いちじく

名前は橋本治の作品『桃尻娘』の登場人物「無花果少年」から/図書館司書→ITエンジニア/…

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名前は橋本治の作品『桃尻娘』の登場人物「無花果少年」から/図書館司書→ITエンジニア/社会学/アカデミズム×サブカルチャー×温泉好き ichijikubojune@gmail.com

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「推し」という信仰 宗教のない日本で暴徒化するファンダムについて

ジャニーズ被害者の会への誹謗中傷 昨年驚いたことの1つに、ジャニーズ被害者の会へのファンからの激しい誹謗中傷がある。性暴力の被害者である彼らに罵詈雑言を投げかける心理とは一体どういうものなのか、と衝撃を覚えた。  相手に誹謗中傷の言葉を投げる彼らにとって、ジャニーズとは自分のアイデンティティの支えとなる存在であり、言ってしまえば「神」みたいなものなのだろう。何かを「推す」とは、宗教を信仰するのと同じことなのだ。    その自分の信じる宗教の存在基盤を揺るがされたとして、彼ら

    • 変わりゆく街の風景と「資本主義の精神」 ブックオフ論争を問い直す

      ■消えゆく街の個人経営店 街からちょうどいい定食屋さんが消えてしまったような気がします。今日は夕飯を外で済まそうかな、と思ったときに、気軽に入れるお店。かつては個人経営のお店でそういうお店がたくさんあったのですが、今はそれが牛丼屋やチェーンのラーメン店に取って代わられてしまいました。  定食屋だけではなく、かつては個人経営の喫茶店、古本屋などが街に1つや2つありました。それが今では喫茶店はドトール、古本屋はブック・オフになり、かつての個人店は一掃されてしまいました。 ■文

      • なぜ被害者を責めてしまうのか ハラスメントの相談をしたら二次加害に遭った話

        ■ハラスメントについて相談 とある場所でハラスメントに遭いました。どういうハラスメントかと言うと、人によっては「大したことない」と思うぐらいの程度だとは思ったのですが、しかし随分性格の悪いことをしてくるなぁと思ったので、そのコミュニティ内の他の人間に、その人物についてどう思うか見解を尋ねるべく相談してみました。    そうしたら、私が相談した某氏は、なぜか私がその行為をハラスメントだと認識していることを非難してきました。やたらと否定の言葉を繰り出し、私の発言をねじ伏せようとし

        • アラフォーおじさんがフェミニズムについてガチで語ってみた

           今回読んでみた本はこれである。女性誌に連載された文章を単行本化した本で、フェミニズムの現代的なトピックが網羅できるといった内容だ。  私がフェミニズムにおいて特に重要だと思った考え方は、他人に自分の身体を支配(コントロール)されない権利だ。  これは自分で自分の身体について決定できる権利と言い換えることもできる。この権利が特に重要になってくるのが、妊娠・出産にまつわる事柄だ。 進んだが後退した性教育  自分で自分の身体を守るためには、そのための知識が必要である。しか

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          男らしさに欠けてるのがコンプレックスだったけど、この本を読んで楽になった 大塚英志『彼女たちの連合赤軍』

          「『耳をすませば』が好きだ」というコンプレックス  僕は『耳をすませば』という映画が好きだった。ジブリのアニメ作品で、主人公の雫が、恋をしたり小説を書いたりする映画だ。この作品で主人公たちが活き活きとした暮らしが描かれている様が、とても好きだった。  けれど、この作品は「2ちゃんねる」などの場所で冷笑されていた。雫と恋に落ちる天沢聖司を「ストーカー」と呼んだり、ラストの「結婚しよう」というセリフが格好のネタになったりしていた。  僕はこの『耳をすませば』という映画を、ベ

