マガジンのカバー画像

ひねくれ偏食家の、読書挑戦録

57
「流行っているものは読まない」と意地をはってきた、ひねくれ者(偏食もち)が、本を読み、世界を広げて行く過程の記録もろもろ。 他にも、読書や本に関するエッセイ・コラムを集めています
運営しているクリエイター

#1日1エッセイ

中山七里さん『おやすみラフマニノフ』を読んだ

中山七里さん『おやすみラフマニノフ』を読んだ

「これにしたら?」

 そんな直感が、図書館の書架からその本を選び取らせた。

 中山七里さんの『おやすみラフマニノフ』である。

 

 彼(男性であることも、ついさっき知った)の作品で、ちゃんと読んだのは二冊だけだ。

 『おやすみラフマニノフ』と同じ岬シリーズの一作目『さよならドビュッシー』と、悪女ものの『嗤う淑女』。

 『さよならドビュッシー』は、読後感があまり良くなかったせいか、続編が

もっとみる
読書メモ~北方謙三『虹暈 チンギス紀(三)』より

読書メモ~北方謙三『虹暈 チンギス紀(三)』より

 小説などを読んでいると、たまにドキリとさせられたり、深く深く刺さる言葉にぶつかることがある。

 今回は北方謙三さんの『チンギス紀』シリーズ3巻から。

「強さそのものには、意味はない。その強さをどう遣うかということで、意味らしいものが生まれるだけだ」(p.54)

 強力な五十騎の兵を率いる謎の老人、玄翁の台詞だ。

 強さ、力をどう遣うか。その観点で見ることは、キャラクターの分析などにも使え

もっとみる
「過去型」と「未来型」~三宅香帆さん『バズる文章教室』を読みながら

「過去型」と「未来型」~三宅香帆さん『バズる文章教室』を読みながら

 少し大きめの書店に行くと、必ず足が向いてしまうのが、文章や小説の書き方についての本が集まるコーナーである。つい先日も、なにげなく足を向けたジュンク堂書店で、平置きされていたこの本を見つけてしまった。

 「バズる」…つまりは、ネットなどで爆発的に広まること、認知されること。私自身、文章書きの端くれとして、夢見ても見足りない現象である。

 即座に購入したのは言うまでもない。今日も出勤中の電車の中

もっとみる
仏像を見に行く人にオススメしたい本4冊

仏像を見に行く人にオススメしたい本4冊


 仏像、と一口に言っても、様々だ。
 悟りの境地に達した如来、しなやかに体をくねらせ、アクセサリーをふんだんにつけた菩薩、武器を手にした恐ろしげな明王。
 時代によって、また国によって顔が違うのも面白い。(父が出張先のミャンマーで撮った仏像は、アウンサン=スーチーさんにどことなく似ていた)

 そんな仏像を見て回りたい人に、僭越ながら是非読んで欲しいと思う本がいくつかある。

・真船きょうこ『仏

もっとみる
澤田瞳子さん『龍華記』読了

澤田瞳子さん『龍華記』読了

 いやあ、すごいものを読んだな…

 昨日の夜から読み始めて一息に半分、そして今朝はその残りを、あっという間に駆け抜けてしまった。

 書かれているのは、平家による南都焼き討ちと、そこからの興福寺の復興、関わった人々の懺悔と苦悩、そして救いを求めて生きる姿だ。

 その中に、メインの主人公である悪僧範長と、その従弟で別当として高い身分にいる信円とが配置され、対比される。

 範長は、摂関家という貴

もっとみる
一日に一つ、短編小説を読もう

一日に一つ、短編小説を読もう

 連作短編を書きたい、と思うなら、やはり「短編小説」というものについて、今一度見直したい。

 そう思い立って、本棚を見渡したが、見事なまでに分厚い文庫本ばかりが並んでいる。上下からなる二巻本はざら。四巻からなる深緑の背表紙の本は、宮城谷昌光さんの『楽毅』と『妟子』。

