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『マザー』第5話「ゴッドマザーの宿命」

 幼少期に病気で母を亡くした私は、児童養護施設に預けられた。母は未婚のシングルマザーで、私には頼れる父親がいなかった。そんな私は就学前の知能検査で知能指数が高いことが判明し、いわゆるギフテッドだった。勉強が好きで、学業に熱心だった私は、母のように病で早逝してしまう人を減らすために、将来は医者になりたいと考えていた。
 
 親がいなくても学力優秀だった私は、奨学金を借りて、国立大学の医学部に進学することができた。自分の学力ならきっと医師になれると疑っていなかったものの、大学2年生で解剖実習が始まると、すっかり自信を失くしてしまった。リアルな人体の組織や内臓を見るのが実は苦手だったことに気づいてしまったからだ。画像や教科書で慣れていたはずなのに、生々しい献体を目の前にすると、足がすくんでしまった。グループの仲間の協力もあり、3ヶ月という長期に渡る解剖実習の過酷な時間をどうにかクリアすることはできたものの、皮膚を剥ぎ、脂肪も取り除いた上で神経や内臓をじっくり観察するという行為がトラウマになってしまった。正直なところ実習そのものをよく覚えていないし、本当にこの私がメスを握り、解剖に参加したのか信じられないくらいだった。献体の防腐剤として使われているホルマリンなど薬剤が目にしみたこともあり、よく見えなかったことも記憶の固定化を阻み、自分にとっては幸いだった。解剖したことを忘れようと勝手に拒絶反応が起きてしまって、実習後に提出しなければならないレポートが全く手につかず、解剖室すぐそばの自習室で一人、居残り勉強をしていた。
 
 例えば…精神科医を目指せば、医者になったら手術に立ち会う必要はなく、注射のスキル程度で済むだろう。でも私は母のように子宮の病気で亡くなる人を減らしたいから、産婦人科医になりたい。産婦人科なんて絶対内診が必要だし、出産時の手術や大量出血の処置にも慣れなければいけない。産婦人科医を目指すなら、外科医と同じくらい解剖学は重要なのに…。3ヶ月の間、向き合い続けたはずの献体の人体構造を思い出そうとしても、なかなか鮮明には思い出せないし、人体内部の映像がぼんやり頭の中に過ると勝手に思考がシャットダウンしてしまった。おかげで全然レポートがはかどらない私は、いつもの気分転換を試みることにした。
 
 私には誰に教えられたでもなく、自分で子どもの頃に覚えた秘密の気分転換方法がひとつだけあった。それは自分の陰核を自分の手で慰めること…。それが自慰と呼ばれる行為であることを知ったのは、高校生になってからのことだった。私は小学生のうちから、つらいことや忘れたいことがあると自慰をして、逃避する術を身につけていた。そうすることで心が安定し、学業に専念できた。自慰で休憩をとりながら、勉強すると効率的に頭に入った。ある意味、自慰という気分転換を知っていたからこそ、塾に通えたわけでもなく学校の授業を受けただけの身で、ストレートで国立大学の医学部に進学できた気もする。
 解剖実習が始まってからは、その自慰行為をする頻度が増えた。精神を落ち着かせるための行為が増えたということは、自分はよっぽど解剖という実習が苦手なんだと、医者を目指す上で不都合な事実に気づいてしまった。その不都合な真実を消すために、自慰という気分転換に夢中になっていた。メスを握り、献体を解剖する時に使ったはずの同じ手で、自分の陰核に快楽を伴う刺激を与えていた。
 