          男らしさに欠けてるのがコンプレックスだったけど、この本を読んで楽になった 大塚英志『彼女たちの連合赤軍』

          議員立法より閣法が多い日本の政治。シンクタンクが民主主義を促進する

          議員立法と閣法  国会でできる法律は、その法案を誰が出すのかで2つの種類に分けることができます。1つは、国会議員が提案する議員立法。もう1つは内閣が提案する内閣立法、もしくは閣法です。  日本の国会で成立する法案は、後者の内閣立法のほうが数多くあります。 閣法が多いことの問題点  国会議員が考えた議員立法より、内閣立法のほうが多いことには問題点があります。国会議員は選挙で選ばれた我々国民の代表です。なので、その議員が考えた法案は、国民の意志を反映したものと(建前上は)な

          議員立法より閣法が多い日本の政治。シンクタンクが民主主義を促進する

          私たちは言語の中に閉じ込められ、そして開かれる 『文学理論』と映画『ドライブ・マイ・カー』

          日本語によって規定される思考  私たちは普段、言語によって物事を認識し、その思考の枠組みは、言語によって規定されます。  例えば日本語では「敬語」があることによって、相手と自分の立場のどちらが上か下かを表さなければいけないようになっています。  また日本語は英語と違って、主語を明確に打ち出す必要がない言語だと言われています。その分主体が曖昧になりやすい傾向があると言えるでしょう。  このように、私たちの思考はその言語が持つ特性によって、大きく左右されます。私たちは、その

          私たちは言語の中に閉じ込められ、そして開かれる 『文学理論』と映画『ドライブ・マイ・カー』

          書評:吉川浩満『哲学の門前』 「哲学」とは、人生に置いて自分の「脆さ」が露わになったときに必要とされる。

          タイトルに「哲学」という名前が付く本のイメージとは、異なる内容  『哲学の門前』という不思議なタイトルの本だ。「哲学」とあるので、さぞかし哲学の本なんだろうと思って読んでみると、想定されるイメージとはかなり内容が異なる。  この本の内実は、著者の半自伝的なエッセイ集だ。鳥取県での少年時代、家族の出自、大学生、社会人、そして文筆家としてデビューしてからのこと…などなど、著者の半生がある種赤裸々に描かれている。  しかし、著者はこれが「哲学書」であると言う。一体どういうことか。

          書評:吉川浩満『哲学の門前』 「哲学」とは、人生に置いて自分の「脆さ」が露わになったときに必要とされる。

          政治を知り、自分を知るための入門書 西田亮介『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』書評

          政治とメディアへの素朴な疑問に答えてくれる この本は、社会学者西田亮介さんが、政治に対してどう関わればいいか、その基本的なスタンスについての問いに応えてくれる本だ。  例えば、「政治なんて難しいし、面倒だし、関わらなくてはいいのでは?」という問いに対しては、 →「政治に参加するのはコストだが、政治家がきちんと政治を行っているか見張っていないと、なにかあったときの対価は自分に返ってくる」という立場を取る。一方、メディアとは「その政治を監視するための情報を我々国民に届けてくれる

          政治を知り、自分を知るための入門書 西田亮介『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』書評

          本&温泉好きなら週末はここへ 「湯河原惣湯」でリトリート!

          本と温泉と公園が揃った施設  神奈川県の温泉街、湯河原にある日帰り温泉「湯河原惣湯」。ここは温泉×ブックライブラリー×公園の3つが揃った、本好きで温泉好きな人にはたまらない場所です。 温泉まで続く散歩コース  「湯河原惣湯」は2つの施設があります。まず入り口にはコワーキングスペースのある「玄関テラス」があり、そこから散歩道が続きます。  森林に囲まれ、左手には川が流れていて、最高の散歩コースです。 森林が広がり川のせせらぎが聞こえる露天風呂  数分も歩くと、「惣湯テ

          本&温泉好きなら週末はここへ 「湯河原惣湯」でリトリート!

