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こういう人間

「わたしは、こういう人間だから」
 彼女は、背筋をぴんと伸ばして、目を見開いて叫んだ。「こういう」と言うときに両手を広げている様子は、まるで子どもが抱っこをせがむときのようで、つい抱きかかえたくなる。しかし、3歳の娘の母である彼女を抱っこする理由はない。

 こういう人間と言われて「どんな人間?」なんて野暮な返しはしない。そう、彼女はそういう人間だから。自分の欲求に素直で、自分の欲望が最優先で、体の中が自分でいっぱい。抱っこポーズは、自分で自分を抱えきれないと言っているように見えるほど、清々しく自分で満たされている人間だ。

 とはいえ、本当の彼女はどんな人間なのか、私は自宅の各部屋に隠しカメラを設置した。

 娘を突き飛ばす彼女。あなたがいなければと睨みつける彼女。娘の腕を捻り上げる彼女。泣きじゃくる娘を無視し続ける彼女。娘を引きずる彼女。娘を保育園に預けて男と抱き合う彼女。
 そんな彼女が記録されていた。そういう人間がそこにいた。

「わたしは、こういう人間だから!」
 映像を見せた彼女は、何度も聞いたその言葉を叫んだ。
 私の耳に彼女の高い声が響いて、鼻には男の香水と混ざりあった体臭が届き、目にはあの抱っこポーズが映っている。
 私は思わず彼女を抱っこした。そして、そのまま床に叩きつけた。
 背筋をぴんと伸ばして、目を見開いて、まだ抱っこポーズのままの彼女に私は囁いた。
「私は、こういう人間だから」

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