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薄楽俊
2024年7月30日 19:05
昭和エレジー少しづつ距離ができる希望が生まれるたびに そして何かをねがう度にそんなとき おれはよく千樫(ちかし)の歌を口ずさんだ うつし世の はかなしごとに ほれぼれと 遊びしことも 過ぎにけらしも ととるに足らない戯れの過ぎてゆくほどにたまらなく愛おしくなるのはなぜかおれたちの言葉は幾多の未来を紡ぎまるで国産みのようねとおまえは微笑んだおれは初夏
2024年7月26日 00:14
正直に言おうくだらない世の中になったどこかの頭の変な大統領候補が頭の変な若者に銃撃されて耳から血がながれたが、その新聞記事の斜め下にイスラエル軍のガザ地区の空爆で少なくとも71名が殺され、289名が負傷させられたという記事が載る。その3分の1の大きさで。正直に言おうあってはならない世の中になったと。そのイスラエルの頭のおかしい首相はアメリカの議会で堂々と大勢の子どもを含む39000人以
2024年7月7日 20:52
打ち上げられた時計が溶けかけのカマンベールチーズのように記憶のベンチにもたれている なぜかそれは東北の残雪のように哀しげでありなぜかそれは踏み潰されそこなった桜貝のようにさみしげでもあったがそういえば 昨日の朝刊をみていたらおれのいたいけな苦悩が 遠い山の向こうから 法にはいつも何かが欠けていると嗤う声がした嗤い声はなぜか蝉の鳴き声のようで なぜかあらわれわたるせぜのあじろぎと
2024年6月28日 18:37
ロシア産の天然ガスでお湯をわかしウクライナ産の小麦でできたパンを食べ中国製のスカートをはいてアラブ産原油のガソリンで通勤したわ とおまえが不意に言うからいけなかった だから おれはそしてわれわれはアメリカ産の兵器で武装しているなどと口ばしったのだなにか片道切符で旅をしているようだわと夕靄の帰り道でお前は言った川藪のむこうではコンビナートを解体する数機のクレーンが動いている
2024年5月26日 17:37
春の道化師知らないことを知っているといい知っていることを知らないという春の嘘はだからあけぼののパン屋のようないい匂いがするその匂いにつられて自由を分からないひとりの人類は幾千万以上ものものとなってかり出され 英霊という廃棄物となる だから美しい嘘が産道のような地下水道を通り今日も広場で噴きあげているそうやって真実という嘘が嘘という真実になるともうピエロは耐えられな
2024年5月19日 20:41
引き潮過去という現在が今日もぼくの日暮れ待ちの海岸にたくさんの漂流物を打ち上げる墜落した魔女の叔母さんの形見の箒とか三角帽子のピエロの叔父さんが忘れていったブリキの太鼓とか少数民族の裸を撮りまくった元脱走兵の報道記者愛用のニコンのレンズとかテロリストになったシスターが羊小屋に棄てていった真鍮の貞操帯とか何にもおわっちゃいないのにぼくをポストモダン化しようとした真っ赤な
2024年5月4日 17:59
五月のノスタルジー あやめかる安積の沼に風ふけば をちの旅人 袖薫るなり 源俊頼風が万物を薫らせ蒼い静脈の這う近所の少女の乳房が膨らみ出戻りの姉の白い太腿はむき出しで縁側に投げ出され売春宿のぼくの恋人のお腹の産毛が陽炎のようにゆれるそんな五月の白昼に不如帰が鳴き出すと工事現場では必ず神隠しが起こり少女の腋臭のような沼の匂いが山から下りてきて夕暮の雨は予想
2024年4月20日 22:04
かなしみのアリバイ かなしみはそれっきりだった西日はどこまでも赤かったような気がする葉が揺れて夏なのに散って人の命の尽きた日にラムネ飲んでおれは風の中にでた愛すべきしがらみはプラカードでこしらえた棺と一緒に燃え野辺のけむりとなって消えていったあの連山の端はうつむいて笑うお前の横顔のようだああ やっぱり 西日はあの端山の向こう側まで赤く沈んでいたのだった野あやめを焙煎
2024年4月2日 18:37
蛇あなたは左なの?そうだな、少なくとも君よりはねじゃあ、そのまま左へすすんじゃったらどうなるの?そうだな、ぐるっとまわって右になるじゃあ、まっすぐすすんだらいいんじゃないだめさ、まっすぐ進めば・・・山あり谷あり そして 海または 崖 ないしは 壁 だなじゃあ、抜け道をくねくねよじれながらいくってのはどうかしらなんか君みたいだな神様にまた叱られるかなああ、人間に裸の羞恥
2024年3月21日 00:02
後朝のうた春はあけぼの山ぎわに目覚めた泡立つ光にふたりのときは美しくこわれ薄もやのたえだえにしずかに身を横たえるせぜのあじろぎ水おとはさやけくほそくまだ草むらに這うものの雲はすでに峰をはなれてたなびき 人の袖の涙もそのようにまたうつろいゆくものかしのぶもじずりわれならなくにまた巡り逢う日をおもいゆっくりと剥がれたときの表皮を抱くのみのわたくしなのです #詩 #現代
2024年3月16日 19:17
猫の噂 春雨のふるは涙かさくら花 ちるを をしまぬ人しなければ 黒主細い路地に入ってたぶんふと気を許したのかもしれないその猫は笑ったのであるちょうどそこに廃棄されたカーブミラーが放置されていたのがいけなかったどうもその猫は当局に拉致されたみたいだその前夜は春雨だったある子供が猫に踊りを教えていたという密告もあったようだ
2024年3月13日 23:55
春のわかれあの日 とぼとぼと歩いた その足跡を波がさらっていった 浜辺でもないのに ぼくは あのとき 泣いていた のかも しれなかったただ 立ち去っていく背中だけがみえた あれは なんだったのか 女といえばきこえはいいが そうだ あの波は 街の白昼の断崖まで ぼくらがわずかになった春をむしり取るように無言で働いた あのビルの解体現場まで たぶん 達してい
2024年3月10日 01:07
薔薇のはなしばらばらになったものをひろいあつめたってジグソーパズルのようにはつながるわけではない 夜と朝もめったにないたまたまでつながっているようにみえてるだけだ空き瓶に挿した薔薇がまだあるという奇蹟曇り窓に朝のひかりがとどまり、ヘアピンが部屋の隅に咲いているハンガーにはワンピースが生乾きのままぶらさがりシンクの皿に残る薄切りのレモンと青白いシーツが昨夜の雨をよみがえ
2024年3月7日 19:44
ミモザの頃用心しなければならない 今日が無事なのは 川面がひかりをはじき鳥の声がきらめいているからなのだ 朝からのこの道には ささやかな三月の平穏がながれ 午後のいつもの公園につづいている そこには昨夜の褥の春雷はなく ミモザの匂いの記憶があの噴水にたちあがるやわらかなはるのうれいああ 喪われている現在 恋は剪り時がむずかしいのだ #詩 #現代詩 #自由詩 #