 自習室には他に誰もいないし、少しくらいしてもバレないよね…。そう思った私は、レポートもそっちのけで、ショーツに手を突っ込み、自分の指で直に陰核をこねくり回していた。一番気持ち良く感じる部分なら、自分でよく分かっていた。ここをこうすると、陰核が充血して、勃起して、何度も擦っているうちにひくひく痙攣して、絶頂を迎えられることを私は知っていた。しばらく自慰行為にふけり、あと少しでイケそうと思っていると、突然、自習室のドアが開いた。慌てた私は、ショーツから濡れた手を取り出し、ハンカチで拭った。そして何事もなかったかのように、レポートを書くフリをした。
「おやっ、宝井(たからい)くんじゃないか。こんな時間まで残って自習しているなんて、勉強熱心だね。」
現れたのは生殖学の権威で不妊治療の第一人者の鬼頭(きとう)教授だった。
「鬼頭教授…おつかれさまです。解剖実習のレポートがなかなか終わらなくて、居残りしていました。そろそろ帰ろうと思っていたところなんです。」
秘め事をしていたことに気づかれたくない私は、そそくさと帰ろうとした。
「宝井くん、待ちなさい。何か…匂うんだが…。」
教授は鼻をくんくんさせながら、私の側に近づいてきた。
「これは…膣分泌液の匂いだな…。」
にやっと少し笑みを浮かべた教授は、私の太ももをさわさわとさすった後、陰部に手を伸ばし、湿っていたショーツを慣れた手つきで触り始めた。
「き、教授っ、何するんですか。やめてくださいっ。」
「何って…きみはさっきまでひとりでこうしていたんだろ…。こんなに濡らしてしまって…。」
ショーツ越しに陰核を器用にクリクリいじっていた教授は、ショーツの中に指を入れ、膣に指を挿入しようとした。
「痛っ、挿入は…挿入だけはやめてください。」
「なんだ…宝井くんはまだ挿入の経験はなかったのかな…。」
教授は大人しく、膣から指を引っ込め、今度は直に陰核を執拗に責め続けた。
「あっ、あっ、あん。」
すでに勃起しきっていた私の陰核は教授の指が与える刺激に喜び、ますます硬く膨張した。
「いいんだよ、何も遠慮せず、好きなだけ思い切り、気持ち良くなりなさい。」
私は自分が気持ち良くなれる指使いは自分がよく知っていると思っていたけれど、私以上に私の快楽を高めてくれた教授の指で、絶頂を迎え、思わず放尿してしまった。
「あっ、イクっ…。」
「おやおや、こんなに尿まで漏らしてしまって…。そんなに気持ち良かったかい?きみは陰核を刺激されるのがよほど好きなんだね…。」
「す、すみません、教授…汚した部分はちゃんと片づけます。」
慌てて自分の体液を拭き取ろうとすると、教授はタオルを持ってきてくれて、自ら拭き取ってくれた。
「気にしなくていいんだよ。これは女性の身体の生理現象だから。」
あんなみだらなことをされたというのに、後処理してもらうと何だか教授のことが善人に思えてしまった。
「ありがとうございます。すみません…。」
「いや、いいんだ。それより宝井くん。きみに折り入って話がある。」
教授は私の横に座ると、すぐには受け入れ難い話を始めた。
