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介護業界の関係者は必読の書です

大仰なタイトルにしてしまいましたが、それくらいためになる話が満載でした。

丹野智文さんによる「認知症の私から見える社会」。

39歳の若さにして認知症を発症し、以来、仕事をしながら認知症当事者への正しい理解をしてもらうために全国を飛び回り講演をされています。

丹野さんのことを初めて知ったのは、「ガイアの夜明け」というドキュメンタリー番組で「それでも働き続けたい 認知症と仕事 両立できる新時代」というテーマの回を観た時です。

たまたまこの回に、若年性認知症を発症した奥様を20年以上介護されてきた会社の部下のお父様が、家族としての向き合い方の実例として選ばれており、その際にもう一人の主役として認知症当事者の日常の実例で丹野さんが選ばれていました。

発症から8年、そして放映から6年経過していますが、今も働いていらっしゃいますし、この本の中でも素晴らしいメッセージを発信されています。

以下、ざっくりとまとめてみました。

・ 「認知症らしさ」をひとくくりにして求めてくる周囲の人たちによって、自分で自由に決められる決定権を奪われて、本来ならば工夫して生きられるはずの自立生活の道が絶たれる

・ 家族は行動を奪う - 「この人はなにもできないから」という無理解と、無理解からくる悪気のない抑圧的な配慮が、認知症当事者の自己決定やそこからの行動や、ひいては人格や人生を奪ってしまう

・ 実施しているケアが「正解」か「間違い」かではなく、関わっている目の前の認知症当事者が「幸せを感じているかどうか」を振り返って欲しい

・ 素晴らしいサポートとは、「認知症当事者の話」を丁寧に聴き、当事者の想いを一緒に実現してくれること - 家族に話は訊くが、当事者には訊かないのはなぜか

・ 怒るようになったのは認知症だからではない - 周囲の人たちの「人でなし」な配慮のない扱いに傷つけられる、本人の前で第三者に「できないこと」や「ダメなこと」を話されるのは、当事者にとっては「悪口」でしかない

・ すべては「心配だから」という善意で正当化され自由が奪われる - 優しさが自由を奪う

・ 困っていても先回りせずに「自分で決めること」がより良く生きることである

・ 本当の困りごととは - 善意による「ダメ」「禁止事項」、家族との関係性や頼りにできる先が他にないことを考えると、思い通りにならなくても我慢している状況、その状況そのものが一番のストレス要因となっている

・ ストレス - 「自分自身に対してのもの」と行動の制限や監視など「外部からのもの」、これらは混乱・不安・恐怖と言った感情を呼び起こし身体機能へのマイナス影響や集中力・記憶力・やる気の低下を引き起こす

・ 徘徊や自殺は「ストレスからの逃亡」 - 自分も周囲も症状をいかに受け入れ工夫するかでストレスのかかる環境は改善できる

・ 自立生活 - 自分で決められる自由があれば元気でいられる、人格を認められることがストレスを与えない環境でもある、認知症当事者・家族お互い困っている時は「助けて」と言い合える関係性が理想

・ 当事者をあきらめさせない - なぜ当事者が目の前にいるのに家族との挨拶や会話を優先するのか(無視しない、挨拶や説明は通常であれば本人へするのが先なはず)

・ 決定権を奪わない - 先回りしない、クローズドな質問(はい・いいえ)にしない、「これからやりたいこと」や「生活で工夫すること」に焦点を当てる、欲しい声かけは「大丈夫?」ではなく「大丈夫!!」

・ 工夫することは生きること - 待つこと、できることは自分でしてもらう、一緒に工夫することを考える、認知症当事者が「できることを増やす」こと、「できることを減らさない」こと

・ あきらめからの解放 - 理解者(家族・支援者)と場(同じ仲間、情報共有)への参加

・ 家族の歴史は関係ない - もともと主従関係であったわけではないし、抑圧的行動はおかしい、共依存状態は認知症ではなく環境によって作り出された別の症状

・ 主体は認知症当事者 - 支援者がどれだけ周囲の人たちに正しい情報を与えることができるか、「これから何をしていきたいか」当事者自身の想いや希望に見合った支援者を探すことからスタートする

・ 「できること」「できないこと」「やりたいこと」を周囲の人にオープンにする - どう接すればよいのか周囲の人たちも戸惑っているため共有しておく

認知症になってしまった時に、最初に変化してしまう環境というのは一番近くにいる家族の反応からということですよね。

丹野さんご自身が自立した日常生活を送ることに際して、「心配はしているけど、信用しているよ」という奥様の言葉がとても素敵で印象に残りました。

興味を持たれた方、近しい人が認知症になられた方などは是非本書を手にとってみてください。

今日も読んでくださいまして、ありがとうございます。

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