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『マザー』第6話「その男の野望」

 まったく馬鹿げている。ようやく少子化対策に本腰を入れた国は、子宮外妊娠以外での堕胎を禁止する方策を打ち出した。事実上、中絶禁止令を発令したようなものだ。とは言え、宗教等の理由でたとえ子宮外妊娠であっても堕胎を認めない国のような、より強制的な中絶禁止とは少し様子が違った。予期せず妊娠した女性に子を育てることまでは義務づけず、授かりたくても授かれない女性の元へ、自身では育てられない母親が産んだ子を分配する仕組みも盛り込まれていたからだ。つまり育てる意志がある女性の元へ確実に子を与えるために、産める女性には必ず出産してもらうという制度だった。神のいたずらか、卵子や精子のしわざなのか、世界的に原因不明のヒトの生殖能力の機能低下が加速し、特に日本はそれが顕著だった。妊娠も出産もしたくてもできない女性が増える中、育てる意志のない女性の方が妊娠できる場合が少なくなく、孤立出産の果てに子を殺してしまうケースが後を絶たなかった。中絶禁止令は国として大事な子宝をどうにか守ろうと、医学の知識なんてない政治家たちが躍起になって考えた末に見出した、異次元の少子化対策のひとつだった。
 
 医師の道へは進まなかったものの、医学部で学び、医師免許を取得し、大学教授として生殖能力を専門に研究している私・鬼頭千次郎(きとうせんじろう)から言わせてもらえば、産める人は必ず産み、育てられる人の元へ子を届けるなんてその場しのぎのままごとのようなものだ。子の数は限られるし、何より子を育てられない親の遺伝子を受け継ぐ子が増えたところで、将来的に少子化が解決するとは思えない。もっと抜本的に解決策を生み出さなければ、少子化に歯止めをかけることはできない。ヒトの卵子や精子が自身に与えられている生殖能力を完全に放棄してしまう前に、なるべく繁殖力に長けている卵子と精子を多く探し当て、種の存続のために、後世に残すべきと私は考えた。しかし優れた卵子や精子を冷凍保存するだけでは心細かった。それにも数に限りはあるし、保管しているうちに劣化してしまう可能性があるのも避けられなかったからだ。
 
 より確実に、繁殖に優れた卵子と精子を獲得するには、優れた卵子と精子を人工的にコピーして増やすしかなかった。つまり私は少子化を確実に解決するために、人工卵子と人工精子の研究に取り組むことにした。人工卵子と人工精子を作ることさえできれば、人工受精卵を生み出せる。そして人工受精卵から人工胎児を育て、人工人間を誕生させる。それが生殖能力を研究する私に課せられた使命だと考えた。人工人間にも多様性をもたせるため、ゆくゆくは人工人間の育ての親の遺伝子も加えたいと思った。脳にAIを搭載させ、そこへ育ての親の遺伝子情報を組み込めば、育ての親にとって完全に我が子となり、育てる側もより一層、子どもに愛着を持てるだろう。私は人工人間のことをAIの子と名付け、優れたAIの子を誕生させ、子を望む多くの人たちの元へ届けたいと本気で願うようになった。それが実現すれば、無限に子を作れることになるため、わざわざAIの子に生殖能力をもたせる必要はないとも考えた。AIの子にその能力を与えてしまったら、憂慮すべきこともあった。人工人間を作るのに向いた卵子や精子は一対ではなく、なるべく多く集める計画ではあったが、経費のことも考慮すれば自然界ほど多種多様な卵子、精子は作れない。となるとある程度同じパターンの遺伝情報をもつ子が増えることになり、その子ら同士で繁殖してしまったら、血が濃くなりすぎて、障害をもつ子が増えてしまう懸念があった。障害をもつAIの子ばかりになってしまったら、社会そのものが機能しなくなるおそれがあり、さらにAIの子という種そのものが滅んでしまう可能性もある。それを避けるためにも、やはりAIの子には生殖能力をもたせないというのが妥当な判断だった。
 
