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人文・アカデミズム

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浅野智彦『「若者」とは誰か 増補新版』要約と感想

浅野智彦『「若者」とは誰か 増補新版』要約と感想

 社会学者、浅野智彦の著作『「若者」とは誰か 増補新版』を読んだ。以下は本の要約と感想です。

 要約1 消費行動からコミュニケーション論へ 「若者論」は切り口がその時代によって異なる。
 1980年代においては、日本の消費社会化が進むのと同時並行に、その消費行動によって若者は語られていた。
 しかし、1990年代に入ると、若者論の中心は「消費行動」から「コミュニケーション論」へと性質を変えていっ

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社会問題が解決できることを提示した本 『社会問題のつくり方』著:荻上チキ 書評

社会問題が解決できることを提示した本 『社会問題のつくり方』著:荻上チキ 書評

社会を変える具体的な方法 『社会問題のつくり方』と銘打ったこの本、社会問題を社会問題として提起し、それを解決するまでの方法と道筋が紹介されている。

・同じ問題意識を共有した仲間とチームを作る。
・その問題が一体どういう状態にあるのか調査をする。
・広く人に知ってもらうために記者会見をする。
・政治家と繋がる。
・その問題を解決するための法案を成立させる。

 そこまでの一連のノウハウが、10代な

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マイノリティの声はなぜ小さくなるのか 「意志」をめぐる冒険 『中動態の世界』國分功一郎:著 書評

マイノリティの声はなぜ小さくなるのか 「意志」をめぐる冒険 『中動態の世界』國分功一郎:著 書評

「能動」と「受動」から溢れるもの 人々は大抵、その行動を「能動態」と「受動態」の二項で捉える。その違いは、前者が「自分の意志」で行ったもの、後者を「自分の意志」で行ったものではないもの、として捉えるものである。
 
 しかし、時にその「能動/受動」の二項ではどちらにも収まらない類の行動がある。例えば、それはアルコールなどの依存症だ。
 
 自分では絶対に「飲まない」と固く意志を持っても、どうしても

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変わりゆく街の風景と「資本主義の精神」 ブックオフ論争を問い直す

変わりゆく街の風景と「資本主義の精神」 ブックオフ論争を問い直す

■消えゆく街の個人経営店 街からちょうどいい定食屋さんが消えてしまったような気がします。今日は夕飯を外で済まそうかな、と思ったときに、気軽に入れるお店。かつては個人経営のお店でそういうお店がたくさんあったのですが、今はそれが牛丼屋やチェーンのラーメン店に取って代わられてしまいました。

 定食屋だけではなく、かつては個人経営の喫茶店、古本屋などが街に1つや2つありました。それが今では喫茶店はドトー

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アラフォーおじさんがフェミニズムについてガチで語ってみた

 今回読んでみた本はこれである。女性誌に連載された文章を単行本化した本で、フェミニズムの現代的なトピックが網羅できるといった内容だ。

 私がフェミニズムにおいて特に重要だと思った考え方は、他人に自分の身体を支配(コントロール)されない権利だ。

 これは自分で自分の身体について決定できる権利と言い換えることもできる。この権利が特に重要になってくるのが、妊娠・出産にまつわる事柄だ。

進んだが後退

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男らしさに欠けてるのがコンプレックスだったけど、この本を読んで楽になった 大塚英志『彼女たちの連合赤軍』

男らしさに欠けてるのがコンプレックスだったけど、この本を読んで楽になった 大塚英志『彼女たちの連合赤軍』

「『耳をすませば』が好きだ」というコンプレックス

 僕は『耳をすませば』という映画が好きだった。ジブリのアニメ作品で、主人公の雫が、恋をしたり小説を書いたりする映画だ。この作品で主人公たちが活き活きとした暮らしが描かれている様が、とても好きだった。

 けれど、この作品は「2ちゃんねる」などの場所で冷笑されていた。雫と恋に落ちる天沢聖司を「ストーカー」と呼んだり、ラストの「結婚しよう」というセリ

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議員立法より閣法が多い日本の政治。シンクタンクが民主主義を促進する

議員立法より閣法が多い日本の政治。シンクタンクが民主主義を促進する

議員立法と閣法

 国会でできる法律は、その法案を誰が出すのかで2つの種類に分けることができます。1つは、国会議員が提案する議員立法。もう1つは内閣が提案する内閣立法、もしくは閣法です。
 日本の国会で成立する法案は、後者の内閣立法のほうが数多くあります。

閣法が多いことの問題点

 国会議員が考えた議員立法より、内閣立法のほうが多いことには問題点があります。国会議員は選挙で選ばれた我々国民の代

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私たちは言語の中に閉じ込められ、そして開かれる 『文学理論』と映画『ドライブ・マイ・カー』

