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【詩】記憶の固執

記憶の固執


打ち上げられた時計が
溶けかけのカマンベールチーズのように
記憶のベンチにもたれている 
なぜかそれは東北の残雪のように哀しげであり
なぜかそれは踏み潰されそこなった桜貝のようにさみしげでもあったが

そういえば 昨日の朝刊をみていたら
おれのいたいけな苦悩が 遠い山の向こうから 
法にはいつも何かが欠けていると嗤う声がした
嗤い声はなぜか蝉の鳴き声のようで なぜか
あらわれわたるせぜのあじろぎときこえてくるんだった

ふりかえると 真夜中のシーツには
鏡に映ったおまえの断片がなぜか
アイリスの舌のように寝そべっている

ピアノのしたで腹を抱えて嗤っているモーツアルトはもういない
酷暑の駅前で反戦のビラをおれの胸に花束のように
渡してくれたおまえももういない
二種類の温度しかない自動販売機に命じられた判事が
このさきもずっと沈黙を嘘に変えていく審判を下し
おれたちを世界から脱落させるだろう
そして月曜日には 「私」という蝶番をはずしたものたちが
隷属の嬌態に満ちた摩天楼の虚階に登るだろう

そして 明日のおれは
おまえの喪服でつくったカーテンを開け
百年樹木伐採後の朝日のふりそそぐ通りを
少女の制服をきて颯爽とあるくだろう
おれたち正直者ユダの集う広場に向かって
たとえそこが 無数のおまえたちのつけた青痣の記憶のいくつかが
今はなき木の枝にひかっかっているだけであろうとも


#詩 #現代詩 #自由詩 #詩のようなもの #アイリス #サルバドール・ダリ
#記憶の固執 #都知事選

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