 しかしヒトの卵子と精子を人工的に作る以上、あくまでヒトを誕生させようとしているのだから、生き物ならではの生殖器官や、繁殖活動まで奪うことはできなかった。人工人間にも、女性器、男性器は当然あり、卵子も精子も存在した。しかしその卵子と精子を機能させない仕組みが必要だった。元々卵子は自ら動くと言っても、排卵という現象が起きる程度でそれほど活発ではない。活発で厄介なのは精子の方だから、精子の動きを鈍め、卵子に達することができないような精子にすればいいと考えた。不妊症の男性の精子を真似すればいいんだと気づいた。妊娠させる能力をもたせない精子を故意に作るだけだった。しかし繁殖力に優れた精子は当然動きが活発な精子が多いため、相反する機能を人工精子に組み込むのは一筋縄では済まないことにも気づき、私の研究は前途多難だった。
 
 私の父・鬼頭亀之助(きとうかめのすけ)と兄・鬼頭万太郎(きとうまんたろう)は私と違って、野心を抱くような人間ではなく、二人とも温厚な産婦人科医だった。兄は医学部を卒業し、医師免許を取得すると、父の跡継ぎとして鬼頭産婦人科医院で働き始めた。父も兄も、未婚などの事情で産みたくても産めないと葛藤しているような弱い立場の妊婦にも寄り添い、どんな妊婦であっても受け入れ、出産まで見守り続けた。中絶禁止令が作られる以前から極力、堕胎することなく新たな命がこの世に生まれて来られるように、母子のことを手厚くサポートしていた。そのため、母子の味方のゆりかごのようなやさしいドクターと皆から好かれる父と兄だった。そんな二人に私だけは似なかったらしい。私は医師の道へ進みたいとは思えず、大学に残って教授となり、生殖学の研究に没頭した。医師になって今苦しんでいる目の前の患者たちを救うより、時間はかかるかもしれないが生殖能力を研究することで、いずれ世界中で困っているもっと大勢の人たちを救える時が来ると信じていたからだ。
 
 実際、私の研究は少子化がますます深刻になった今となっては、重要な研究分野になった。中絶禁止令だけでは不十分と分かれば国も、いずれ研究に協力してくれるだろう。自分の研究は必ず認められる日が来ると信じて、密かにこつこつ研究を進めていた。
 
 人工精子と人工卵子の研究に取り組み始めたばかりで教授としては駆け出しの頃、一人の学生と出会った。彼女は今風に言えばいわゆるコミュ障で、他者とコミュニケーションを図るのが極端に苦手な学生だった。友人もいないらしく、いつも一人で本を読んだり、何かを書いているような女性だった。講義は熱心に聞くタイプで学力は優秀な方だったが、医学部は実習もあるため、全く人と関わらないまま、卒業することは難しかった。まして患者と関わる医師を目指すとなれば、コミュニケーション能力も大事なスキルだった。私は内気で孤独な彼女が妙に気になり、学生として気にかけていた。
 
 ある日、講義が終わって教室から出ようとした時、「深月鏡子(みづききょうこ)」と名前の書かれたノートが机の上に置き忘れられていることに気づいた。それは私が気にかけていた彼女のノートだった。パラパラめくってみると、私が講義で話した内容がびっしり丁寧に記されていた。ふと一番後ろのページを見ると、私が知る由もない彼女の心の内の密かな悲鳴が綴られていた。
 
「人が苦手で自分のことも嫌いで 極力、人と関わらないように 必要最小限の付き合いしかしていない 家族と話すのがやっとの私が 人を産んでみたいなんて馬鹿げている 子どもを産んだらきっと 嫌でも人に頼らなきゃいけなくて たくさんの人と関わらなきゃ 命を守れないのに まともに会話もできない私が どうやって子どもとコミュニケーションをとれるというの 人を産みたいなんて戯言は 私にとっては医師になるより無謀な夢 こんな馬鹿げたことを考えてしまう自分が大嫌い」
 