          「郊外」という場所の可能性を描いた文学批評 『郊外の記憶』書評

          土地が物語を生成するという立場   この『郊外の記憶』という本は、郊外が舞台の小説を取り上げ、「その土地が物語を生成する」という立場に立って作品を分析する、一種の文芸批評だ。  実際に物語に出てくる場所に赴き、作品と土地の両面から考察を深める。  取り上げられた作家は三浦しをん、北村薫、長野まゆみ等。場所は町田、国分寺、春日部などが挙げられる。 郊外にある重層性を読み解く  郊外は時に、「何もない場所」と言われる。その土地の歴史を無視し、どこにもでもあるチェーン店が建

          「郊外」という場所の可能性を描いた文学批評 『郊外の記憶』書評

          休日の昼間に旅番組を観るというチル

           最近は旅番組やさんぽ番組が好きでよく観ている。芸人やタレントが、横浜や箱根あたりをブラブラ歩いたり、食べたりしている番組だ。  特に土曜や日曜の休日の昼間にやっている番組がよい。私が勝手に認定している三大旅番組が以下の3つだ。 『なりゆき街道旅』(フジテレビ) 『タカトシ温水の路線バスで!』(フジテレビ) 『有吉くんの正直さんぽ』(フジテレビ)    全部フジテレビだけど、特に他意はない。  こういう番組は、観光名所がロケ地になっている。「そのうち自分が行くときの参考に

          休日の昼間に旅番組を観るというチル

          本屋で女性誌コーナーをうろつくアラフォー男子のつぶやき

           本屋に行くと大体、女性誌コーナーをうろついている。女性誌と言っても、ファッション誌ではなく生活誌のほう。一番好きな雑誌は『Hanako』。他にも『Oz magazine』『日経WOMAN』あたりが好き。こんなアラフォーの男子が女性誌コーナーで立ち読みしてたら、周りから変な目で見られたりするかな。まぁいいら。だって読みたいし。  『Hanako』『Oz magazine』あたりとか、大体インテリアや旅行の特集が多い。部屋での過ごし方とか、置いておきたいアイテムとか。そういう

          本屋で女性誌コーナーをうろつくアラフォー男子のつぶやき

          『花束みたいな恋をした』が描いた「時間」とは ~なぜこんなにも切なく刺さるのか

           『花束みたいな恋をした』はサブカル好きの絹(有村架純)と、麦(菅田将暉)の出会い、付き合い始めてから別れるまでのストーリーを描いた映画だ。  この作品は、なぜこんなにも観るものの胸を掴み、切なく刺さるのだろうか。 「花恋」で描かれた複数の時間軸 「花恋」で描かれた恋愛は、そのタイトル通りそれ自体が「花束」であり、美しく尊いものだ。その「尊さ」は、この映画では4つの「時間」を使って描かれている。どういうことか、1つずつ説明しよう。 ①進む時間、変わってしまう時間  この

          『花束みたいな恋をした』が描いた「時間」とは ~なぜこんなにも切なく刺さるのか

          碇ゲンドウという「美しい少年」の物語 エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル論

          シンエヴァEDの『One Last Kiss』で歌われた尊さ  シン・エヴァンゲリオンの主題歌『One Last Kiss』。エンディングで流れてきた時に、その曲の美しさに戦慄を覚えました。  そして、この曲が何を歌った曲か、瞬時に理解しました。  この曲は大切な人に向けて、愛する気持ちを歌った曲。エヴァンゲリオンの作中では、誰が誰のことを想っていたでしょうか。そして、その中で最も深い愛を持っていた人物とは…。       そう。これはゲンドウの気持ちを歌った曲。碇ゲン

          碇ゲンドウという「美しい少年」の物語 エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル論

          実の息子からダメ出しされても信念を貫く女主人公を描いたフェミニズム小説 『女と刀』書評

           この『女と刀』という作品は、元々は1966年に出版された小説ですが、2022年の今年復刊されました。この小説はフェミニズム小説です。明治から大正、そして昭和から戦争の時代へと、激動の時代を生きた一人の女性の反省を描いた物語です。  当時の日本は今現在と較べても、激しい女性差別があり、女性の人生には大きな制約がありました。しかし、主人公キヲは、差別に対して従順に従ったり、「仕方がない」と諦めたりしません。その一つ一つに対し、心からの憤りを感じ、対峙していきます。  そんな

          実の息子からダメ出しされても信念を貫く女主人公を描いたフェミニズム小説 『女と刀』書評