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明日の天気は

 テキストの集合体が作り上げた、先進的で理想的な世界は、デジタルデータのようにはキレイに整わず、エラーが起きまくる現実世界の人間を、極限まで生きづらくした。
 その世界は、被害者をできるだけ生まないように、自分が被害者にならないようにするために機能したが、最大の欠陥は、誰もがうっすら加害者であることだった。
 堅くて、狭くて、息苦しい。多くの人がそう思い始めると、過去の記憶を辿り始める。良かった瞬間の思い出だけをなぞっては、あの頃のようになろうと訴え始める。
 さて、それでは、一気に過去のように世界を変えたらどうだろう。おそらく世界は混乱を極めるだろう。一度書き換わった価値観と身体感覚はもう元には戻らない――

「ちょっと、なんのこと書いてるかわかんないんだけど」彼女は、僕のnoteの下書きを覗いて言った。
「いや、これはさ、昔は良かったみたいな風潮がたまに出てくるけど、ほんとにそうなのかっていうかんじのさ」と僕はとっさに野暮な説明をしてしまう。
「じゃあ、そう書けばいいじゃん」彼女はあっけらかんと言う。
「いや、それじゃあ薄っぺらい…」
 そう言いかけて僕は下書きを消した。彼女は明日の天気を見ている。

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