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任せてみないと覚えない

以前のコラムで触れてきた、いかにしてセンスを磨くかということに近いお話になります。

行きつけの居酒屋があるのですが、以前は大将がひとりで切り回していたところ、この大将の優しさからだと思うのですが、コロナ禍の中で無職になっていた以前一緒に働いていた仲間を新たな従業員として雇いました。

もともとひとりで切り回せるくらいですから、カウンター8席と4人掛けの畳部屋のこじんまりしたお店なのですが、ここが二人体制になりました。

二人の人柄も柔和な感じですし、関係性は決して悪くないので居心地はとても良いのですが、この従業員、正直あまり気がつく方ではありません。

奥の畳部屋からのオーダーで品目が3つを超えたりすると、注文を1つばかり抜かしてしまいます。

カウンターに座っている私の方が覚えていたりするので、「〇〇もオーダー入っているよ」と教えたり、かえって遠くにいる大将の方がしっかりと承っていたりすることもしばしば。

常連客との会話は楽しくしているのですが、おしゃべりをしている間は、肝心の手が止まってしまい、全体が見えていないので反対側のカウンター客からの声かけへの対応がおろそかになります。

新規の客がカウンターに座ろうとしている際に、同じカウンターの先客がオーダーすると、そちらのドリンクを先に作り始めてしまいます。

いやいや、そこはご新規の方におしぼり出してファーストドリンクのオーダー訊いて、それを入れる方が先なんじゃないかなと素人ながら思って見ていると、案の定大将に同じことを指摘されていたりします。

先日、件の従業員は有給ということで久しぶりに大将がひとりに戻って営業している日があったのですが、大将との話題はお休み中の彼のことについて。

物事の優先順位などを含めて、何度も言っているのだけれども本当に覚えないんだよな、と苦笑いをしながらボヤく大将。

多分、言われた時にはその都度言われたとおりに動くのですが、「どうしてそうしないといけないのか」という物事の本質というか、「なんのために」その行動を優先しないといけないかという説明がもっと必要で、本当の意味で腹落ちできていないから、毎回同じことを繰り返すのだと思います。

こんなことを大将に伝えましたが、カウンターの中で客を目の前にしてその辺りのことを直ぐに伝えられないのが、客商売のもどかしいところですよね。

おそらく、この店の常連客たちであれば、そんなやり取りが目の前であったとしても温かく見守りつつ、更に色々と言い募ることも可能だとは思います。

何なら、一旦彼ひとりに店を任せる日を作ってみて、気づかない点については我々客の方から指摘しちゃった方が早いかもね、なんて話をしていました。

よく気づく大将が隣にいて、気づかない従業員の教育よりもお客様への気遣いを当然のように優先させていったら、結局のところ一番早いのは自分で動いてしまうことです。

ただ、そうすることで彼の経験値はどんどん奪われてしまうのですよね。

センスを磨くには沢山経験すること。

言い換えれば、沢山失敗すること。

そして、最も大切なことは、その経験や失敗をすること自体が重要なのではなくて、それらにどう向き合っていくかという点。

まあ言いたいのは、当の従業員が何も知らずに暢気に休んでいる間に、大将と常連客が彼をどう成長させるかを語っているなんて、とてもいいお店ですね、というお話でした(笑)

今日も読んでくださいまして、ありがとうございます。

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