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【詩】昭和エレジー

 

 昭和エレジー


少しづつ距離ができる
希望が生まれるたびに そして何かをねがう度に

そんなとき おれはよく千樫(ちかし)の歌を口ずさんだ

うつし世の はかなしごとに ほれぼれと
   遊びしことも 過ぎにけらしも と

とるに足らない戯れの
過ぎてゆくほどに
たまらなく愛おしくなるのは
なぜか

おれたちの言葉は幾多の未来を紡ぎ
まるで国産みのようねとおまえは微笑んだ
おれは初夏に横たわる丘陵のような
おまえのなだらかな腹を川風のように撫でた

夢はささやかな食器と家電にかわり
言葉は単なる伝言ツールとなりはて
おれたちは労働者の消えた鉄の街の払い下げアパートで
今年もしらけた夏をむかえる

わたしの羽を切ればいいのにとおまえは
欲情しなくなったおれに
痩せた背中を見せる
おれはかつての可憐な白い翼を思い出し
キーボードをたたくだけの貧弱な指でおまえの
年老いた少女のような肩胛骨を撫でる

うつし世の はかなしごとも 過ぎにけらしも と
心でつぶやきながら

そうだ 明日は
この錆びついた鉄の街のファミレスで
お得なランチを食ったあと
仲良く
二人の葬式を出しに行こう

語りあえば夢は美しい翼となって明日を彩った
とおまえは言うだろうが

  ※千樫・・・古泉千樫(明治26年―昭和2年)アララギ派の歌人。

                2022年11月投稿の「挽歌」の改作


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