私たちは言語の中に閉じ込められ、そして開かれる 『文学理論』と映画『ドライブ・マイ・カー』

日本語によって規定される思考

 私たちは普段、言語によって物事を認識し、その思考の枠組みは、言語によって規定されます。

 例えば日本語では「敬語」があることによって、相手と自分の立場のどちらが上か下かを表さなければいけないようになっています。
 また日本語は英語と違って、主語を明確に打ち出す必要がない言語だと言われています。その分主体が曖昧になりやすい傾向があると言えるでしょう。

 このよう

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書評:吉川浩満『哲学の門前』 「哲学」とは、人生に置いて自分の「脆さ」が露わになったときに必要とされる。

書評:吉川浩満『哲学の門前』 「哲学」とは、人生に置いて自分の「脆さ」が露わになったときに必要とされる。

タイトルに「哲学」という名前が付く本のイメージとは、異なる内容

 『哲学の門前』という不思議なタイトルの本だ。「哲学」とあるので、さぞかし哲学の本なんだろうと思って読んでみると、想定されるイメージとはかなり内容が異なる。
 この本の内実は、著者の半自伝的なエッセイ集だ。鳥取県での少年時代、家族の出自、大学生、社会人、そして文筆家としてデビューしてからのこと…などなど、著者の半生がある種赤裸々に描

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政治を知り、自分を知るための入門書 西田亮介『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』書評

政治を知り、自分を知るための入門書 西田亮介『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』書評

政治とメディアへの素朴な疑問に答えてくれる この本は、社会学者西田亮介さんが、政治に対してどう関わればいいか、その基本的なスタンスについての問いに応えてくれる本だ。

 例えば、「政治なんて難しいし、面倒だし、関わらなくてはいいのでは?」という問いに対しては、
→「政治に参加するのはコストだが、政治家がきちんと政治を行っているか見張っていないと、なにかあったときの対価は自分に返ってくる」という立場

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「郊外」という場所の可能性を描いた文学批評 『郊外の記憶』書評

「郊外」という場所の可能性を描いた文学批評 『郊外の記憶』書評

土地が物語を生成するという立場 

 この『郊外の記憶』という本は、郊外が舞台の小説を取り上げ、「その土地が物語を生成する」という立場に立って作品を分析する、一種の文芸批評だ。

 実際に物語に出てくる場所に赴き、作品と土地の両面から考察を深める。
 取り上げられた作家は三浦しをん、北村薫、長野まゆみ等。場所は町田、国分寺、春日部などが挙げられる。

郊外にある重層性を読み解く

 郊外は時に、「

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2021年読んで感銘を受けた本5冊 「現代」に敗北した者たちとその後

2021年読んで感銘を受けた本5冊 「現代」に敗北した者たちとその後

 去年読んだ本で感銘を受けた本5冊の紹介。順番は読んだ順。

・北田暁大『嗤う日本のナショナリズム』(2005)
・宇野常寛『母性のディストピア』(2017)
・TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』(2020)
・與那覇潤『平成史』(2021)
・大塚英志『彼女たちの連合赤軍』(1996)

 ジャンルで言うと「評論」ってカテゴリに入るものが多いだろうか。どの本も面白くて一気に読んだ。
 実はこの

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自分を全肯定してくれる他人なんていない  『ジンメル・つながりの哲学』を読んで

自分を全肯定してくれる他人なんていない  『ジンメル・つながりの哲学』を読んで

 『ジンメル・つながりの哲学』を読んだ。ジンメルとは主に19世紀末から20世紀初頭に活躍した、社会学者である。ウェーバー、デュルケム、マルクスと並んで社会学の祖と言われたりする。

 この本の良いところは、「社会学」という学問が「私」から始まる学問であると解釈しているところだ。「私」から始まり、それが「他者」や「社会」とどう繋がっていくか、それを読み解いていくのが社会学の大きな役割の一つであると説

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『呪いの言葉の解きかた』書評 自分自身を縛る言葉に抗うために 著:上西充子

『呪いの言葉の解きかた』書評 自分自身を縛る言葉に抗うために 著:上西充子

普段の生活の中で、人から言われたことや自分の中で、自身の思考や行動を縛る言葉がある。

例えば、「普通でなければならない」「理不尽に耐えるのが大人」「社会と他人は変えられない」「弱音や愚痴を吐いてはいけない」などなど。

自分が感じたことや思ったことを、押さえつけ、抑圧する。
聞いた瞬間に息苦しさやダメージを感じてしまう、そんな言葉たち。

なにかがおかしいと思っても、どこがどうおかしいのかうまく

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