「実はきみの豊満で、男性の性欲を刺激する魅惑的な身体が密かにずっと気になっていたんだ。誤解しないでほしい。私がきみの身体に興奮していたというわけではないんだ。新たな不妊治療の研究を始めていてね。将来的に完全人工受精卵を作成し、人工的に作られた胎児を、子を授かれない母親たちに提供しようとしているんだ。それで今は、人工卵子と人工精子の開発段階でね。」
教授は私の胸やお尻をじろじろ見つめながら、話を続けた。たしかに私は他の子たちより、胸やお尻が大きくて、自分では時々邪魔と思えるほどだった。
「端的に頼むが、きみに精子採取要員になってもらいたいんだよ。人工精子を作るためには、たくさんのサンプル精子の中から、妊娠させる力が最も強い精子を見つけ出さなければならないからね。」
「精子採取要員…ですか。それって採取した精液を調べるということですか?」
私はあらかじめ採取された精液を医学的に調べる係を任されたのかと勘違いした。
「いや、違うよ。精液そのものを、採取する係をしてほしいということだ。成人男性の精子ならすでに調べ尽くしたんだが、なかなか手頃な精子が見つからなくてね…。まだ性交渉も知らないような若い男子の精子がほしいんだ。」
「それは…採取方法はどうするんですか?」
「単純に、きみが身体を使って、採取するということだよ。手や口や膣を使ってね。」
教授はまたニヤっと笑みをこぼしながら呟いた。
「そ、そんな…性交まがいのことをして採取しろということですか?」
「まがいではなく、性交して採取するんだよ。多少きみの体液が混じっても、問題はない。精子を調べたいだけだから。」
「精子を採取するために性交なんてできません。」
拒否する私の身体に手を伸ばした教授は、また私の下半身をまさぐりながら囁いた。
「さっきのことで分かったけれど…宝井くん、きみはどうやら処女のようだね。だからなおさら性交に拒絶反応を示すのは当然のことだよ。」
「…そうです。私は何も経験がありません。だから精子採取なんてできません。」
正直な身体は教授が這わせる指を受け入れつつ、教授が持ちかける話には頭で必死に抵抗した。
「何もということはないだろう。実際自慰行為は慣れているようだし、きみの身体は魅力的だから大丈夫だ。精子採取方法なら私がしっかり教えるから、何も心配することはないんだよ。」
「教授にそんなことを教えてもらいたくはないです。私は精子採取なんてしたくありません。」
はっきり断ったつもりだったけれど、教授は私の弱みにつけこんできた。
「そうかい?残念だな…この話を受け入れてもらえたら、解剖学で遅れを取っているきみをどうにかしてあげようと考えていたんだがね。知っているよ、優秀な宝井くんでも解剖だけは苦手なんだろ?だからレポートも仕上げられずに困っている…。本気で産婦人科医を目指すなら克服しなければならないこともある…。」
大学の中でも特に権威のある鬼頭教授に気に入ってもらえれば、何かと優遇してもらえるのはよく分かっていた。けれど私はまだそこまで落ちぶれてはいなかった。
「精子採取はできません。私は自力で解剖実習のレポートも仕上げます。」
「残念だな…きみなら協力してくれると信じていたが…。実に残念だ。」
教授はしつこく迫ってくるわけではなく、その日は大人しく引き下がったように見えた。
 
