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amanoiwato 【ショートショート】

38回目の半月の晩、向こう側から響く宴会の賑わい。
岩を打つ音の塊。
空想の能力は逞しい。
こつこつと叩き、訪ねる者。
繰り返しノックする者。
通りすがりに覗こうとする者。
その向こう側の宴、祭り、祝い事。
月の光を受けて踊る人々。
星を煌めかせて見守る神々。
殆ど真実と言ってもいいくらい正確に外の景色を描けるだろう。

39回目の新月の宵、黒い布のような夜のコク深い味わい。
隙間を作る地響きと振動。
想像を飛び越えて触感が侵入する。
布の穴から溢れる光が星の姿。
ペーパーナイフのような夜風。
人の形をした木々と土山。
勢いよく岩を砕き、目を開け、耳を攲てる。
なにかが近づく音がする。
仄かに惑わす香りが届く。
知っている風景、情景、出来事は幻かもしれない。

40回目の満月の深夜、月光を浴びて水飛沫のように散らす。
地響きは持続する。脈打ち、鼓動する。
遠くに見える巨石群。
ドアノブの鍵穴に光る宝の原石。
南中する丸い月がそれを打つ。
瞬きの速度で重厚な岩が崩落する。
粒ごとに異なる宝石のプリズムを発揮する。
揺れ踊りながら結集し、新たな神殿を作る。
鳥が出入りする丸窓がある、猫が行き来する小扉がある。
ステンドグラスから音楽が聴こえる。

yellowなリズム、blueな質感、greenの音色。
メロディの尻尾を掴んだら、そのまま浮遊、上昇する。
orangeの朝陽が見える。
水平線で、clearな夜明けを待ち伏せる。

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