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小説書いてます

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小説(短編・超短編)・詩・散文詩・日記等、文芸(風)の作品を集めました。
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記事一覧

男たちの月見(1700字小説・コンテスト用)

男たちの月見(1700字小説・コンテスト用)

小説の同人誌のメンバー武井・藤井・森川の3人で月見をやろうということになった。

小説の同人誌なんかをやってるくらいだから3人とも会社の仕事を頑張ったりする人ではなく、いわゆるうだつの上がらない人たちだった。

3人とも50に近かった。

一応ホームセンターで売ってた団子を乗せるあの台を用意して、スーパーで売ってた見切り品の団子をそこに載せた。

場所はちょい田舎にある見晴らしのよい武井の家になっ

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紅茶のある風景①

紅茶のある風景①

「生姜を入れるとおいしくなるというわけね」

新聞でロイヤルミルクティーの入れ方というのを読んだ。

水に生姜を入れ、それを煮たす。

ティーポットにそれを注ぐ。

ミルクを温め、ティーカップにそれぞれを注ぐ。

少し蒸らして、シナモンをふりかける。

「う~ん、いい香り!」

春江のミルクティーも進化してきた。
最所はティーバッグで淹れた紅茶に脱脂粉乳に近いパウダーを入れるだけだった。
それが、

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紅茶のある風景②

紅茶のある風景②

場所は駅から近い小ビルにある軽喫茶を指定してきた。
7年前たかしと私が初めてお茶した場所だった。
その時の案件は、恋愛の相談に乗って欲しいという絶望的にバカバカしいモノだったが、それに付き合った私は結局たかしとつき合うことになった。

あれから7年、あの時と全く同じ席に座っている。
外を眺めてみると、歩道橋の先のビルが取り壊され、新しいビルを建築中だ。おかげで、さらにその先にある駅舎が丸見えになっ

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短編小説「バレリーナたちの青春―前編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

短編小説「バレリーナたちの青春―前編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

東京神田にTYGというバレリーナ養成学校がある。

今日もわたしはそこへ通う。

わたしがそれを望んだというより、よくあるはなしだが親にその道を歩まされてるにすぎない。

それほど才能があるというわけでもないということにだんだん気づきはじめたわたしにはこうして学校に通うことにもちろん少し迷いが生じている。

しかし幼少の頃から続けているバレエとその練習がどうやらそんなに嫌いでもないらしい。

練習

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短編小説「バレリーナたちの青春―中編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

短編小説「バレリーナたちの青春―中編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

(前回までのあらすじ)東京神田のバレリーナ養成学校に通う理沙は一番できる練習生裕美を励みにしていたが、辞めたい気持ちも半分くらいある。練習後、理沙は控え室で美亜たちとぶっちゃけばなしで盛り上がる。
(リンクはこちら)

(本文)
3日経ったある日、マネージャーの春日部が駆け込んでくる。

「大変だ、今度の公演が中止になったんだ。前売りの売れ行きが悪すぎるんだ」
突然…(というわけでも実はないのだが

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短編小説「バレリーナたちの青春―後編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

短編小説「バレリーナたちの青春―後編」(使い捨てコンテンツと芸術の狭間で)

(前回までのあらすじ)理沙は神田にあるバレリーナ養成学校に通う練習生で、優秀な裕美を励みにしている。ある日、マネージャーの春日部が次回公演が中止になる報告のため控え室に飛び込んでくる。突然大雨が降り出し、理沙とその仲間はマネージャーと雨宿りをするため控え室で盛り上がる。
(前編リンクはこちら)
(中編リンクはこちら)

(本文)
何日か経ったある日の午後のこと、買い物に行く途中で裕美にばったり出会

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夏祭り(神輿祭り)の思い出…

夏祭り(神輿祭り)の思い出…

扇風機しかない私の部屋に賑やかな囃子の音が聞こえてくる。

どんどこ、どんどこ、どんひゃらら、トンっ、

どんどこ、どんどこ、どんひゃらら、トンっ、

神輿祭りをやっているようだ。

夏っぽい風情のその定型文っぽいいつもの感じが不思議な安堵を催す。

もっとも、ストレスいっぱいの個人がいれば、ひょっとすると今日ではこういった夏の風物詩もただうるさいと感じる個人がいても不思議ではない。

団地の部屋

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「バス停」 …散文詩(過去記事マガジンおまけ記事vol.2)