 けれどそれは甘かった。解剖実習のレポートの提出期限が目前に迫っても、まだ書き終えていない私に再度、教授は甘い言葉を囁いてきた。
「宝井くん…精子採取の件は抜きで、私はきみが終わらせることのできないレポートを手伝ってあげようと思うんだ。立派な医師になってもらうため、解剖だけは克服させてあげたい。私は優秀なきみの将来を期待しているんだよ。」
切羽詰まっていた私は、教授に解剖実習のレポートを手伝ってもらうことにした。
 
 教授と私以外、誰もいない鬼頭教授専用の研究室で教授は解剖実習のレポートをまるで私が書いたようなレベルであっさり仕上げてくれた。
「教授助かりました。本当にありがとうございます。」
お礼を言い、レポートだけ抱えて帰ろうとした私は甘かった。
「待ちなさい。解剖学を克服させてあげると言っただろう。これから少し補習しようじゃないか。」
「はい…。」
教授はあの時と同じように私のショーツに手を入れると、巧みな指で陰核に規則的な刺激を与えた。
「き、教授っ、こんなの…解剖学の勉強じゃありません。」
「分かっているよ。だけどね、勉強方法というのはいろいろあるんだ。何も、実際に解剖するばかりが、解剖学の勉強ではない。教科書を読んでいるだけでも勉強にはならない。」
「はい…。」
教授の指にされるがまま、私の陰核はイキたい気持ちをどうにか堪えていた。
「きみは…おそらく本物の人体に慣れていないが故に、実習で献体を解剖したことがトラウマになってしまったんだろう。嫌な記憶を消すために自慰行為をし、無意識に自分にとって悪い記憶を忘れ、それを良い記憶にすり替えようと脳が防衛反応を引き起こしたんだ。きみがすでにしているその原理を利用するんだよ。まれに…解剖実習中に献体の耳を切り落としたりして、悪ふざけする学生もいるんだが、許される行為ではないにせよ、彼らの脳も恐怖を和らげようと抵抗しているのかもしれない…。」
教授は陰核を責めていた指の動きを止めると、私のショーツをはぎ取り、無理矢理脚を開かせると外陰部に顔をうずめた。
「なっ、何するんですか。やめてくださいっ。」
「宝井くんは今、私と二人きりと思っているだろうが、違うよ。ホルマリン漬けにされたたくさんの臓器や、今度実習で使う予定の献体もすぐ隣の部屋にあるんだ…。それらに囲まれながら、気持ち良い思いをすれば、きみが怯える対象が怖いものではなくなる。恐怖の記憶を快楽の記憶にすり替えられれば、きみはトラウマを克服できるんだ。」
そんな話を真剣に話しながら、教授は私の陰核や外陰部、そして膣の入り口に舌を這わせた。
「あっ、はん、やめてくださいっ。」
口先では抗いながらも初めて受けた刺激に身をよじらせた。指なんかよりも舌の方がずっと気持ち良かった。
「気持ち良いだろ?我慢せずにまた漏らしていいんだよ。」
「あっ、あっ、イクっ、イッちゃうっ。」
巧妙な教授の舌の動きに耐えきれなくなった私は、教授の顔に尿を浴びせてしまった。
「きみは…本当に感じやすい身体なんだね…。やっぱり私の目に狂いはなかった。」
「す、すみません、教授…。」
教授は私の尿を気にするでもなく、私を隣の部屋に誘った。
「さぁ、ここからが本番だよ。」
その部屋にはホルマリン漬けにされたたくさんの内臓や、それから献体が置かれていた。
「ひっ、こんなところで何をするんですか…。」
なぜか真ん中に簡易ベッドも置かれており、教授は私をそこに押し倒した。すぐ隣では動くことのない献体が静かに眠っていた。
「性交に決まっているじゃないか。きみはこの環境で性交の快楽を味わえば、きっと人体への恐怖を克服できるよ。」
いつの間にか勃起していた自分のペニスを、教授は否応なしに私の膣にぶち込んだ。
「いやっ、痛っ、痛いです。やめてください。」
初めて受け入れたペニスに私の膣は悲鳴を上げていた。
「うっ、さすがにきついな…じっくり楽しみたいところだが、長くはもちそうにない。」
痛がりどんなに嫌がっても、教授はその行為をやめてはくれなかった。
「今は痛いだろうが、そのうちこれが良くなるんだよ。それまでの辛抱だ。」
教授は何かを探るように適度に動きや角度を変えながら、挿入し続けた。いつの間にか私のブラジャーを外し、胸を露出させ、乳首をつまんだり、吸ったりもしていた。
「あっ、はんっ。」
陰核と同じように、興味本位で乳首も自分でいじってみたことはあったけれど、自力で感じることはなかった。初めて他者に乳首を弄ばれたら、乳首もすっかり快楽を覚えてしまった。膣は相変わらず痛いけれど、そのうちくすぐったいような、おしっこが出そうなおかしな感覚に襲われ始めた。
「ここか…響子(きょうこ)くんはここが感じるポイントなんだね…。」
性交の最中から教授は私のことを下の名前で呼ぶようになっていた。そして私が一番感じ始めた膣の奥を教授は徹底的に犯した。乳首や時々陰核にも刺激を与えることも忘れずに…。
「あっ、あっ、そんなの、そんなの、もう無理ですっ。」
「何も遠慮することはないんだよ。今は何もかも忘れて、その快楽に身を委ねなさい。」
たくさんの内臓、それからすぐ隣には献体という異様な環境下で、経験のないとてつもない快楽の波に襲われた私は、見知らぬ人たちに見つめられながら、絶頂を迎え、果ててしまった。
「あっ…あっ…。」
「響子くん、やはりきみは逸材だよ。初めての性交で痛みに勝る快楽をすぐに得ることができたんだから。これできっときみは解剖のトラウマも克服できただろう。何しろ、献体や臓器たちに見守られながら、処女を失ったんだからね。人体は怖いものではなく、解剖も恐ろしい行為ではないんだ。性交は気持ち良い行為だ。」
教授はまるで私を洗脳するかのように、解剖への恐怖心を払拭させようと、性交の良さを何度も説いた。私がイッた後も、まだひくひくしている陰核を弄びながら…。
 
