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杜崎まさかず【掌編刑務所】
2023年9月9日 14:12
どこまでお話ししましたかな。 ああ、そうそう、家内の話だ。よく出来た家内でしてねえ。二十歳も離れているのに、落ち着いた気品があって。私がまだ現役でパイロットをしていた時なんかは、「今日は夜間飛行だから帰宅は深夜になるよ」と伝えて家を出ても、帰れば必ず飯と風呂を用意して「お帰りなさい」と迎えてくれました。たばこを出せば横からスッと火をくれて、私のつまらない世間話に黙って頷いてくれる。たまに酒に酔
2024年1月28日 08:05
目前を快速電車が線路を蹴るような乱暴な音を立てて通り過ぎていく。 この荒々しさにして、快速、などという涼し気でスタイリッシュな単語は図に乗っていると思わざるを得ない。速、はまだいい。快、はない。音だけなら暴走列車と聞き違えるほどの武骨なけたたましさでありながら、自分を快いと名乗るのは買い被りすぎだろう。 そうだ。何よりも、この線路を向こう側でせっせと生きるホームレスたちを軽蔑している。 全
2024年2月4日 12:09
【一】 全てのものには、意思が宿っている。父の教えだ。 生まれたらからには皆幸せになりたいのだから、皆の幸せを願いなさい。これは母の教え。 要するに、両親の考えを合わせたら「この世のもの全ての幸せを願え」ということだ。 人間にも、犬にも、猫にも、木にも、土にも、風にも、意思があってそのどれもが幸せになりたがっているという。 だったら、この寒風は何を想って、僕の冷や汗を引っ掻くように吹き