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いろいろ色(短編小説集)

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色をテーマにした短編小説、集めました。
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#短編小説

誠実な黒ユリ(短編小説)

誠実な黒ユリ(短編小説)

白いユリの花、マドンナリリーは"純潔"の象徴。
それはあなたに対する私の想いにピッタリだった。

いつかあなたに贈った白いユリの花。
私の名前にちなんだその花を渡して、私だと思って大事にしてね。なんて少し痛々しかったかもしれない。

花のプレゼントって普通は逆だろ。あなたは照れ笑いながらも嬉しそうに受け取ってくれた。
やはりマドンナリリーに比べるとまだまだ不完全なのだろう私は、花瓶を用意していなか

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赤い傘(短編小説)

赤い傘(短編小説)

雨の日が好きだった。
それは初め、僕の意思ではないものだった。

虹がかかるから。
雨上がりの澄んだ空気が好きだから。

よく聞くのはそんな理由だ。
僕はいつも異議を唱える。

それは本当に雨が好きだと言えるのだろうか。
虹。雨上がりの澄んだ空気。
それは雨そのものを楽しんでいるものではなく、雨のあとのそれを楽しみにしているだけだ。
その考え方の時点で君達は雨をマイナスに捉えているのではないだろう

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刺青(短編小説)

刺青(短編小説)

全身に受ける狂いそうな刺激に、あなたの甘い吐息に、混ざり合う汗に夢中になっていた。
そのせいで気付けなかったんだ。

あなたとのキスは、私の舌が溶けて無くなってしまうのではないかというくらいの熱さで、だけど無くなってもいいとも思った。

その愛情は真っ直ぐで私をどこまで追い込めばいいのかと焦るくらいだ。
私も応えたい。応えなければいけないと、激しく身体をぶつける。
最早戦闘といっても過言ではない。

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黄色いクレヨン(短編小説)

黄色いクレヨン(短編小説)

 私は黄色いクレヨンを持った。
 クレヨンたちのお部屋の中でイチバン背の高い色を持って、力いっぱい画用紙に黄色を擦り付けた。
 だってイチバン可哀想だったから。

 お絵かきの時間。
「心に残ったものを描きましょう。お休みの日に行ったところでも、いつも幼稚園でやっていることでもいいです。そのときみんながどんな気持ちになったか考えながら描いてみましょう」
 先生はそう言うとみんなは、何を描こうかと横

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白いパンの真実(短編小説)

白いパンの真実(短編小説)

「アンパンと食パンとカレーパン。1番人の話をよく聞くのはなーんだ?」

今日は雨で、外出は面倒だからおうちデートがいいと言ってきたのは彼女の方なのに、飽きた。などと抜かし出した。

それならナゾナゾでもする? そう提案してナゾナゾのアプリをインストールしたその1問目。

そこで彼女は早々に躓いた。

「パンは人の言葉理解しないよ」
「ナゾナゾだーっつてんやん」

負けず嫌いな彼女は、そうやって問題

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白い箱の中で(短編小説)

白い箱の中で(短編小説)

 目を覚ましたとき、俺は無機質な白い天井を仰いでいた。
 いや、天井どころではない。意識がはっきりとしてきて辺りを見渡してみれば、上下左右全てが白い壁で覆われていた。

 床も壁も天井も全て正方形。一体何なんだここは。どうして俺は、ここに。

 それは突然だった。
 状況がまだ整理できていないというのに、壁の一辺がゴゴゴと音を立て始めた。壁が迫り上がっていく。

 それは恐怖とともに多少の安堵感も

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逆に緑(短編小説)

逆に緑(短編小説)

「みぉりー。みぉりー」

言葉を覚えたての凌也は、「パパ、ママ」よりもまず"色"の名称を次々と指差して連呼しだした。

これは? と消防車のミニカーを差し出してみせると「あかー」と言う。「消防車」はまだ覚えていない。
「リョウヤくんの食べてるそれは?」と訊くと「むらーきー」と答える。「ブドウ」はまだ覚えていない。

しかし、それにしても"色"に関してだけいえばしっかりと識別し、名称もマスターしてい

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愛の証は紫色(短編小説)

愛の証は紫色(短編小説)

「リン、どうしたの? それ」

リンの首元にある複数の赤い跡を示して、私は答えを解っていながらニヤニヤと笑いながら訊いた。

「新しい彼がね。情熱的なの」

語尾にハートが付くような彼女の口ぶりに私は、ウザあい。と返した。

まだ付き合いだして1週間ちょっとくらいだというのに、彼氏は毎晩求めてくるのだと言う。いや、付き合いたてだからこそだろうか。

やはり同棲という形がそうさせるのだろうか。リンは

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金色の漫画の教訓(短編小説)

金色の漫画の教訓(短編小説)

懐かしい漫画を読んだ。
魔界の王を決めるために100体の魔物の子どもが戦い合うバトルファンタジーもの。

主人公はどんどん強い敵と対峙していくも、その諦めない心と背負った仲間たちの想いのために立ち向かう。

終盤15巻あたりで、これまでどこに身を潜めてたのかというくらいの最強の敵と対峙した。

敵は全てを無に帰す消滅の力。

しかしその力の強大さが故に自我を失い、意思を持った"力"に身体を乗っ取ら

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