 その日以来、鬼頭教授から定期的に性交に誘われ、素直に私はそれに応じ、その度に解剖に対する恐怖心を和らげさせるような性交による快楽を、教授の指、舌、ペニスや性玩具を駆使して、私の身体に刻み続けた。解剖は怖くない、性交は気持ち良いと、麻痺している私の脳にすり込み続けた。臓器や献体がひっそり佇み、薬品の独特な匂いも漂う薄暗い個室で…。時には大型スクリーンに人体解剖映像を投影しながら…。そんな異様な空間に教授と私の肉と肉がぶつかり合う音や、二人の喘ぎ声が静かに響いていた。
 
 「響子くん…きみが恐れていた臓器や人体はもう怖くはないだろう?そもそも細胞の集合体である身体は最初、たった一対の精子と卵子という細胞から作られたものなんだ。細胞分裂を繰り返し、細胞を増殖させ、生命活動を維持するために、血管、神経、リンパ、内臓、骨などに姿を変える。すべて精子や卵子が形を変えたものと考えれば、何も怖がることはないだろう。むしろたった二つの小さな細胞がこうして身体を機能させるためにそれぞれの器官や内臓を生み出すなんて、尊いことだと思わないかい?」
私が教授との性交に慣れ始めた頃、教授はそんなことを言いながら、何やら顕微鏡を見せた。
「今から受精する瞬間をきみに見せてあげるから…。」
言われるがまま顕微鏡を覗くと、ひとつの卵子が見えた。そして教授がひとつの精子を加えると、元気な精子が勢いよく卵子の中に潜り込むのが見えた。
「すごい…これが受精の瞬間なんですね…。」
「何度見ても神秘的な瞬間だよ。世の中には精子や卵子の働きが鈍くて、どんなに願っても自力で子をもうけられない人たちもいる。そういう人たちに、私は命という素晴らしい贈り物を届けたくて、日々研究に励んでいるだよ。命の根源である、尊い精子と卵子を研究するために、自分は生まれたと私は信じているんだ。」
「はい…それは尊くて、素晴らしいことだと思います。」
教授に洗脳され、正常な判断ができなくなっていた私は、教授が取り組んでいる研究は心から尊いことだと尊敬の念さえ抱くようになっていた。
「だからね、響子くん。きみにもその尊い研究に協力してほしいんだよ。精子採取をやってくれないかね。きみにしかできない、困っている人たちを救える素晴らしい行いなんだよ。」
「はい…わかりました。教授や困っている人たちのためにがんばります。」
この頃の私は完全に心を教授に支配され、教授の欲望を満たすためだけの従順な性奴隷と化していた。
 
 その後私は、優秀な精子採取要員になるべく、徹底的に調教された。フェラチオや手コキ、パイズリの仕方、正常位、騎乗位、バック…どんな体位でも完璧に性交し、確実に精液を採取できるように、教授から厳しく指導された。
「響子くん自身が気持ち良くなるのも構わないが、きみの使命はあくまで精子を採取することだ。快楽に負けない強い心を養わないといけないよ。」
唇、胸、膣、陰核…そしてアナルも含めて教授は私の身体を余すところなく、自身のペニスや性玩具で犯し続け、自分好みに私の身体を開発していた。
「あ、んっ…はい、教授。私は押し寄せる快楽に負けずに、自分の任務を遂行します。」
「そうだ、きみの任務は精子採取だ。どんな状況でも確実に採取できるようにならないとね。」
教授は私に性の奥義をすべて教えてくれた。身体に快楽を与えるテクニックのみならず、精神的にも相手を喜ばせることが大事だと…。相手に快楽を与えるのは大前提だが、自分自身も気持ち良くなろうと努力しなければならない。感じることは相手の喜びにつながり、相手をさらに満足させることができる。性交はなるべく両者で快楽を味わえた方が、深い信頼関係を築ける。性交による快楽は与え、与えられるもの。単に精液を採取しようとするのではなく、身も心も相手を満足させた上で、大切に受け取ることと教わった。
 
 鬼頭教授に性のすべてを叩きこまれた私は、常に性欲が異常に亢進する状態が継続し、1年も経つと自慰しか知らない真面目な学生から、自ら教授に性交をねだるニンフォマニアに様変わりしていた。しかしそれは教授に性交を指導されたせいではなく、元々私の中に眠っていた性欲が完全に開花したことが起因であると思う。つまり教授は私の秘めた欲望を引き出してくれただけだった。
 
