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モンスターの左手 【中編】

何世紀もの間、乾くことも温められることもなかった穴ぐらの壁。
動き始めそうな、記録の絵画。
溢れ出しそうな、記憶の文字。
かつてモンスターだった青年は、胸をなでおろす思いで洞窟に佇む彼女を見ていた。

冷たく湿る内壁に触れる彼女の指先、大き過ぎない色白の。
横顔の目元に宿る知性、静かに開く唇の野生。

  ーこのまま圧倒されていたいー

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1000マイルの遊泳の末、浮上した水面で呼吸をするような開放感。
ユニークな絵画の色味。
目の回るような物語の手触り。
リズムを刻む音楽に彼女は身を委ね、リラックスする青年の視線を受け入れた。

整然とした部屋の静けさに溶け込む、彼の声と弦の音色。
控えめな二重の目尻を濡らす感性、メッセージを吸う両の耳。
 
  ーそのまま圧倒させていたいー


to be continued...

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