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『ちいさな村の ちいさな愛しい物語』

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ちいさな村をめぐる ささやかだけど ほんとうのこと。
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朝の電話/ちいさな村の ちいさな愛しい物語①

朝の電話/ちいさな村の ちいさな愛しい物語①

“もしもし

あのねえ
宛名書いてもらいたいから
これから行きますから”
(がちゃん)

梅雨の合間の
少しだけ青空が見えた朝
電話が鳴りました

仲良しのおばあちゃんです

このおばあちゃんは
お耳がとても遠く
受話器の向こうの人の声は
聴こえないのですって

だから
待ってるねーとお返事したけど
おばあちゃんは知りません

もし聴こえるなら
わたしが行くから待っててね
と言いたかったのですが

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微笑み/ちいさな村の ちいさな愛しい物語②

微笑み/ちいさな村の ちいさな愛しい物語②

あれっと思ったのは
その人が去った後でした

その郵便配達員さんは
たまたま玄関先にいたわたしに
郵便物を手渡して下さったのですが
何かが違いました

その人は
微笑んでいたのです

お忙しいであろうに
静かな動作で

郵便物を届けることに
よろこびを感じておられる
そんな微笑みでした

それ以来
自宅のポストを覗くことが
以前にも増して楽しみになりました

郵便物を見つけるたびに
その人の微笑み

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遺影/ちいさな村の ちいさな愛しい物語③

遺影/ちいさな村の ちいさな愛しい物語③

仲良しのおばあちゃん(102歳)から
お電話がありました

何かご用があるようですが
いつもの声と少しちがいます

伺ったわたしに
おばあちゃんは言いました

「遺影を選んでほしいの」

おばあちゃんは
自分らしい最期の時のために
ひとつひとつ
支度を始められたのです

遺影は、もちろん
ご家族の皆さんで
決められることですが

せっかくのお気持ちだから
用意していてくれた写真を
一緒に拝見

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この春の花/ちいさな村の ちいさな愛しい物語④

この春の花/ちいさな村の ちいさな愛しい物語④

息子とふたり
近くの森を歩いていました

春を見つけよう

森はかぐわしく
始まりの希望に満ちています

あ、桜だ
もう咲いてる

山桜だね

蕾がいいね
咲こうと頑張ってる

この白いのは
キクザキイチゲだ

こっち
紫のもあるよ

嬉しそうに写真を撮る息子の
その横顔を見ながら
思い出していました

わたしが2年前
お医者さんに言われた言葉

「見えなくなることも
 あるかもしれません」

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