 「私が教えられることはすべて響子くんに教えてつもりだよ。これからは精子採取の実践に取り掛かってもらう。」
大学3年生の夏から、正式に精子採取要員となった私は、性欲をもてあましているような童貞のターゲットを見つけては性交を持ちかけ、精液を採取し、それを鬼頭教授の元へ届けていた。1年あたり100人以上の精液を採取したと思う。教授のおかげで解剖実習も克服し、6年間の大学生活を終え、無事に卒業できた時には300人以上の精液を採取していた。その実績が認められた私は、医師免許の取得を目指しつつも、鬼頭教授が所長を務める大学付属の生殖能力研究所に就職が決まり、人工精子開発部に配属され、卒業後も精子採取要員を務めることになった。
 
 そして出会ったのが私にとって運命の人となった菅生瞬(すごうしゅん)くんだった。まだ13歳で童貞ながら、性欲だけは大人顔負けだった。容姿端麗な彼のことを初めはただのかわいい男の子と思っていたけれど、彼のことを調べていくうちに、彼と私は似ていることに気づき、興味が芽生えた。私と同じく母子家庭と分かり、私と同じように性欲異常亢進者だった。お母さんを助けるためにまだ中学生ながら働こうとモデルの仕事もこなしており、母親思いの健気な子だった。私の誘惑に応じつつも、賢い彼は慎重な面もあり、大人びて見えることもあった。会う度に年下の彼の一挙一動が気になって仕方がなくなった。いつしか私は一回りも違う彼に恋をした。それは生涯で一度きりの恋だった。彼の方も私のことを好いてくれて、思わず任務のことを忘れて、彼と本気で恋愛してみたいと考えてしまうこともあった。妊娠してしまうと任務に支障をきたすため、精子採取要員になって以来、避妊のために私はピルを服用し続けることも義務づけられていた。彼の精子を採取しているうちに、彼の子を妊娠してみたいという欲望にも駆られ出した私は、ピルの服用をやめてしまおうかと思うこともあった。実際、ピルの服用を一時的にやめてみたこともあった。任務も何もかも捨てて、彼と二人きりで生きていきたいとまで願うようになっていた。けれど勝手に任務を放棄したら、罰が下されることは分かっていた。私だけならまだしも、彼に危害が及んではいけない。それを考えるとどんなに彼のことを愛し、彼と相思相愛だとしても、勝手な真似はできなかった。決して許されぬ恋だった…。
 
 教授が調べた結果、彼の精子が最も人工精子のモデルに向いていると判明し、彼と定期的な精子提供の契約を結び、精液採取期間が過ぎても、私はこっそり彼との逢瀬を続けようとした。本当は精子採取の協力者とは契約期間が過ぎたら、関係を絶つことが原則だった。それが教授にバレてしまったらしく、私は教授に呼び出された。
「響子くん…どうやらきみは精子提供者の若者の一人に肩入れしているようだね…。私も優秀な精子を体内で製造できる彼のことはとても興味深いが、忘れてはいけないよ。きみは私の元で従順に働く、研究員の一人にすぎないということを…。」
「はい…それは分かっています。でも…彼は人工精子のオリジナル精子に選ばれた逸材です。彼の生殖能力を私も研究したいと思いました。」
教授にだけは本気の恋心を悟られてはいけないと分かっていた私は、あえて彼のことを研究材料として興味があると誤魔化したつもりだった。
「生殖能力の研究なら、きみではなく私が担っているから心配ない。響子くん、私は知っているんだよ。彼の精子採取をしている間、きみが故意にピルの服用をやめた期間があることをね…。妊娠しなかったから良かったものの、もしも妊娠していたらどうなっていたと思う?どうやらきみは彼に特別な感情を抱いてしまっているようだね。それは精子採取を任されている者として、任務を放棄するのと同じことだ。よってきみは人工精子開発部から外れてもらう。精子採取要員として優秀なきみだったのに、本当に残念だよ…。」
教授にとって従順な性奴隷であるはずの私が、特定の協力者に恋をしてしまったことは、教授の逆鱗に触れたらしい。私は人工精子開発部から人工卵子開発部に異動が決まった。教授は私のみならず、すべての卵子を虜にさせる彼と彼の精子に嫉妬したのかもしれない。

