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記事一覧

『女のいない男たち』書評 ジェンダーを超越する珠玉の恋愛小説を描く作家・村上春樹

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繊細な脚本と演技で、原作を補完した作品 映画『ドライブ・マイ・カー』評

村上春樹と宇多田ヒカル

 村上春樹というと、毎年ノーベル賞候補に挙げられるほどの地位を築いた作家であると同時に、アンチも多い。言われがちなのは、「男に都合がいい」「気取った文体」「性描写がつらい」などの意見だろうか。
 今回、映画『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー脚本賞を取ったことを機に、原作の『女

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『ティファニーで朝食を』批評 女性性と消費社会を描いた哀しく儚い物語

『ティファニーで朝食を』批評 女性性と消費社会を描いた哀しく儚い物語

 

 トルーマン・カポーティ著、『ティファニーで朝食を』を読みました。儚くて哀しい物語のこの本が、いかなる物語であるかを分析していきたいと思います。
 
 この本は、「女性性」と「消費社会」について描いた本です。なぜそう言えるのか。まず、そのことについて解説していきます。

「消費社会」が「女性性」に解放をもたらした

 唐突な説明かもしれませんが、産業化にともなって、まず解放されたのは「男性性

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実の息子からダメ出しされても信念を貫く女主人公を描いたフェミニズム小説 『女と刀』書評

 この『女と刀』という作品は、元々は1966年に出版された小説ですが、2022年の今年復刊されました。この小説はフェミニズム小説です。明治から大正、そして昭和から戦争の時代へと、激動の時代を生きた一人の女性の反省を描いた物語です。

 当時の日本は今現在と較べても、激しい女性差別があり、女性の人生には大きな制約がありました。しかし、主人公キヲは、差別に対して従順に従ったり、「仕方がない」と諦めたり

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『花束みたいな恋をした』が描いた「時間」とは ~なぜこんなにも切なく刺さるのか

『花束みたいな恋をした』が描いた「時間」とは ~なぜこんなにも切なく刺さるのか

 『花束みたいな恋をした』はサブカル好きの絹(有村架純)と、麦(菅田将暉)の出会い、付き合い始めてから別れるまでのストーリーを描いた映画だ。
 この作品は、なぜこんなにも観るものの胸を掴み、切なく刺さるのだろうか。

「花恋」で描かれた複数の時間軸 「花恋」で描かれた恋愛は、そのタイトル通りそれ自体が「花束」であり、美しく尊いものだ。その「尊さ」は、この映画では4つの「時間」を使って描かれている。

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碇ゲンドウという「美しい少年」の物語 エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル論

碇ゲンドウという「美しい少年」の物語 エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル論

シンエヴァEDの『One Last Kiss』で歌われた尊さ

 シン・エヴァンゲリオンの主題歌『One Last Kiss』。エンディングで流れてきた時に、その曲の美しさに戦慄を覚えました。
 そして、この曲が何を歌った曲か、瞬時に理解しました。

 この曲は大切な人に向けて、愛する気持ちを歌った曲。エヴァンゲリオンの作中では、誰が誰のことを想っていたでしょうか。そして、その中で最も深い愛を持っ

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繊細な脚本と演技で、原作を補完した作品 映画『ドライブ・マイ・カー』評

*映画『ドライブ・マイ・カー』評。ネタバレあり。約2400文字。5分割ごとに印をつけています。

(1/5)
 私は、原作『女のいない男たち』を読んでから、映画を鑑賞した。この批評文はそれを踏まえて書かれたものだ。

 原作『女のいない男たち』は短編の連作集である。基本はどれも恋愛小説だ。そして、そこにおける一番のテーマは『喪失』である。
 しかし、映画は原作とは、その軸足を変えている。
 映画版

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『耳をすませば』 ”近代化された「内面」と「性的な身体」を持つ前の「少女」マンガ”として読む

『耳をすませば』 ”近代化された「内面」と「性的な身体」を持つ前の「少女」マンガ”として読む

 映画『耳をすませば』を観ました。開始10分で全てが完璧で美しすぎて泣きそうでした。

 冒頭の夜の郊外都市の夜景を空中からロングで映し出す映像、そして主人公の雫の描写。Tシャツと短パンでコンビニに牛乳を買いに行く。「ビニール袋はいらなかったのでは?」という母親とのやり取り。麦茶の保存用ボトルを冷蔵庫から取り出してそのまま口をつけて飲む等々。その細やかな描写の数々が美しすぎました。

 この映画に

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『風の谷のナウシカ』
            感想 宮崎駿は文明を憎んでいて、人類が滅んでもいいと思っている怒りが表れた映画

『風の谷のナウシカ』 感想 宮崎駿は文明を憎んでいて、人類が滅んでもいいと思っている怒りが表れた映画

 宮崎駿監督、劇場版『風の谷のナウシカ』を観た。まぁ凄い映画だと思った。

 何が凄いって、宮崎駿の怒りの大きさが凄い。とにかく怒っている。私利私欲や権威欲のために地球の環境を破壊し、そこから教訓を得ず、一度ならずともその過ちを再び繰り返そうとしてる、人類に対する怒りが伝わってくる。

 もうラストの巨神兵を始めとする戦闘シーンでは、人類なんて滅んでしまってもいいというぐらい、人間は愚かな生き物だ

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