伏見同然

毎週金曜あたりにはなにかしら書きたいです。

伏見同然

毎週金曜あたりにはなにかしら書きたいです。

記事一覧

部長はふわりと

 ランチから戻ると、部長が宙に浮いていた。  フロアには新入社員の小杉くんと私と、天井に引っかかって照れくさそうにもぞもぞ動いてる部長しかいない。 「ああ、角田さ…

伏見同然
1日前
1

お前みたいなもんが

お前は毎日、 頭の中であいつを言い負かしていて、 頭の中で尊敬を集める仕事をしていて、 頭の中にだけ平穏な生活がある。 お前は毎晩、 なんであんなこと言ったんだろう…

伏見同然
8日前

驚くかもしれませんが

断言します。 隠しておこうとも思ったのですが、永久保存版です。 何回も言いますが、一度しか言いません。 あんまり言いたくないけど、炎上覚悟で書きます。 ごめんな…

伏見同然
2週間前

説明

仕事がわからない部下に 丁寧に手順を説明をした わかりましたと彼は言う 携帯がわからない母に 簡潔に技術を説明をした わかったよと母は言う 宿題がわからない娘に 熱…

伏見同然
3週間前
2

絶たない放課後

 私が小学生のときに住んでいた町は、朝日は朝に見えないし、夕日になる前に太陽は隠れてしまった。四方を山に囲まれていたから。 なんだかいつも薄暗くて、昼を過ぎると…

伏見同然
4週間前
2

なれるものなら

 最初、お母さんが板チョコになった。 「本当に困ったら、私をちょっとずつ口に入れるのよ」そう言いながら、お母さんは銀紙に包まれていった。  それを見ていた大学生の…

伏見同然
1か月前
1

いつも近くで

今この瞬間、世界で一番彼女の近くにいるのは僕だ。 「大嫌い。ムリ」 そう言われた瞬間、僕と彼女の距離は世界で一番遠のいた。 僕たちがいる駅前広場には多くの人が行き…

伏見同然
1か月前

ハラハラ☆ハラスメント

こんにちは! わたし、みんなが楽しくハッピーに暮らせるように世界を守っている少女戦士。 敵の〈ハラスメント〉たちを退治するために毎日大忙し! これまでに倒してきた…

伏見同然
1か月前
2

とりあえずの箱

 うちのクローゼットには、とりあえずの箱と呼んでいる箱がある。  片付け術のサイトなんかには定番で出てくるものなのだけど、どこにも置くところはないけど捨てられな…

伏見同然
1か月前
1

別に書かなきゃいけないわけでもないし、誰に怒られることもないし、酒でも呑んでる方が幸せなんだけど、やらないと気持ち悪いん…

伏見同然
2か月前
2

こういう人間

「わたしは、こういう人間だから」  彼女は、背筋をぴんと伸ばして、目を見開いて叫んだ。「こういう」と言うときに両手を広げている様子は、まるで子どもが抱っこをせが…

伏見同然
2か月前
1

明日の天気は

 テキストの集合体が作り上げた、先進的で理想的な世界は、デジタルデータのようにはキレイに整わず、エラーが起きまくる現実世界の人間を、極限まで生きづらくした。  …

伏見同然
2か月前

八話の彼と

 三話目くらいから、なんか変だなって思ってはいたんだけど、六話で確信に変わった。わたし、主役じゃないみたい。かといって、モブキャラでもなくて、いわゆるヒロインの…

伏見同然
2か月前

世界を救うか、松屋を食うか。

 人生最大の選択だ。私は今、松屋の目の前にいる。大きな選択とは、牛めしにサラダを付けるか、さらには生卵か半熟卵も付けるかということではない。この状況で松屋に入る…

伏見同然
3か月前
2

はなさない

はなさない娘  ほんっと意味わかんない! もう知らないよ。どうしてあんなに怒られなきゃいけないの? 家の中だけでしか威張れないってママも言ってたよ。あれもダメこ…