 翌日、このノートを返すために私は掲示板に彼女の学生番号を掲示し、彼女を自分の研究室へ呼び出した。
 すべての講義が終わった夕暮れ時、私の研究室に彼女が現れた。
「失礼します…。」
うつむいたまま蚊の鳴くような声で彼女はようやく一言発した。
「深月くん、突然呼び出したりして悪かったね。きみが昨日忘れたノートを渡したくてね。」
一瞬、はっとした表情を浮かべた彼女は
「すみませんでした。」
と一言だけ言うと、私からノートを奪うように受け取るとすぐに研究室から出ようとした。
「深月くん、ちょっと待ちたまえ。」
ノートに書かれていた彼女の心の悲鳴が気になっていた私は、余計なお節介と分かっていても、彼女の秘めた思いを知ってしまった以上、話しかけずにはいられなかった。
「ノートを拝見したんだが、私が講義した内容をとても丁寧に書いていて素晴らしいと思ったよ。それから勝手に見てしまって申し訳ないが、その…最後のページも読んだんだ。」
顔を赤らめた彼女は黙ってうつむていた。
「もしも今、きみが妊娠していて困っているなら、相談に乗るよ。」
内容から察して、私は彼女が予期せず妊娠してしまい、困っているのだろうと思っていたけれど、それは勘違いのようだった。
「妊娠なんてしていないので、大丈夫です。」
彼女はポケットから取り出したメモ帳にそう書くと、私に見せた。
「それならいいんだ。私の誤解だったようだね。すまない。じゃあなぜあんなことを書いたんだい?ずいぶん思いつめているような文章だったから、心配で…。」
「ノートに書いた通り、私はコミュ障なのに、いつか子どもを産みたいと考えてしまうということです。そのことを自分で馬鹿みたいだと思っています。」
筆談なら彼女は流暢にしゃべってくれた。
「なるほど、そういうことか…。子をもちたいと考えるのは少しも馬鹿みたいなことではないよ。生き物としての本能や母性は誰にでも備わっているから。それが強い人もいれば、弱い人もいるだけで。いずれ出産したいと願うのは、愚かなことではなく、素晴らしいことだよ。生殖学を扱っている立場だからというのではなく、人としてそう思うよ。」
「でも私は人が苦手なんです…コミュ障だから出産なんてできるわけがありません。そもそも人と関われないのに妊娠なんて…できるわけないです。」
いつの間にか彼女は目に涙を浮かべながら、メモ帳に書いていた。そんな彼女を見て同情心と淡い恋心のような感情を覚えた私は、彼女にこんな提案をしてしまった。
「深月くん…きみはまだ若い。コミュニケーションは訓練次第で徐々にとれるようになるよ。そもそも口に出して話せないだけで、筆談なら流暢に話せているから大丈夫だ。コミュ障だからと言って、妊娠や出産できないなんてことはない。でもきみが考える通り、育児となれば誰かに助けを求める機会も増えるから、人付き合いはできないよりはできた方がいい。そうだ、これから私と少しずつコミュニケーションをとる練習をしようじゃないか。深月くん…ちょっとこっちへ来たまえ。」
私の言葉を聞き、少し落ち着きを取り戻した様子の彼女は、素直に私の側へ近づいてくれた。
「いつか妊娠したいなら、まずは異性に慣れることから始めなければならないと思うんだ。」
私を信じて近寄ってくれた彼女の身体に手を伸ばすと、私は彼女の胸を揉み出した。
「あっ…や、やめてください…。」
メモ帳に書く隙もない彼女はとっさに小声でつぶやいた。
「こういうことに慣れないと妊娠はできないんだ。こうなると書く余裕もないから、嫌でも口から声が出る。異性とコミュニケーションをとるため、妊娠するための訓練だから我慢しなさい。」
私はもっともらしいことを言いつつ、彼女を前に抑えきれなくなった己の欲望を彼女の身体で満たそうと試みた。ブラジャーを外し、直に胸を触り始めると、彼女は吐息を漏らし始めた。
「あっ…は…ん…。」
早くも抵抗しなくなった彼女は、勃起させた乳首を従順に私の指に委ねた。
「乳首をいじられるのが好きなんだね…。エッチなことが好きなら、異性と交わって妊娠することも難しいことではないよ。何しろ性交は、その気になれば言葉はいらない行為なんだ。合意さえあれば、会話しなくても成立するから、何も心配する必要はないよ。言葉ばかりがコミュニケーションを図る術ではないんだ。」
勃起した彼女の乳首をこりこりしながら、私は彼女の下半身にも手を伸ばした。
