HAPPY TORTILLA

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未来からの生まれ変わり。 【ショートショート】

だだっ広い芝生の緑地は空ごと夕闇に包まれて、あたり一帯に夏の虫の鳴き声が響く。 寝転がって星空を見上げていると、話に深みが増すのはなぜだろうね。 たとえばね、 輪廻というものがあると仮定して、生まれ変わるのが未来とは限らない。 学生時代を共にした彼女は母親の生まれ変わりかもしれないし、 こうして話している君はぼくの前世かもしれない。 あんまり現実的じゃないかもしれないけど。 なぜって、同時期に同じ魂は存在できないと思うから。 間違って自分のいる時代に転生してしまったら、出

    • Winter Holiday

      木枯らしのない、冬が訪れた。 澄んだ空気を、ぼんやりとした橙色の夕陽が染める。 現実と名づけた立体の世界。 並走するパラレルワールドの別空間。 姿を消したり、降って湧いてまた行方を眩ましたり。 リアリティに浸かりすぎて、すっかり透明に色づいてしまったね。 粒になって細い細いケーブルを通る。 重厚な木の、古くて分厚い焦茶色の扉を開けて、 カウンターチェアに腰かけて、 シャンメリーを注いだグラスを傾ける。 僕「あと10日で、今年が終わってしまう」 彼「区切りなんて見えないし、来

      • たこ焼きみたいな、 月ひとつ。 #月蝕

        • フォントには性格と表情がある。 文章に相応しい佇まいのそれを選ぶのが誠実だ。

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        未来からの生まれ変わり。 【ショートショート】

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          料理とnoteと、洋風墓地と。

          料理、それは自由の宇宙だ。 味覚を含む創造物のギャラリーだ。 和洋中、沖縄、エスニック、創作。 数々のレストラン、食堂、カフェ、小料理屋、居酒屋、キッチンカー、屋台、我が家のキッチン。 食材のハーモニー、組み合わせのマジック。 写真を撮るとビジュアルは残り、その味は記憶に焼きつく。 とってはおけないライブ感は、どちらかというと音楽に近い。 食べる人と空間と場面を彩るインスタレーションだ。 味もまた形状と、表面の肌触りと、大きさの要素を持ち、似た味覚には共通の質感がある。 ブ

          料理とnoteと、洋風墓地と。

          25.After disasters【マジックリアリズム】

          正方形の新しい部屋に、売らなかった家具や家電を配置する。 半分開け放った窓から、内陸部特有の乾いた風が吹き込む。 3年ぶりの春の匂い。 1DKに置く具材が変わらないから、なかに居ると転居した感じがしない。 静かで、あまりにも静かで、僕はいつよりも世界の果てにいるみたいだ。 この1年のできごとは、 人類にとっては惨事だが、生物学史的にはまた別の見方もあるのかもしれない。 この惑星の歴史の上で、何度も繰り返されているように、 大河の瀬と淵のように、幾度も。 僕のように隣街に越し

          25.After disasters【マジックリアリズム】

          けやき通り

          土曜日の朝食はバタートーストと、オリゴ糖をかけたヨーグルト。 海外産のシトラスジュースを飲み干す。 朝一番、図書館に向かう。 駐車場が混み合う前に。 雑誌のコーナーには20ほどのソファが並び、人々が寛げる空間設計になっている。 最新版にくわえて、バックナンバーの在庫が豊富なのもいい。 インターネットが普及して、という言葉もすでに古くなってきた昨今、 雑誌を含む書籍が売れにくくなっているという。 紙の手触りと、質感を物語とともに味わう至福の時間は失いたくないが、 書架のスペース

          けやき通り

          雷の日曜、きつねうどんの午後

          雷鳴の週末、実直な変化は緩やかに、染み入るように訪れる。 食材が刻まれ、炙られ、盛り付けられる。 異国から届く料理の動画の鮮やかな色彩。 イエネコのように、10畳ほどの空間に満足して過ごす。 ソファの周りを整えて、豆を挽いて淹れる珈琲が香り立つ。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 安らぎと静けさと、ガラスの向こうの淡い水色。 縦横に走る、差し色としての稲妻。 紙の写真をデジタルカメラで撮影したデータで、四半世紀を遡る。 視野のそれの何十分の1、ミクロに切り取られた時代の断片。 手に

          雷の日曜、きつねうどんの午後

          夜明けより、少し前に遡る魚 【ショートショート】

          X: 圧倒的な静けさに置いた身を、そっと起こして朝陽を迎える。 それは一種の、勘違い、夢、映画。 一日を半分ずらして、夕刻のオレンジを浴びる。 Y: B消極的な違和感に閉じた目を、ちょっと開いて響きを観る。 これはある意味、ショー、ステージ、ドラマ。 一曲の半音ずらして、妙なリズムに身体を揺らす。 X: 喧しいフロアの奥の花の壁、佇む人影、実態のない。 鎮静するトーンの瞳、深海のような、高い樹々の森のような、気の遠くなる宇宙のような。 Y: 定位置は境界、陵の冒険から帰