「バス停」 …散文詩(過去記事マガジンおまけ記事vol.2)

見渡す限りのコンクリート

工場の煙突から出る煙を遮るように太陽が射す。

バスを待っていた。

自分は今日も学校へ行く。

高校生になったのだ。もう歩いて学校へは通わない。

そのうち自分はバスを待ってるのじゃないことに気が付いた。

必ず、自分とのあいだに、一人か二人はさんだ後ろに並ぶセーラー服の学生を心待ちにしていることに気づいた。

彼女は、自分のうしろに直接並ぶことはなかったし、自分もま

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昭和の面影を見つけて(過去記事マガジンおまけ記事vol.3)

昭和の面影を見つけて(過去記事マガジンおまけ記事vol.3)

派遣バイトで、夕方6時過ぎにある大きめのターミナル駅に着いた。

自分はアラフィフで会社を辞めて、派遣バイトなんかをやっている。

その日は、夜7時から朝にかけての仕事だった。

夕方だから沢山の人が行きかっている(例の騒ぎより前のはなしです)

やっぱり腹ごしらえをする必要がある。

この界隈だと選択肢は結構あるのだが、通りのはずれにある牛丼店が脳裏を掠め、結局そこに落ち着いた。

その街は、あ

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マラソンランナー型と循環型の再会 (短編小説─過去記事マガジンおまけ記事vol.4)

マラソンランナー型と循環型の再会 (短編小説─過去記事マガジンおまけ記事vol.4)

扇谷悟はロックンローラーだった。

いや、今でもやり続けている。

本名ではなく、その世界ではミッシー・森を名乗っている。

若い頃は、そこそこ名の知れたロックバンドのギタリストだった。

そのバンドは、ボーカルKATSUの艶やかな容姿とカリスマ性で持ってるようなものだった。

自分に酔いしれてしまっているKATSUの要求にだんだん違和を感じるようになり、いよいよバンドがこれからだというときにミッ

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そんなに売れるというわけでもない商いにも意味がないわけではない─2000字小説

ニューヨークのスラムというほどではないが、やや錆びれた裏通りといっても差し支えないストリートにあるアパートの入口に老人は腰を下ろしていた。
老人は商いをしているようだった。
痩せさらばえたその老人の斜め下を見下げるような眼差しはやや険しかった。
老人は黙りこくっている。

四つ向こうのストリートにはタクシーや人の往来がはげしく、ニューヨーカーといわれる人たちが速足ですり抜けていた。

その大通りか

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優等生香利奈の不安(1400字小説)

優等生香利奈の不安(1400字小説)

校内テストの成績が貼り出されている。
わたしが2位で、わたしと付き合ってる慶太郎は8位にランクされている。
1位は、がり勉オタクの佐和というやつだ。
なにをどうやってもこいつには敵わない。
でもわたしは、お風呂の中でまで参考書を読んでいるという佐和にどうしても勝ちたいとはあまり思わなかった。
こんだけ勉強した揚げ句、大学を卒業したらフツーに役人になるのだろうか?
わたしは、学校の同級生女子のあいだ

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ある中年男からの手紙(2700字小説)

ある中年男からの手紙(2700字小説)

法廷記者馬場の住むアパートのポストに差出人不明の手紙が入っていた。

ロクな手紙じゃなさそうだ。

それはそうに決まってるが中身を読まずに屑かご行きはためらわれた。

仮にもわたしは記者なのだ。

私宛に送られてきた文字の羅列を、それを読んでみる前から屑かごに放るなど、記者魂とでもいうものがそれを許さなかった。

開けてみよう。

読んでみると、そんなにムカムカするものとかではなかった。

以下そ

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人生初カラオケの思い出

人生初カラオケの思い出

20代の大半を引きこもりとして過ごした自分も、30前後にどうやらバイトをやるくらいには回復した。

短期バイトのリピートをしているうちに、そこの社員さんに気に入られ、パート契約することになり、気が付くと、パートリーダーみたいな地位(?)になるのに2年かからなかったから、僕の社会復帰はそこそこうまくいってたのかもしれない。

リーダーは、短期バイトのお世話をしたりしなければならない。

部署外の短期

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