ情報を書いています。
今回は、これまで受けた移住相談を小説風に書いてみました。
気に入った方は、フォローをしていただけると嬉しいです。


第2話 就農への思い!が強すぎるご主人に憔悴


私の朝の日課。

5㎞のジョギングとシャワー、梅干しと卵かけご飯、そしてスマホで為替相場をチェック。
やがて、遠くから小学校のベルが聞こえてくると、私も子供たちと同じ様に、書斎に向かいデスクに向き合う。
そして、教科書の代わりに、PCを開けて電源を入れる。

まずは、メールチェックが仕事のスタート。
本日も受信トレイには50件の未読メッセージ。
移住に夢見る人からの熱いメッセージが届いている。

相談メールをフォルダー移動し、着信の古いものから内容を確認をする。
子供のようにワクワクした気分でメールを開く。

本日の相談。

はじめまして
東京に住む、今岡と言います。
年齢は70歳です。
長年の夢だった、田舎暮らしと農業を実現したいです。
残り少ない人生を悔いが無いようにしたいです。
直接、ご相談をしたいです。
東京でお会いできないでしょうか。

田舎暮らしを考える人のなかで、最も多いが一次産業への憧れである。
しかし、70歳で農業はあり得なかった。
ただし、農業の経験や規模によっては、不可能ではない。
とりあえず、詳細が分からないので、お会いすることにした。

来週末、東京で「全国移住フェア」があります。
ご来場をすることは可能でしょうか。
そこで、お会いしたいのですが如何でしょうか。

「全国移住フェア」当日、今岡さんは奥様と一緒にご来場された。

第一印象は、70歳の年齢よりもさらに老けているように見えた。
「農業」のハードワークには、耐えられるようには思えない。

「今岡さん。農業の経験は?」

>「田舎育ちですが、経験はありません。」

「農業と言っても幅が広いですが、家庭菜園程度なのか、どれくらいの規模で行いたいのですか?」

>「米を作るりたいです。できれば出荷もしたいです。」

「失礼ですが、ご経験もなく、いきなり水田を始めたいとは、無理がありませんか?」

>「それでも、長年の夢だからチャレンジしたいのです。」

ここで、今岡氏は自分の夢に対する熱い思いを、くどくどと語り始める。
思いは理解できるが、明らかに無理がある。

「失礼ですが、他の自治体や誰かに相談されましたか?」

>「これまで、たくさんの人に話をしましたが、誰からも真剣に話を聞いてもらえませんでした。」

「奥様は、どう思われますか」

>「主人が希望しているのならば・・・」

奥様は語尾を濁しながら、小さな声で話す。
さすがに、これでは就農を進めることが出来ない。
仕方ないので、私はもう少し具体的な話を投げかけてみた。

農業を始めるのであれば、労力と資金が必要となります。
農業は一人ではできないことはご理解いただけますよね。
繁忙期には人手が必要になります。
資金面でも、水田を始めるのであれば、農地の購入費を除いて1000万円以上の費用が必要と言われています。
こうした点について、今岡さんはどのようにお考えですか。

「・・・・」
今岡さんは口ごもる。
そして、質問には回答をせずに、再び熱い思いを語り始めた。

今岡さん、農地を購入するのも、農業計画書を提出し、農業委員会の許可が必要となります。
申し訳ないですが、今岡さんでは農地の購入も難しいと思われます。

奥様からの助言も頂きたかったが、発言をする様子はなかった。
そもそも、奥様は田舎暮らしに賛成をしているようにも見えない。
大抵、田舎移住に対する強い思いを語るのはご主人である。
「田舎移住を考えるのであれば、奥様や家族の了解を得ることが第一歩である」と、私は常々、お伝えをしている。

このままでは、埒が明かないので、提案をさせていただいた。

今岡さん、まずは家庭菜園の規模でお考えになられては如何ですか。
畑地付き中古住宅ならば、購入はそれほど難しくありません。
失礼ですが、今岡さんと同年代のご夫婦も、たくさんの方が家庭菜園を目的として田舎移住を実現されていますよ。
そこで、たくさんの農家さんと知り合い、仲間作りから始めることをおすすめします。
そのことで、農地の一部をお貸しいただいたり、可能性も広がるのではないですか。

私は、実際の移住者の事例などをいくつか話してあげた。
しかし、熱い思いを繰り返すばかりで、私の提案を理解をしていただくことはなく、今岡さんご夫婦はお帰りになられた。

恐らく、ご本人も農業を始めることは無理だと解っているのだろう。
もしかしたら、こうして自分の夢を人に聞いてもらうことで、満足をしているのかもしれないと思った。

「移住」という夢の実現に、私はできるだけのサポートをしたい。    今岡ご夫婦が、本日の私との面談で、「少しでも夢が叶った」と思ってもらえれば嬉しいのだけれど。

一期一会。

今日のご夫婦に幸があることを祈ります。

(終わり)



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移住専門FP「移住プランナー」として活動をしています。これまで17年間2000組以上の移住相談に対応をしてきました。ここでは、私の経験からお役に立てる情報を日常的に綴っていきます。「移住」という夢の実現にお役に立てればうれしいです。大阪出身、北海道と鹿児島の3拠点生活中。