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毎日読書メモ

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2022年2月の記事一覧

毎日読書メモ(259)『皆のあらばしり』(乗代雄介)

毎日読書メモ(259)『皆のあらばしり』(乗代雄介)

『旅する練習』で三島賞を取り、芥川賞の有力候補ともなった乗代雄介の、三島賞受賞第一作となる、『皆のあらばしり』(新潮社)を読んだ。表紙からして不思議。まるで、コウテイペンギンが遠くから巨大などこでもドアを眺めているような絵は、猪瀬直哉”Melancholia”という絵らしい。
物語はもっと不思議。栃木市の皆川城址でフィールドワークをしている、歴史研究部の高校生が、他に誰もいないような城址公園でばっ

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毎日読書メモ(258)『リンさんの小さな子』(フィリップ・クローデル)

毎日読書メモ(258)『リンさんの小さな子』(フィリップ・クローデル)

フィリップ・クローデル『リンさんの小さな子』(高橋啓訳、みすず書房)についての過去の読書記録。フィリップ・クローデルは1962年生まれのフランスの小説家・映画監督。

人に勧められて図書館で借りてみた。土地の名の固有名詞なしに、船に6週間も乗って、戦火の祖国から難民として文化の全く違う国に移ったリンさんと、息子の忘れ形見の赤ん坊。その赤ん坊だけに向き合い、他に目を向けなかったリンさんが、公園で出会

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毎日読書メモ(257)『南鳥島特別航路』(池澤夏樹)

毎日読書メモ(257)『南鳥島特別航路』(池澤夏樹)

父の本棚シリーズ。実家に行っては、昨夏亡くなった父の本棚から、興味深そうな本を抜いてきて、少しずつ読んでいる(これは供養なのか?)。
本の整理をしながら、父はこんなことに興味を持っていたんだな、とか考えているのだが、池澤夏樹『南鳥島特別航路』が出てきて、ふと手が止まる。父はなんで池澤夏樹買ったのかな? 好きな作家の本なら、どんどん買う人だったので、好きと思ったら何冊も著作が並んでいるんだけど、池澤

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毎日読書メモ(256)『自分で名付ける』(松田青子)

毎日読書メモ(256)『自分で名付ける』(松田青子)

半年くらい、部屋の隅で積読状態になっていた、松田青子『自分で名付ける』(集英社)をようやく読んだ。「小説すばる」に2020年5月から約1年間連載されていた、出産、育児を主なテーマとしたエッセイ。
子どもを産み、育てるということは、きわめて個人的で、一人ずつ、置かれた環境や思うことが本当にばらばらで、それぞれにこだわりがあり、語りだすと止まらないようなことだ。わたしが出産、育児をしていたのはもう25

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毎日読書メモ(255)『活版印刷三日月堂 空色の冊子』(ほしおさなえ)

毎日読書メモ(255)『活版印刷三日月堂 空色の冊子』(ほしおさなえ)

ほしおさなえ『活版印刷三日月堂 空色の冊子』(ポプラ社文庫)、全4冊16エピソードで完了した活版印刷三日月堂シリーズを補完する番外編。これまで1冊に4つのエピソードだったのが、もっと細かい7つのエピソードで、これまでに出てきた登場人物の、もっと細かい物語を付け加えている。「我らの西部劇」の作者の片山、月子の父修平と母カナコの思い出、弓子の祖父母、カナコの大学時代の友人、三日月堂と取引のあった和紙店

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毎日読書メモ(254)樋口毅宏さん@ハイシスタ(Hi Sista)オンラインイベント

毎日読書メモ(254)樋口毅宏さん@ハイシスタ(Hi Sista)オンラインイベント

昨日(2022/2/20)、朝日新聞Hi Sistaのオンラインイベントで、樋口毅宏さんのトークライブを聴いた。
オンラインイベント「『普通』にさようなら ~パートナーシップとルッキズム~」第1回「今とこれからのパートナーシップ」
朝日新聞記者田中ゑれ奈さんが進行役。妻三輪記子さんとの出逢いから、結婚、出産、家庭内での役割分担等。内容的にはずっと、cakesの「Baby Don't cry 〜赤ち

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毎日読書メモ(253)『ミーナの行進』(小川洋子)

毎日読書メモ(253)『ミーナの行進』(小川洋子)

今日で北京オリンピック閉幕。ということで、オリンピックつながりで、小川洋子『ミーナの行進』(中央公論社、現在は中公文庫)。単行本の挿絵がとてもきれいなので、文庫でなく単行本を見ることをお勧めしたいです。
1968年のオリンピック時点では物心ついていなかったので、わたしの記憶の中のオリンピックは、1972年の冬のオリンピック(札幌)→夏のオリンピック(ミュンヘン)から。ミュンヘンオリンピックはオリン