          夜明けより、少し前に遡る魚 【ショートショート】

          モンスターの左手 【後編】

          摩訶不思議な紋様と、見たこともない文字と出会った。 いつものカフェの、いつもの席で。 ノートパソコンの持ち主もまた、奇妙な印象を撒いていた。 私の視線に気づき、青年は警戒しているように見えた。 重すぎない謝罪と注目の理由を胸に思った。 通じたように感じたのち、どちらからともなく言葉を交わした。 どこが、とはうまく言えないが彼は人の姿を借りた異界の生物のようだった。 しかし、巷の人々や血縁以上に近しいものを強く感じた。 きっと、前世で親しい間がらだったに違いない。 彼の描

          モンスターの左手 【後編】

          モンスターの左手 【中編】

          何世紀もの間、乾くことも温められることもなかった穴ぐらの壁。 動き始めそうな、記録の絵画。 溢れ出しそうな、記憶の文字。 かつてモンスターだった青年は、胸をなでおろす思いで洞窟に佇む彼女を見ていた。 冷たく湿る内壁に触れる彼女の指先、大き過ぎない色白の。 横顔の目元に宿る知性、静かに開く唇の野生。   ーこのまま圧倒されていたいー ……………………………………………………………………………………………………… 1000マイルの遊泳の末、浮上した水面で呼吸をするような開

          モンスターの左手 【中編】

          モンスターの左手【前編】

          洞窟の中で、ツノの生えたモンスターは絵を描いていた。 3日にいちどは食糧を取りに外に出ていた。 そこで見た牛を、水鳥を、農耕を湿度の高い壁に、毎日毎日。 いくつもの時代を経て、モンスターのライフスタイルは変わった。 ひと月に1度だけ洞窟に戻り、絵を描いていた。 外で出会う人々を、ビルの森を、スクリーンに映し出されるアートを。 ツノは削り、洋服を着て、言葉を学び、人間のように振る舞った。 舞台の役者のようでもあり、こどものままごとのようでもあった。 描かれる出来事はより複雑

          モンスターの左手【前編】

          重なる、滲む、混ざる。 【ショートショート】

          あれ? ここって何があったっけ? 新しい建造物は以前の風景を忘れさせる。 使者はその傍らにすっと立っていた。 降り注ぐ光も、壮麗な音楽もなく。 ひっそりと静かに、ただし厳かに。 ふうっと吹きかける息は雪の結晶を伴う。 外見に似合わない破壊力と熱量。 炎は温度が上がるほど寒色になるというのを思い出す。 建築は崩れ落ち大地は割れる。 拾い上げた欠片をキュッと握るとメロディが流れる。 指を広げるとカラフルな粒子が舞う。 既存のものが壊されることの清々しさ。 それを大きく上回る再構

          重なる、滲む、混ざる。 【ショートショート】

          amanoiwato 【ショートショート】

          38回目の半月の晩、向こう側から響く宴会の賑わい。 岩を打つ音の塊。 空想の能力は逞しい。 こつこつと叩き、訪ねる者。 繰り返しノックする者。 通りすがりに覗こうとする者。 その向こう側の宴、祭り、祝い事。 月の光を受けて踊る人々。 星を煌めかせて見守る神々。 殆ど真実と言ってもいいくらい正確に外の景色を描けるだろう。 39回目の新月の宵、黒い布のような夜のコク深い味わい。 隙間を作る地響きと振動。 想像を飛び越えて触感が侵入する。 布の穴から溢れる光が星の姿。 ペーパーナ

          amanoiwato 【ショートショート】

          24. 渇望モデル 【マジックリアリズム】

          30年ちかく生きていれば、街ですれ違う人にも電車の同じ車両に乗り合わせた人にも様々な事情や、背負っているものや、複雑な思いや、原始的な欲望があるのだということは理屈だけでなく感覚的にもわかるものだ。 だから、「あの人は何かワケありの感じだね」という表現が使われるとときには「ワケあり」のフォーマットに沿った行動なり身なりなりがあるということなのだと思う。 同じように、「いかにも○○っていう雰囲気だ」とか「〜らしい」も「〜っぽい」もそれをいう人のなかにある物差しやリトマス紙的な測

          24. 渇望モデル 【マジックリアリズム】

          電信サンセット 【ショートショート】

          高架の側に建つオレンジ色のマンションに、男は暮らしている。 絵筆を執り、半切の画紙の上をしゅるしゅると走らせる。 描線はたちまち起き上がり、飛び立つ。 立体的な厚みと熱を持った鳥として。 山脈の向こうの川沿いの一軒家で、少年は生活している。 新時代のヘッドホンを備え、羽音の電波を傍受する。 寝室兼書斎の出窓に、降り立つ。 温かさを残して概念化する鳥。 山の端と空の間に、男は雲を見る。 龍のような形をしたそれが、巻き物を咥えている。 男は大気に手を伸ばし、掌握する。 食すれ

          電信サンセット 【ショートショート】