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フォントには性格と表情がある。
文章に相応しい佇まいのそれを選ぶのが誠実だ。
モンスターの左手 【後編】
摩訶不思議な紋様と、見たこともない文字と出会った。
いつものカフェの、いつもの席で。
ノートパソコンの持ち主もまた、奇妙な印象を撒いていた。
私の視線に気づき、青年は警戒しているように見えた。
重すぎない謝罪と注目の理由を胸に思った。
通じたように感じたのち、どちらからともなく言葉を交わした。
どこが、とはうまく言えないが彼は人の姿を借りた異界の生物のようだった。
しかし、巷の人々や血縁以上に
モンスターの左手 【中編】
何世紀もの間、乾くことも温められることもなかった穴ぐらの壁。
動き始めそうな、記録の絵画。
溢れ出しそうな、記憶の文字。
かつてモンスターだった青年は、胸をなでおろす思いで洞窟に佇む彼女を見ていた。
冷たく湿る内壁に触れる彼女の指先、大き過ぎない色白の。
横顔の目元に宿る知性、静かに開く唇の野生。
ーこのまま圧倒されていたいー
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モンスターの左手【前編】
洞窟の中で、ツノの生えたモンスターは絵を描いていた。
3日にいちどは食糧を取りに外に出ていた。
そこで見た牛を、水鳥を、農耕を湿度の高い壁に、毎日毎日。
いくつもの時代を経て、モンスターのライフスタイルは変わった。
ひと月に1度だけ洞窟に戻り、絵を描いていた。
外で出会う人々を、ビルの森を、スクリーンに映し出されるアートを。
ツノは削り、洋服を着て、言葉を学び、人間のように振る舞った。
舞台の
重なる、滲む、混ざる。 【ショートショート】
あれ?
ここって何があったっけ?
新しい建造物は以前の風景を忘れさせる。
使者はその傍らにすっと立っていた。
降り注ぐ光も、壮麗な音楽もなく。
ひっそりと静かに、ただし厳かに。
ふうっと吹きかける息は雪の結晶を伴う。
外見に似合わない破壊力と熱量。
炎は温度が上がるほど寒色になるというのを思い出す。
建築は崩れ落ち大地は割れる。
拾い上げた欠片をキュッと握るとメロディが流れる。
指を広げるとカラ
amanoiwato 【ショートショート】
38回目の半月の晩、向こう側から響く宴会の賑わい。
岩を打つ音の塊。
空想の能力は逞しい。
こつこつと叩き、訪ねる者。
繰り返しノックする者。
通りすがりに覗こうとする者。
その向こう側の宴、祭り、祝い事。
月の光を受けて踊る人々。
星を煌めかせて見守る神々。
殆ど真実と言ってもいいくらい正確に外の景色を描けるだろう。
39回目の新月の宵、黒い布のような夜のコク深い味わい。
隙間を作る地響きと振