「おやっ、もうこんなに濡れてるじゃないか…。」
湿きった彼女のショーツの中に手を入れ、陰核をやさしくクリクリすると、彼女はさらにかわいい悲鳴を上げた。
「あっ、あっ…。」
「陰核への刺激もある程度慣れているようだね…。もしかして深月くんは、いつか妊娠するために、自分で乳首や陰核をいじって性欲を高めていたのかな。」
彼女は喘ぎ声を我慢しながら、こくんと頷いた。
「性交を実現させるために自慰で馴らしていたとは健気だね。きみは本当に妊娠したくて仕方ないんだね。私がきみの願望を叶える手伝いをしよう。」
私は彼女をソファーへ押し倒すと、ショーツを脱がせ、彼女の陰部に顔をうずめた。
「陰核も乳首並みに勃起してるね…。」
ビンビンになっていた彼女の陰核に舌を這わせると彼女は
「いやっ、あっ…あん…。」
言葉では抵抗したものの、素直な身体は自ら腰を上げ、私の舌をさらに欲した。
「深月くんは身体でちゃんとコミュニケーションをとれているから、自信をもって大丈夫だよ。」
私の舌は陰核を責めた後、陰唇をなぞり、膣へ向かった。
「ここへの刺激は慣れているのかな…。」
すでにぬるぬるになっている彼女の膣へ舌を這わせ、指を一本入れてみた。
「いっ、痛っ。やめてくださいっ。」
彼女はこれまでで一番大きな声を上げて抵抗し始めた。
「おやっ、ここはまだ慣れていないようだね。でも今、ちゃんと大きな声で私に意志を伝えることができたじゃないか。えらいよ、深月くん。ご褒美をあげないとね…。」
私は彼女の乳首を吸いながら、彼女の膣へ指を挿入し続けた。
「あっ、あっ、あ…ん…。」
「乳首吸われながらだと少しは痛みが和らぐだろう。指に慣れてきたら、次の段階に進めるからね…。」
私は指を一本から二本に増やし、膣への挿入を繰り返した。彼女の身体を責め続けていた私は、我慢できないほど勃起していた自分の陰茎を彼女の前に晒した。
「きゃっ…」
陰茎を見たことがなかったらしい、彼女は目を背けた。
「妊娠願望があるなら、陰茎にも慣れないとね…。陰茎と対話できるようになれば、深月くんの夢の実現にまた一歩近づくからね。まずは手でやさしく擦ってみなさい。」
私は彼女の手に自分の陰茎を持たせ、手淫を教えた。
「そう…初めはあまり強く擦り過ぎないように、やさしく…。」
陰茎を直視できないまま、手を伸ばして擦り続けていた彼女にもっと陰茎との対話に慣れてもらうべく、今度は彼女の口元に陰茎を押しつけた。
「うっ…ぐっ…。」
目の前に現れた獣のような陰茎に慄いた彼女はすぐには口を開いてくれなかった。
「今度は口で咥えてみなさい。言葉を発する必要はないから、きみにとっては楽な行為だと思うよ。」
恐る恐る口を開き、彼女は私の陰茎をしゃぶり始めた。
「そうだ…。やさしく、ねちっこく…。あっ…いいぞっ、深月くん。陰茎とちゃんと対話できているじゃないか。」
彼女のぎこちない舌使いに私の陰茎はさらに興奮した。
「陰茎ともコミュニケーションをとれるようになったし、そろそろ妊娠する可能性のある行為の訓練に移ろうじゃないか…。」
私は勃起しきった陰茎を彼女の膣の入り口に浅く入れた。
「痛っ、痛いです。教授、やめてください。」
「おやっ、ずいぶん口で話すのも慣れてきたじゃないか。深月くんはちゃんとコミュニケーションをとれるようになったから、もう大丈夫だよ。次は子を作る行為の練習をしないとね…。」
嫌がる彼女をよそに私は陰茎を彼女の膣にずっぽり突き刺した。
「あっ…あっ…。」
処女だった彼女の膣からは少し出血していた。
「今はまだ痛いだけだろうが、慣れればじきに快楽に変わるから。そもそも出産するとなったら、もっと激痛だからね。痛みにも慣れておかないと。」
私はきつい彼女の膣に遠慮なく陰茎の挿入を繰り返した。
「なるべく長くじっくり、訓練に付き合いたいところだが、しまりが良すぎて長くはもたないよ。深月くん…確認するが、きみは本当に妊娠してみたいんだよね?子がほしいんだよね?」
痛みで顔を歪めながらも彼女はこくこく頷いた。
「そうかい…じゃあ私は本気で、深月くんが妊娠できるようにお手伝いするよ。うっ、出るっ…。」
彼女が妊娠できるように私は処女だった彼女の中に思い切り精液を出した。
「はっ…はっ…。」
涙目の彼女は、懸命に私の精液を受け止めていた。彼女の膣からは私の精液が溢れ出た。
 
