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記事一覧

近未来のAI政治と地方都市の姿にワクワクした ドラマ『17才の帝国』

近未来のAI政治と地方都市の姿にワクワクした ドラマ『17才の帝国』

■AIと地方都市の風景 2022年5月~6月にNHKで放送されたドラマ『17才の帝国』は、202X年の日本のとある地方都市を舞台にしたドラマだ。AIによって選ばれた若者たちが、その土地で地方自治を行う姿が描かれる。
 『17才の帝国』というタイトルは、その都市の総理大臣に選ばれたのが17才の高校生だったことを指す。

 AIは映像を映し出し、住民は専用のグラスをかけるとその映像を観ることができる。

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辻村深月『傲慢と善良』書評 「婚活」を通じて描かれる社会のリアル

辻村深月『傲慢と善良』書評 「婚活」を通じて描かれる社会のリアル

■ミステリ/恋愛小説の皮を被った小説 辻村深月の著作『傲慢と善良』の大筋はこうだ。 マッチングアプリで出会い、婚約した架(かける)と真実(まみ)。ところが、ストーカーに遭っていた真実は、ある日忽然と姿を消し、失踪してしまう。事件の手がかりを得るべく、架は彼女の故郷である群馬へ乗り込む。

 この小説は、大枠としてはミステリ+恋愛(婚活)と言ったエンターテイメント小説という体裁を取っている。しかし、

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村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』書評 「死」を求めながら、全力でそれに抗うということ

村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』書評 「死」を求めながら、全力でそれに抗うということ

「喪失」と「受容」 この短編集には7つの作品が収録されている。各短編の登場人物はみな、過去に負ったある種の傷を背負いながら生きている。
 その傷は、1995年に発生した阪神大震災に端を発している。中には、同年に起こったオウム真理教による地下鉄サリン事件を想起させる作品もある。
 
 この短編集は、これらの傷ーその傷とはすなわち「喪失」ーを受け入れることをテーマとしている。いかにその「喪失」と向き合

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『女のいない男たち』書評 ジェンダーを超越する珠玉の恋愛小説を描く作家・村上春樹

映画版の記事はこちら
繊細な脚本と演技で、原作を補完した作品 映画『ドライブ・マイ・カー』評

村上春樹と宇多田ヒカル

 村上春樹というと、毎年ノーベル賞候補に挙げられるほどの地位を築いた作家であると同時に、アンチも多い。言われがちなのは、「男に都合がいい」「気取った文体」「性描写がつらい」などの意見だろうか。
 今回、映画『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー脚本賞を取ったことを機に、原作の『女

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『ティファニーで朝食を』批評 女性性と消費社会を描いた哀しく儚い物語

『ティファニーで朝食を』批評 女性性と消費社会を描いた哀しく儚い物語

 

 トルーマン・カポーティ著、『ティファニーで朝食を』を読みました。儚くて哀しい物語のこの本が、いかなる物語であるかを分析していきたいと思います。
 
 この本は、「女性性」と「消費社会」について描いた本です。なぜそう言えるのか。まず、そのことについて解説していきます。

「消費社会」が「女性性」に解放をもたらした

 唐突な説明かもしれませんが、産業化にともなって、まず解放されたのは「男性性

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実の息子からダメ出しされても信念を貫く女主人公を描いたフェミニズム小説 『女と刀』書評

 この『女と刀』という作品は、元々は1966年に出版された小説ですが、2022年の今年復刊されました。この小説はフェミニズム小説です。明治から大正、そして昭和から戦争の時代へと、激動の時代を生きた一人の女性の反省を描いた物語です。

 当時の日本は今現在と較べても、激しい女性差別があり、女性の人生には大きな制約がありました。しかし、主人公キヲは、差別に対して従順に従ったり、「仕方がない」と諦めたり

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『花束みたいな恋をした』が描いた「時間」とは ~なぜこんなにも切なく刺さるのか

『花束みたいな恋をした』が描いた「時間」とは ~なぜこんなにも切なく刺さるのか

 『花束みたいな恋をした』はサブカル好きの絹(有村架純)と、麦(菅田将暉)の出会い、付き合い始めてから別れるまでのストーリーを描いた映画だ。
 この作品は、なぜこんなにも観るものの胸を掴み、切なく刺さるのだろうか。

「花恋」で描かれた複数の時間軸 「花恋」で描かれた恋愛は、そのタイトル通りそれ自体が「花束」であり、美しく尊いものだ。その「尊さ」は、この映画では4つの「時間」を使って描かれている。

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碇ゲンドウという「美しい少年」の物語 エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル論

碇ゲンドウという「美しい少年」の物語 エヴァンゲリオンと宇多田ヒカル論

シンエヴァEDの『One Last Kiss』で歌われた尊さ

 シン・エヴァンゲリオンの主題歌『One Last Kiss』。エンディングで流れてきた時に、その曲の美しさに戦慄を覚えました。
 そして、この曲が何を歌った曲か、瞬時に理解しました。

 この曲は大切な人に向けて、愛する気持ちを歌った曲。エヴァンゲリオンの作中では、誰が誰のことを想っていたでしょうか。そして、その中で最も深い愛を持っ

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繊細な脚本と演技で、原作を補完した作品 映画『ドライブ・マイ・カー』評

*映画『ドライブ・マイ・カー』評。ネタバレあり。約2400文字。5分割ごとに印をつけています。

(1/5)
 私は、原作『女のいない男たち』を読んでから、映画を鑑賞した。この批評文はそれを踏まえて書かれたものだ。

 原作『女のいない男たち』は短編の連作集である。基本はどれも恋愛小説だ。そして、そこにおける一番のテーマは『喪失』である。
 しかし、映画は原作とは、その軸足を変えている。
 映画版

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『耳をすませば』 ”近代化された「内面」と「性的な身体」を持つ前の「少女」マンガ”として読む

『耳をすませば』 ”近代化された「内面」と「性的な身体」を持つ前の「少女」マンガ”として読む

 映画『耳をすませば』を観ました。開始10分で全てが完璧で美しすぎて泣きそうでした。

 冒頭の夜の郊外都市の夜景を空中からロングで映し出す映像、そして主人公の雫の描写。Tシャツと短パンでコンビニに牛乳を買いに行く。「ビニール袋はいらなかったのでは?」という母親とのやり取り。麦茶の保存用ボトルを冷蔵庫から取り出してそのまま口をつけて飲む等々。その細やかな描写の数々が美しすぎました。

 この映画に

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『風の谷のナウシカ』
            感想 宮崎駿は文明を憎んでいて、人類が滅んでもいいと思っている怒りが表れた映画

『風の谷のナウシカ』 感想 宮崎駿は文明を憎んでいて、人類が滅んでもいいと思っている怒りが表れた映画

 宮崎駿監督、劇場版『風の谷のナウシカ』を観た。まぁ凄い映画だと思った。

 何が凄いって、宮崎駿の怒りの大きさが凄い。とにかく怒っている。私利私欲や権威欲のために地球の環境を破壊し、そこから教訓を得ず、一度ならずともその過ちを再び繰り返そうとしてる、人類に対する怒りが伝わってくる。

 もうラストの巨神兵を始めとする戦闘シーンでは、人類なんて滅んでしまってもいいというぐらい、人間は愚かな生き物だ

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