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毎日読書メモ(252)『キアズマ』(近藤史恵)

毎日読書メモ(252)『キアズマ』(近藤史恵)

近藤史恵、色んな作風の作品があるけれど、最初はとにかく『サクリファイス』に心を撃ちぬかれた。『キアズマ』(新潮文庫)も自転車レースものだが、『サクリファイス』に始まるチカ物とはちょっと系統が違う。しかしこれはこれで別の味わいが。過去の読書メモより発掘。

近藤史恵のサイクルレースものは実にいい! 『サクリファイス』や『エデン』で戦慄したのとは違った種類の、白熱する気持ち。初心者の大学生が、自転車の

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毎日読書メモ(251)コンサートに行って、『ぞうのババール』と「インドのとらがり」を読む

毎日読書メモ(251)コンサートに行って、『ぞうのババール』と「インドのとらがり」を読む

昨日(2002/2/17)、すみだトリフォニーホール小ホールで、「新日本フィルハーモニー交響楽団・室内楽シリーズXVIII~楽団員プロデューサー編~My Favorite Songs」を聴いてきた。新日フィルコントラバス奏者の村松裕子さんがプロデュースしたコンサートは、通常弦楽四重奏だとコントラバスは含まれないから、と、コントラバスの入った編成に編曲した、フランス音楽の数々。村松さんご自身の編曲し

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毎日読書メモ(250)『モダン』(原田マハ)

毎日読書メモ(250)『モダン』(原田マハ)

実家に帰って、父の本棚にあった原田マハ『モダン』(文春文庫)を読んだ。ニューヨークのMoMA(近代美術館)を舞台にした、5つの短編からなる作品集。主役はMoMAそのものである同時に、MoMAで働く人々。原田マハの他の作品と同様、史実と違うフィクションを物語の中心に据えてはいるが、狂言回しとなる美術作品はすべて実在のものなので、検索しなくてもわかるアンドリュー・ワイエス『クリスチーナの世界』、ピカソ

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毎日読書メモ(249)『枕もとに靴 ああ無情の泥酔日記』(北大路公子)

毎日読書メモ(249)『枕もとに靴 ああ無情の泥酔日記』(北大路公子)

昨年以来マイブームの北大路公子、ようやくデビュー作となる『枕もとに靴 ああ無情の泥酔日記』(増補新装版、寿郎社)を読んだ。寿郎社は札幌の出版社。札幌でフリーライターをしながらウェブ日記を書いていたモヘジ(当時のハンドル)を発掘し、北大路公子というペンネームをつけ、『枕もとに靴』を刊行し、それがその後の活躍につながった模様(公子、は日本ハムに由来しているそうだ)。
(元々は上正路理砂というペンネーム

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毎日読書メモ(248)歌野正午メモ

毎日読書メモ(248)歌野正午メモ

歌野正午にはまっていた頃に、感想メモをまとめていたのを見つけたのでそのまま再掲(2005年12月の記録)。

友達に借りていた『正月十一日、鏡殺し』(講談社文庫)を読んだ。短編集なんだけど、どれもあっと驚かされる仕掛けの施されたミステリー。

歌野晶午の名前を一気に有名にしたのは、2003年「このミステリーがすごい!」で年間1位に選ばれた『葉桜の季節に君を想うということ』(文春文庫)。わたしも初め

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毎日読書メモ(247)『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介)

毎日読書メモ(247)『向日葵の咲かない夏』(道尾秀介)

一時、道尾秀介を必死に読んだ時期があった。『向日葵の咲かない夏』が話題になっていて、それが文庫本(新潮文庫)になったときに読んだ。
一人称の語り手のブラフを疑って読め、と、何作か読んでわかったが、わかって読んでもまだ裏切られる、その技量に毎回驚かされた。

ブラフがこの人の持ち味なので、ずっと色んな事を疑いながら読んでいたが(登場人物少ないし、そもそも疑える対象が少ない)、それでも、この展開には驚

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毎日読書メモ(246)『ニキの屈辱』(山崎ナオコーラ)

毎日読書メモ(246)『ニキの屈辱』(山崎ナオコーラ)

山崎ナオコーラのことがもっとわかりたい、と思って、『ニキの屈辱』(河出書房新社、現在は河出文庫)を読んでみた。
若くして名声を得た写真家ニキと、アシスタント募集に応募して、ニキのそばにいるようになった加賀美の恋愛物語。基本的に、ニキと加賀美、二人しか出てこない小説。ひたすらに二人の関係性と、写真という芸術に向き合う態度だけが描かれる。
立場的にはニキが圧倒的に強く、加賀美は決して逆らわない。最初は

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