伏見同然
3か月前
3

彼女がトイレを終えるまで

 金曜の夜が始まりかけた空気で満たされた店内は、ほどよく高揚感が漂っていて、初めてのデートにはちょうど良かった。彼女が席を立ってトイレに向かうと、秀平はスマホを…

伏見同然
3か月前
2
部長はふわりと

部長はふわりと

 ランチから戻ると、部長が宙に浮いていた。
 フロアには新入社員の小杉くんと私と、天井に引っかかって照れくさそうにもぞもぞ動いてる部長しかいない。
「ああ、角田さん。なんか急に部長浮いちゃって、こういう時どうするか聞いていなくて」小杉くんがいつも以上に潤ませた黒目で近づいてくる。犬か。かわいい犬か。
「えっと……私も噂で聞いてた程度だから、どうしよう……」
 この会社に来てから4年目になるけど、実

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お前みたいなもんが

お前みたいなもんが

お前は毎日、
頭の中であいつを言い負かしていて、
頭の中で尊敬を集める仕事をしていて、
頭の中にだけ平穏な生活がある。

お前は毎晩、
なんであんなこと言ったんだろうと悶えて、
なんであれを言えなかったのかと落ち込んで、
なんで言わなきゃいけないんだと怒ってる。

お前は明日も、
もっとできたはずだと反省して、
もっとやらなきゃと奮い立って、
もっと何かないのかと足りないものを探し始める。

まっ

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驚くかもしれませんが

驚くかもしれませんが

断言します。

隠しておこうとも思ったのですが、永久保存版です。

何回も言いますが、一度しか言いません。

あんまり言いたくないけど、炎上覚悟で書きます。

ごめんなさい。本質言います。

多くの人が勘違いしているんですが、知らないだけで損してることは多い。

これだけは覚えておいてください。

絶対に忘れないでほしい。

これから大切なこと言います。

ハーバード大学によると、ハーバードとは人

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説明

説明

仕事がわからない部下に
丁寧に手順を説明をした
わかりましたと彼は言う

携帯がわからない母に
簡潔に技術を説明をした
わかったよと母は言う

宿題がわからない娘に
熱心に学習を説明をした
わかったと娘は言う

自分がわからない妻に
詳細に人生を説明をした
わかったわと妻は言う

妻の居場所がわからない私は
慎重に状況を説明をした
わかりましたと警察は言う

絶たない放課後

絶たない放課後

 私が小学生のときに住んでいた町は、朝日は朝に見えないし、夕日になる前に太陽は隠れてしまった。四方を山に囲まれていたから。
なんだかいつも薄暗くて、昼を過ぎるとそこはもう夜の入口のような雰囲気の町だった。
 全校生徒を合わせても100人もいない小さな小学校には新校舎と旧校舎のふたつがあった。
基本的には教室のある新校舎で1日を過ごすのだけれど、音楽室と図工室と家庭科室を使う時だけ旧校舎を使う。
 

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なれるものなら

なれるものなら

 最初、お母さんが板チョコになった。
「本当に困ったら、私をちょっとずつ口に入れるのよ」そう言いながら、お母さんは銀紙に包まれていった。
 それを見ていた大学生の弟は「僕はもっと身近で人を喜ばせるんだ」なんて張り切っていて、数週間後に見たときには結局AirPodsになっていた。
 チョコレートのお母さんは、そんな弟を見て「後悔のないようにね」と言った。それはもう口癖になっていて、小さいときから何度

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いつも近くで

いつも近くで

今この瞬間、世界で一番彼女の近くにいるのは僕だ。

「大嫌い。ムリ」
そう言われた瞬間、僕と彼女の距離は世界で一番遠のいた。
僕たちがいる駅前広場には多くの人が行き交っていて、今彼女の横を通り過ぎた知らない女性のほうが、僕より彼女に近い存在なのかもしれない。それでも、物理的な距離が彼女と一番近いのは、この宇宙で僕だけだ。

彼女はスマホで誰かとメッセージをしている。
その誰かは、ここにはいないけど

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ハラハラ☆ハラスメント

ハラハラ☆ハラスメント

こんにちは!
わたし、みんなが楽しくハッピーに暮らせるように世界を守っている少女戦士。
敵の〈ハラスメント〉たちを退治するために毎日大忙し!