 彼女の弱みにつけこみ、レイプまがいのことをしたというのに、翌日、彼女は私に手紙を書いて持ってきてくれた。
 
「鬼頭教授
 コミュニケーションをとる練習と、子どもを作る練習に協力してくれてありがとうございます。妊娠したいなら性欲を高める必要があると思い、自慰だけは練習していました。しかし他の行為は全く未経験で、不慣れから恐怖心もありましたが、行為の最中に教授が、言葉ばかりがコミュニケーションを図る術ではないと教えてくれたことは、心に刺さりました。身体で陰茎と対話できたおかげで、性交は言葉を使わなくてもできることと分かったので、コミュ障の私でも妊娠できるかもしれないと希望が持てました。私を救ってくれてありがとうございます。良ければこれからも、コミュニケーションを図る訓練に付き合ってください。できることなら、教授の子を妊娠したいです。  深月鏡子」
 
 相変わらず口からの言葉数は少なめの彼女は、恥ずかしそうに無言でそんな手紙を私に渡してくれた。
「鏡子くん…私の指導を理解してくれてうれしいよ。きみの意志も確認したことだし、今日からは本気で子作りに協力するよ。私もきみに私の子を孕ませたい。」
こうして私たちは合意の上で、毎日のように避妊しない性交を繰り返した。初めは自分の性欲を満たしたいが故に接近したようなものだったけれど、そのうちまだ若かった私は、本気で彼女のことを愛した。独占欲も芽生え、彼女を自分だけのものにしたくなった私は、自分の陰茎でディルドを作り、彼女に渡した。私以外のモノを受け入れてほしくはないと彼女に伝えるために…。彼女の方も、私のことを単なる教授ではなく、異性として好いてくれるようになった。二人で愛し合って、妊活していたというのに、排卵日を狙っても、なかなか妊娠しなかった。
 
 不安を覚えた私は、人工精子を作る研究をしていながら、放置していた自分の精子を調べてみた。すると動きが鈍く、自分が典型的な不妊症ということが分かった。人工精子の生殖能力を抑えるためには、自分の精子を解析し、利用すればいいということに気づき、自分の研究は一歩進んだものの、我が子を望む、愛する彼女との間に子をもうけることはできないと悟った私は、ひとり絶望した。私は生殖能力を研究する身だから、その気になれば健康な彼女の卵子にふさわしい精子をみつけてあげて、自分の手で人工授精させ、彼女の望みを叶えてあげることはできるはずだった。しかし何かが邪魔をしてそれを提案することはできなかった。
 
 私は自分の精子では妊娠させられないことを彼女には隠したまま、彼女との関係を続けていた。彼女の方は私と性交を続けていれば、いつかきっと妊娠できると信じている様子だった。誰より母性が強く、妊娠願望が強い愛しの彼女に自分の精子で子を授けてあげられないことが情けなかった。まだ若い彼女なら私と別れて、他の異性をみつければ、妊娠することなんて容易いことのはずなのに、他の男に彼女を奪われたくない身勝手な私は、彼女が四年生の夏にこんな話をした。
「もし…もしも仮にこのまま鏡子と私の間に子が授からないとしても、何も心配いらないよ。私が今、研究している人工卵子と人工精子から誕生する予定の人工人間(AIの子)を私たちの子にすればいいだけだから…。髪の毛さえあれば、人工人間には私たちの遺伝子も加えることができる。正真正銘の私たちの子がいずれ誕生する日が来るから、鏡子のためにも研究をがんばるから、きみが卒業したら…鏡子、私と結婚してほしい。」
彼女は頷くこともなく、黙って私のプロポーズを聞いていた。
 
 それから間もなく、忽然と彼女は私の前から姿を消してしまった。大学も中退し、完全に行方をくらませてしまった。どんなに探しても、見つからなかった。愛した女性を突然失った私は、人工卵子や人工精子を含めて不妊治療の研究にますます没頭した。そして妊娠させられない自分の非力さと教授という権力を利用して、気に入った女子学生たちに近づき、不特定多数と性交する荒んだ生活を送っていた。鏡子という愛する女性の面影を恋しがって止まない私は、もはやそんな暮らししかできなかった。
 
 そして私の研究が国から認められ、費用も少子化対策として国から捻出され、人工人間の誕生が夢物語ではなく現実味を帯び始めた頃、忘れられない鏡子によく似た女子学生が私の前に現れた。彼女を私のモノにし、生涯彼女を自分の元から離さないと決めた私はさっそく行動に移った。二度と彼女を失いたくない私は念入りに策を企て、慎重に鏡子と同じ名をもつ彼女の元へ忍び寄った…。

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