 私は生殖能力研究所から追い出されなかっただけ良かったのだろうか…。けれどいっそのこと、教授から縁を切られた方が自由になれて気楽だったかもしれない。
 お気に入りだった私のことを教授は、自分の手元に置いておきたいが故に権力を行使し、異動後は私を勝手に自分の養子にしてしまった。私は宝井響子から鬼頭響子に変えられてしまったのだ。
 これで一生、教授から逃げられなくなった…。すべてを握られた私は籠の中の鳥だった。精子採取要員の時の方がまだマシだったと思えた。自由に外に出られたし、彼とも出会えたから…。
 
 人工卵子開発部に所属すると同時に、自分の卵子もサンプルとして提供を求められた。
「響子くん…我が娘のきみの卵子を調べたところ、とても優れた卵子と分かり、人工卵子のモデルに決まったよ。」
私の卵子を調べた教授はまるで本当の娘の卵子がそうなったかのように誇らしそうな笑みを浮かべていた。
「そうですか…。」
私は少しもうれしくなった。卵子が優れていると分かっても、もはや愛する彼とは性交できず、彼の子を自分の子宮に宿すことはできないのだから…。
「もっと喜びたまえ。本音を言えば私は気が進まないが、私情を抜きに研究を進めるとすれば、響子くんの卵子を元に作られる人工卵子と、きみが気にかけていたあの若者の精子を元に作る人工精子を掛け合わせて、人工受精卵を作る計画もあるから…。つまりきみが好いた相手との子どもが生まれる可能性があるんだ。それはきみにとっても幸せなことだろう?」
彼と私の子が人工的に生み出されるかもしれない…。それを知り、少しはうれしい気もした。けれど人工卵子になって大勢の子をもてたとしても、たったひとり愛する彼との子を自分の母胎で育める方が、はるかに幸せだと思えた。それができない囚われの身の私はやっぱり憐れで、惨めな存在だった。そもそも人工卵子のオリジナル卵子に選ばれた者は、性交によって子をもうけてはならないという規則もあり、自分の卵子さえ、自分の自由にはできない虚しい日々が続いた。人工卵子の元に選ばれてしまった私は、自動的に妊娠・出産を経験できない女になってしまったのだ。独占欲の強い教授が私を誰にも奪われないようにするために、私の卵子をあえて人工卵子のオリジナルに任命し、妊娠・出産できないように仕向けた気がしてならなかった。
 
 時は流れ、私を束縛し続けた養父・鬼頭教授も亡くなり、気づけば私はとっくに還暦を過ぎていた。人工受精卵が完成し、人工人間が誕生した頃には、人工卵子開発部もなくなり、教授の計らいもあって医師になれていた私は、産婦人科医として海外の病院で勤務していた。特に高齢出産のノウハウを学び、高齢出産の帝王切開手術に多く携わった私は、帰国すると高齢出産のゴッドマザーと呼ばれるようにまでなり、かつては精子を採取することしかできなかった私が医師として活躍できるようになっていた。解剖で挫折しかけた自分がまさか手術で功績を残せるようになるなんて信じられないくらいだった。養父とはいろいろあったものの、私の苦手を克服する手伝いをしてくれて、一人前の医師になるまで援助してくれたことだけは感謝している。
 
 いわゆる適齢期出産が減少の一途を辿る中、高齢または未成年の妊娠・出産は増加傾向にあった。まるで卵子自身が、ヒトが勝手に生み出した適齢期という概念を覆し、進化するかのように…。だからこそ、高齢出産に特化している私のような医師は重宝された。予期せぬ高齢妊娠で、堕胎することも考えざるを得ない悩める母親たちに手を差し伸べ、医師として授かった命をつなぎ止める手助けができることは誇りだった。同時に、女性として妊娠・出産することは叶わなかった自分が、母親たちと接しているうちに我が子をもてたように錯覚し、その疑似体験に満足してしまっていたかもしれない。つまり高齢妊婦たちと母胎で命を育めなかった自分自身を救える天職だった。
 
