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彼女がトイレを終えるまで

 金曜の夜が始まりかけた空気で満たされた店内は、ほどよく高揚感が漂っていて、初めてのデートにはちょうど良かった。彼女が席を立ってトイレに向かうと、秀平はスマホを取り出す。口元に、ついさっきまでの笑みが残っている。画面に表示されたのは、20:58の文字。シャンパンを一杯、赤ワインを二杯飲んだ頭は、いつもより妄想が加速している気がする。十九時集合で待ち合わせたイタリアンの店は、秀平が予約した。ふたりとも社会人一年目だ。奢りでも割り勘でも彼女に気を遣わせない値段設定の店で、料理も雰囲気も良く当たりだった。彼女も終始機嫌が良かったが、デザートのシャーベットが品切れで、微妙な空気が流れてしまい「ちょっと、お手洗い」と言って立ち上がったのが一分程前だ。

 秀平は、20:59に変わったスマホの画面越しに、空になったワイングラスを見ながら考えた。彼女が戻ったら、もう一杯頼むか、お店を変えるか、それともこのまま帰るのが紳士的か。もう一杯以外であれば、今ここで会計しておくのがスマートだろう。しかし、彼女がこの店にまだいたかったらどうする。そんなことを考えていると彼女が戻ってきた。

「さて、もう出ようか。さっき途中にあったファミマでさ、アイス買って公園でも行かない?」
 スマホの画面が21:00を映し出した。

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