マガジンのカバー画像

作品群 弔い酒

10
慕い偲ぶ。迎え送る。死者の弔いと魂の行列。爺さんの話。
運営しているクリエイター

記事一覧

作品群 弔い酒 編集後記

ご覧いただきありがとうございます。

かむりりです。

作品群“弔い酒”、無事に編集後記まで到着することができました。お付き合い頂いた皆さん本当にありがとうございました。

今回も一連の記事は単体で読んで頂いても、ばらばらに読んで頂いても、順に読んで頂いても構わないつくりになっています。本記事末尾にも記載があります。詳しくはそちらをご覧ください。

ついに書くことができました。
書きたいような書き

もっとみる

御霊

この胸に住む貴方。

貴方と話したくて拝む。

写真を見て手を合わせて祈る。

毎日の日課だよ。

同じ写真なのに毎日違ってみえるよ。

いつもちゃんと返してくれるんだよ。

毎月墓参りに行くよ。

来たら「来たよ」と言うよ。

帰るときは「また来るよ」と言うよ。

月日が流れて少しずつ頻度が減ってきたね。

こっちの都合で会いに来てごめんね。

貴方を側に感じたいだけだよ。

灯籠流し

濃い橙が水面に揺らめいている。

想われる人の数だけの灯り。

濃い橙は濃い紺によく映える。

少しずつ川を下る。

濃い紺には天と地の境が視え無い。

川は天まで上っている。

その静けさが一点に集合していく。

死者の弔いと魂の行列。

岸を隔てて異なる時間が流れている。

もう異なる貴方の同じ幸せを祈っている。

手を合わせる。

私達はまた逢える。

こんなにも近くにいる。

その温もりの

もっとみる

彩やかな世界

遠くで蝉が鳴いている。

空は遠く深く浅い青。

雲は目が明く程の立体。

鬱蒼と迫りくる緑は濃い。

爺さんが亡くなった日は冬だった。

色もなく雲の厚い日だった。

亡くなった人を偲ぶ。

お盆が夏で良かった。

こんなにも色彩が眩しい。

こんなにも世界の輪郭を感じられる。

魂の帰る場所

爺さんが亡くなった。

ついさっき。亡くなった。

亡くなった爺さんの身体を乗せる車も来た。

これから爺さんを連れて家に帰る。

病院のスタッフは言った。

まだ爺さんは魂だけの状態に慣れていないから、

その場所に魂を置いて行かないように、

家族の誰かがちゃんと声をかけて、

魂も連れて行ってあげなきゃいけない。

スッと何かが腑に落ちた気がした。

これもなにかの巡り合わせだとわかった。

もっとみる

その時

電話を終えた婆さんと私は病院へ向かった。

婆さんの運転。

私は助手席で家族親戚に電話をかけ続けた。

何度も何度も婆さんを励ました。

希望を捨ててほしくはなかった。

いや、私が信じたくなかった。

私の予感を。私の確信を。私の焦りを。絶望を。

全部全部私の思い過ごし。そう思いたかった。

まだそう信じたかった。

最後まで婆さんの側で、爺さんを想っていたかった。

不安

翌朝、強烈な胸騒ぎで目が覚めた。

急いで飛び起き、婆さんに聞いた。

「じいちゃんはどうしたの?」と。

婆さんは応えた。

「釣りに行ったよ。」と。

前日の嫌な感覚は肥大し、明瞭にそこにあった。

私はさらに聞いた。

「自分で運転して行ったの?」と。

婆さんは応えた。

「私が送って行ったよ。」と。

婆さんは続けて言った。

「運転の心配ないから、今頃楽しく飲みながら釣りしてるんじゃな

もっとみる

予感

それは前日のこと。

婆さんと爺さんと私は、近所のイルミネーションを見に行った。12月22日のことだった。

冬だけど外はそれほど寒くはなかった。

ひとつだけ違和感があった。

最近元気のなかった爺さんが、変に明るく振る舞っているのがわかった。

爺さんと婆さんは言った。

「来年もまた来ようね。」と。

私にはわかった。その日が来ないことを。

理由は分からなかった。

考えたところで理由はな

もっとみる

恐れ

今生の敵。
勇気の対義語。
恐れるから恐れられ、
気を遣うから気を遣われる。
助けを求めないから助けられず、
手を伸ばさないから手が届かない。
予感が現実になると既に気付いていること。それを変えられないと既に気付いていること。あるいは変えるための行動に移すことはできないと既に気付いていること。あるいは行動に移すことはしないと既に気付いていること。あるいはしてはいけないと既に気付いていること。既知の

もっとみる

弔い酒

貴方を思って酒を飲むよ。

みんな笑っているよ。

みんなで爺さんの話をしている。

優しい人だったとか。

若いときはイケメンだったとか。

釣りと酒が好きだったとか。

婆さんは嬉しいような切ないような顔をしている。

泣いているような、笑っているような。

今まで見たことのない顔をしているよ。