これまでに倒してきたのは、セクハラ、パワハラ、モラハラ、アルハラ、カスハラなんてのがいたなあ。次から次にハラスメントが出てきて、も〜大変!

今回相談をしてきてくれたのは、20代の男性会社員の生田さん(仮)。
職場の同僚が、普通に暮らして普通に仕事をしてる

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とりあえずの箱

とりあえずの箱

 うちのクローゼットには、とりあえずの箱と呼んでいる箱がある。

 片付け術のサイトなんかには定番で出てくるものなのだけど、どこにも置くところはないけど捨てられないものをいったんダンボールに入れておいて、一定期間使わなかったら思い切って捨ててしまいましょうという、ずぼらな僕にもすぐできそうな方法だ。とりあえずボックスなんて紹介されていたんだけど、うちのボックスは案の定すぐいっぱいになって、それでも

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こういう人間

こういう人間

「わたしは、こういう人間だから」
 彼女は、背筋をぴんと伸ばして、目を見開いて叫んだ。「こういう」と言うときに両手を広げている様子は、まるで子どもが抱っこをせがむときのようで、つい抱きかかえたくなる。しかし、3歳の娘の母である彼女を抱っこする理由はない。

 こういう人間と言われて「どんな人間?」なんて野暮な返しはしない。そう、彼女はそういう人間だから。自分の欲求に素直で、自分の欲望が最優先で、体

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明日の天気は

明日の天気は

 テキストの集合体が作り上げた、先進的で理想的な世界は、デジタルデータのようにはキレイに整わず、エラーが起きまくる現実世界の人間を、極限まで生きづらくした。
 その世界は、被害者をできるだけ生まないように、自分が被害者にならないようにするために機能したが、最大の欠陥は、誰もがうっすら加害者であることだった。
 堅くて、狭くて、息苦しい。多くの人がそう思い始めると、過去の記憶を辿り始める。良かった瞬

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八話の彼と

八話の彼と

 三話目くらいから、なんか変だなって思ってはいたんだけど、六話で確信に変わった。わたし、主役じゃないみたい。かといって、モブキャラでもなくて、いわゆるヒロインの恋敵って役割ってかんじ。

 最初は、主役の彼とヒロインが出会う瞬間を見かけちゃったんだけど、なんか、そのときだけ時間がゆっくり進んでる感じになって、世界全体がちょっと明るくなってた。で、ほんと今考えればよくわかんないんだけど、すごいそれに

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世界を救うか、松屋を食うか。

世界を救うか、松屋を食うか。

 人生最大の選択だ。私は今、松屋の目の前にいる。大きな選択とは、牛めしにサラダを付けるか、さらには生卵か半熟卵も付けるかということではない。この状況で松屋に入るべきかどうかだ。
 状況を説明するためには、話しを20年前に戻す必要があるが、あまり長話をしている時間はなさそうなので、できるだけ簡潔にまとめる。定職につかず、バイトをしながらその日暮らしをしていた23歳の私は、ある女性に出会い一目惚れをす

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はなさない

はなさない

はなさない娘

 ほんっと意味わかんない! もう知らないよ。どうしてあんなに怒られなきゃいけないの? 家の中だけでしか威張れないってママも言ってたよ。あれもダメこれもダメって、つまんないつまんないつまんない。はなちゃんちのパパみたいにやさしいパパがよかったな。めぐちゃんちのパパみたいに、お店を持ってるパパがよかったな。わたしのことなんか、なんにもかんがえてないんだ、きっと。ママみたいに、もう口きい

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彼女がトイレを終えるまで

彼女がトイレを終えるまで

 金曜の夜が始まりかけた空気で満たされた店内は、ほどよく高揚感が漂っていて、初めてのデートにはちょうど良かった。彼女が席を立ってトイレに向かうと、秀平はスマホを取り出す。口元に、ついさっきまでの笑みが残っている。画面に表示されたのは、20:58の文字。シャンパンを一杯、赤ワインを二杯飲んだ頭は、いつもより妄想が加速している気がする。十九時集合で待ち合わせたイタリアンの店は、秀平が予約した。ふたりと

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