 医師としては地位も名誉も申し分なかった。養父のおかげで、愛した彼と私の遺伝子を受け継ぐ我が子たちが、密かに世に送り出されていることも分かっていた。けれど女として拭いきれない寂しさが、性欲は衰えたこの歳になっても静かに残っていた。生涯でたったひとり、本気で愛した彼とはあれきり会えず、自分の子宮は一度も命を宿すことなく、臓器として果たせたかもしれない役目を担えないまま、その機能を閉ざしてしまったから…。たとえ産めないとしても、一度でいいから自分の子宮に愛した彼の子を宿してみたかったという女として消化しきれない悔いが、決して離れてはくれない影のように寂しく尾を引いていた。
 
 独身だった養父には私以外、家族はおらず、彼が亡くなった後、莫大な遺産は父の遺言もあり、望まなくとも自動的に私のものとなった。私は父の遺産のほとんどを人工人間の研究所へ寄付した。そして自分は高齢出産をサポートするという自身の使命のような仕事に明け暮れていた。父が目指したように優秀で完璧な人工物を繁殖させるのではなく、若くはない人間が命がけで産み出そうとする尊い命を守り抜く側に専念していた。人工物とは違うその命は完璧ではないため、時に不完全で不安定な場合もあり、亡くなってしまう運命の元に生まれる儚い命もあった。けれど私は生きられる可能性が低い命とも真剣に向き合った。母親と赤ちゃんの絆と生命力を信じて、出産現場に全力で立ち合い続けた。
 
 そんな私の元へ、国から極秘最重要・高齢妊婦出産サポートの依頼が舞い込んだ。その妊婦は51歳という高齢出産の中でも特に高齢で、万全な体制で出産をサポートしてほしいということだった。彼女の詳しい情報が記された資料を読んで驚いた。未婚でシングルマザーになる予定の彼女は、39歳の時に初めて妊娠し、中絶していた。そして彼女は父が作った人工人間であるAIの子を育てる治験に協力しており、現在10歳の男の子と二人で暮らしていた。前回の妊娠も、今回の妊娠も相手は「菅生瞬(人工精子の元となった精子をもつゴッドファーザー)」と記載されていた。通常、人工精子や人工卵子の元となった精子や卵子をもつ人間は勝手に性交で子をもうけてはならない決まりがあるというのに、彼の場合はなぜかは分からないけれど、特例で許されたらしい。私が愛してやまない彼の子を二度も妊娠した女性がいたなんて…。羨ましいと妬んでしまう反面、この女性と彼の子を安心安全に子宮からとり上げることができるのはきっと私しかいないといつも以上に力が入った。彼女のお産に携わるために、高齢出産を学んでいた気がしてならなくなった。愛する彼の子を自分の子宮に授かることはできなかったけれど、今でも愛している彼の、生まれようとしている子の命を守り抜き、無事この世に産声を上げさせてあげることこそ、孤独な私にとっての最後の宿命だろうと気づいた。私は彼の子を産むためではなく、彼の子の命をこの世へ送り出すために生まれたのかもしれないとさえ思った。産婦人科医になり、高齢出産と向き合い続けていたのは、きっとそのためだった…。
 
 彼の子を身ごもっている彼女と対面したら、何から話そう。いつものように医師として、母子と接することができるだろうか。
「年齢のことを考えれば、恐怖心も強いかもしれませんが、大丈夫ですよ。あなたとおなかの赤ちゃんの命を守るために、私が全力を尽くしますから。」
「お母さんも私もがんばるから、一緒にがんばろうね、赤ちゃん。」
なんていつも通り、冷静に話せるだろうか…。
 
 悩んでいる暇はない。「藤宮透子(ふじみやとうこ)51歳」が無事に出産を終えられるよう、ゴッドマザーと呼ばれる私は自信を持って、全身全霊で二人の尊い命を生かし、守り抜いてみせる。私はそう決意を新たにして、彼女の元へ向かった。

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