 そして、最近話題になった本、ベストセラーというものが見当たらない。

 単行本は高いから、あまり買いたくない。みんなが買うから

もっとみる
甘い毒~米沢穂信さん、『儚い羊たちの祝宴』読了(ネタバレなし)

甘い毒~米沢穂信さん、『儚い羊たちの祝宴』読了(ネタバレなし)

 果物を盛り付けた籠か。

 それとも、美しい石を連ねたネックレスかブレスレットか。

 米澤穂信さんの『儚い羊たちの祝宴』を、例えるならば後者の方が良いかもしれない。

 連作短編という形式を持つのが一つ。

 個々の話は独立して読むこともできるが、「バベルの会」という読書会が透明な糸(テグス)となって、緩やかに繋がっている。

 「バベルの会」とは、夢想家のお嬢様たちが集まる読書サークルだ。

もっとみる
就活中に読みたかった本

就活中に読みたかった本

 就活中に、あるいは、就活をすると決めた時に、この本に出会えていたならなあ。

 そう思えるのは、それが既に過ぎ去った事だからだ。

 蛙の腹を切り開いて、内臓の位置を確かめるように、「過去」についてなら、心構えさえちゃんと整っていれば、冷静に向き合って、分析することは不可能ではない。

 社会に出て「働く」、ということの意味は何だろう。

 お金のためもあるかもしれない。

 生きていれば、楽し

もっとみる
パンドラの箱~池井戸潤『七つの会議』

パンドラの箱~池井戸潤『七つの会議』

 始まりは、パワハラの告発だった。

 誰もが認める会社の稼ぎ頭であるエリート課長・坂戸を、「居眠り八角」と呼ばれる万年係長・八角が訴えて出た。

 役員会が、どちらの肩を持つか、は自明とも言えた。

 しかし、役員会が下した決定は、その予想を大きく裏切るものだった。

 一体なぜそんなことになった?

 坂戸の後任となった、原島が八角に問う。

 その答えは、大掛かりな会社の「闇」とも言うべき内

もっとみる
木下昌輝さん『絵金、闇を塗る』を読みながら

木下昌輝さん『絵金、闇を塗る』を読みながら

 木下昌輝さんの『絵金、闇を塗る』を土曜日から読み始めた。

 江戸時代末期、土佐の「剃」と呼ばれる髪結いの子供として生まれた少年絵金が、才能を見出されて狩野派に弟子入り、天才絵師としてもてはやされるも、独自の美を追求し続ける……

 絵金という人については、名前と血なまぐさい絵を描く人、ということしか知らない。(どうして、美術史を見渡していると、このようなグロテスクで血なまぐさい絵を描く人が、時

もっとみる
原田マハさん「群青 The Color of Life」(『常設展示室』)覚え書き

原田マハさん「群青 The Color of Life」(『常設展示室』)覚え書き

「朝、目覚めると、世界が窮屈になっていた」

 原田マハさんの短編集『常設展示室』の冒頭におかれた『群青』は、このようなカフカの『変身』を思わせる文章で始まる。

 主人公は、メトロポリタン美術館(メット)で働く日本人キュレーター美青(みさお)。

 子供時代からの夢の場所だったメットで働く彼女を、突如襲った異変―――その正体は、緑内障だった。

 

 そんな美青が、病院で出会う少女パメラ。彼女

もっとみる
継続は力になるということか?

継続は力になるということか?

 一日に一個は短編を読もう。

 思い立ったが吉日、と早速動いたのが6月半ば。

 そして、気が付けば1か月近く経っている。

 その間、毎日欠かさず一篇は読んでいた。仕事に行く途中の電車の中だったり、ベッドで寝転びながらだったり。

 この習慣は、例えるなら身に着けて行くうちに柔らかくなった時計の革ベルトのようだ。それが無いと、「何か足りない」という感覚がある。

 そして、何でも良いから、眼に

もっとみる